第8話 護衛依頼
隣国の城壁に着き、私はギルドカードで、男は何やら門番と少し話をして門を通った。賄賂とか渡してないよな? 私は知らんぞ。何も見てないからな。
城壁を越えれば思いの外すぐに村に着く事ができた。迂回せずまっすぐ進むとなればやはり馬車の方が早い。男の事は置いておいて、案外途中から馬車に乗れたのは運が良かったかもしれない。私は断じて中の男とは関係ないので何かあってもシラを切るつもりでいるが。
「村に着いたぞ、私が同行できるのはここまでだ」
「構わん! 冒険者は信用できんからな、私ももう行かせてもらう! おい、何をボサっとしておるのだ、早く馬車を動かせ!」
「ぁ……は、はぃ……」
少女は静かに立ち上がり手綱を手に持ち、男に言われるがまま馬車を動かした。パシッと手綱を引く音が聞こえると、チラリと一瞬だけ少女がこちらを見たが、すぐに馬車はいってしまった。礼ぐらい言えないのかあの男は。
変に関わると碌な事にならなそうだと一度全て忘れる事にして冒険者ギルドに向かう。当初の目的は冒険者ギルドでの護衛依頼を受け、遺跡があるか調べる事だ。こんなところで道草を食っている時間はない。さっさと向かおう。
〜
冒険者ギルドは思いの外見つけやすかったものの、大きな街ではないからか少し古く見えた。中に入ると思いの外綺麗な内装に感心しながら受付に向かった。珍しい真っ黒な髪がストレートに長く伸びている。
「この村に遺跡までの護衛依頼があると聞いたんだが、受けられるか?」
「はい、可能ですよ。ただ……その、条件が少々……」
苦笑いで言い淀む受付嬢。依頼内容の書かれた紙を取り出してこちらに向けてみせる。書かれていた内容は確かに護衛依頼だが、確かにこれは……
「依頼はCランク以上、報酬は銀貨三枚。依頼内容は遺跡周辺の探索、遺跡までの護衛……確かにこれは条件が悪いな」
「はい。今のところ、この依頼を受ける方もいらっしゃらなくて……ただ、今日明日あたりには依頼主がこの村に到着されるとの事で、受けていただけると大変ありがたいのですが……」
「構いません、受けます」
「ありがとうございます! それでは、ギルドカードをお預かりしますね」
これはギルドにとっても困った依頼主だろう。Cランクは中堅冒険者だ、銀貨三枚程度で長期間拘束される依頼なんて誰が受けようと思うのか。明日また冒険者ギルドに来てくださいと言われ、今日のところは一度帰ろうとしたところで、ダンッと少々大袈裟な音を響かせて扉が開いた。
振り返って見てみれば、さっき助けた偉そうな男がズカズカと中に入って来ていた。男の背後には先程の少女もいた。しっかりとした足取りでまっすぐ受付に向かって歩いてくる二人に一瞬嫌な考えが頭を過ぎる。
「おい、私が出した依頼はどうなっている? ちゃんと見つかったんだろうな?」
「遺跡の護衛依頼ですね、丁度先程こちらの方が受けてくださいましたよ。Bランク冒険者のライさんです」
「どうも」
相変わらずの上から目線だが、どうやら私の顔も覚えていないらしい。恩人だろうがせめて顔ぐらい覚えとけ。しかもこいつが遺跡を調べようとしてるのか。どうりで貴族でもないのに金を持っている訳だ。つか、金持ってるなら報酬もっと出せるだろ。
「ひとりか、まぁ良い。明日の朝森まで来い! 絶対に遅れるんじゃないぞ!」
そう言い放ち、男はギルドを出て行った。ここまでくると苛立ちや怒りよりも呆れの方が出てくるものだ。人間性皆無だ、こんな奴が学者で良いのか。
「随分と人間性に難のあるんじゃないか?」
「申し訳ありません、依頼を出した時から終始あの様子でして……それも相まって依頼を受ける方がいらっしゃらなかったんです」
「あぁ、納得だ」
受付嬢ですら呆れ顔で困った様子だ。私にとっては好都合かもしれない。あれだけ性格も悪ければあちらこちらで恨みを買っているだろう。消えたところで問題はなさそうだな。問題があるとしたら少女の方かもしれない。もし何の罪もなく男に連れまわされているのであれば、何かしら対処の必要はありそうだ。
まぁ、その辺は明日以降に考えよう。始まってもいない事でグダグダしていてもしょうがない。あんな男の護衛は嫌だがこれも遺跡を調べるため。今日のところはどこか宿でも取ってゆっくり休もう。流石に一週間近く休みなしに歩きっぱなしは疲れた。
どこか村に美味しい食事屋でもないかな。宿も多少高くても良いから良いところに泊まりたい。安い宿は汚いし臭いしとてもじゃないが休めない。野宿の方がまだマシだ。
ギルドの受付嬢に宿屋の場所と食事ができる場所がないか聞き、村で一番良い宿屋を紹介してもらった。残念な事に村に食事ができる店はないらしい。仕方なしに今日もアイテムボックスにある魔物の肉を焼いて食べた。
宿屋は確かに良いところではあったが、銀貨三枚と少々ぼったくられた気がしないでもなかった。街の宿屋より高かったぞ、どうなってんだ。金はあるから交渉とかめんどくさいし良いやとそのまま泊まる事にした。