第7話 隣国へ
一週間、以前ギルドマスターから紹介された宿屋に泊まりながら、遺跡の情報収集に勤しんだ。結果、得られた成果はほぼゼロ。フェンリルから貰った話と、ギルドで聞いた話以上の事は分からなかった。やはり現地に行くのが一番だ。
ようやく終わった魔物の解体で呼ばれ、微笑みの下に底知れぬ圧を放つ受付嬢に案内されギルドマスターの部屋まで行けば、そこにあったのは積み上がった白金貨と金貨の山。咄嗟にいらないと言い放てば冗談よして早く持ってけと軽くあしらわれた。
途方に暮れながらもアイテムボックスに全て放り込み、さっさと出発すべく受付嬢に最後の挨拶をするもそうですか行ってらっしゃいと軽くあしらわれ終わった。たわわ……
〜
街の出入り口である門に向かい、馬車に乗るかと聞かれたが断って街を出た。金には困っていないから馬車に乗ってもいいが、急いでいるから魔法を使った方が早い。
隣国に行くのに馬車では一度迂回をする。まっすぐ向かうと、道中ドラゴンの巣があるそうだ。戦いにならなければ大丈夫だとまっすぐ隣国まで向かう。流石に距離があったので一日やそこらでは着かないが、馬車より早いはずだ。
隣の国の冒険者ギルドまで噂が届いているという事は、近々遺跡に向かう人間がいるはずだ。どうにか遺跡の調査が進む前に辿り着かないといけない。一人でも遺跡に入って仕舞えば面倒な事になる。
「日が暮れてきたな。野宿するのも良いが早く向かいたいし、飯だけ済ませるか」
魔の森で狩った魔物の肉をいくつかもらっていたから、焼くだけ焼いて晩飯にした。調理なんぞ知らん。急いでる時は火が通ってりゃなんでも良い。昔はショウユがないだの騒ぐ奴もいた気がするが、もう過去の出来事だ。
(そういやショウユってなんだったんだ……)
変に感傷的にならない方が良い。食事が済めばまた歩こう。夜だろうが睡眠だろうが今は時間が惜しいから進むしかない。夜は魔物がそこらを歩き回る。魔物との戦闘をしながら進むより休んだ方が効率がいい。通常なら。
どうせ死にはしないのだから、急ぎたいなら危険でも進む方が良い。歩けば刺さる複数の殺気を無視しながらひたすらに突き進む。時折魔物が襲ってくるが、剣を一振りすれば倒れ、周りの魔物は散っていく。解体やら回収やらは面倒だが、放置した方が面倒なのでとりあえず全てアイテムボックスに放り込んでいく。
寝る間も惜しんで歩き続ければ、五日目にしてようやく人の道に戻ってきた。途中夜中に国境を越える事になり、眠そうな門番達に驚かれて少々時間はかかったが、概ね予定通り辿り着けた。馬車では二週間程の道のりをその半分までに省略できた。このまま道なりに進んでいけば国境だ。
隣国に着いたらまずは冒険者ギルドに行かなくては。さっさと護衛依頼を受けて、休むのはその後だ。村と言っていたが、ギルドマスターの話だと一応冒険者ギルドはあるそうだから、そこに行けば良いはずだ。
本当に古代遺跡かも分からないが、どうしても確認しなければならない。遺跡でなければそれで良し。もし遺跡ならば、早々に全て消し去る必要がある。どんなに貴重な資料だろうが遺物だろうが、消しておかなければ安心できない。
もうすぐ隣国の門が見えてくるところで、何やら騒がしい音が聞こえてくる。魔物でも出たかと思いながら少し小走りで進んでみると、遠くで倒れた馬車が見えた。よく見れば盗賊に襲われているようだった。
できればスルーしたいところだが、残念な事に襲われている馬車がいるのは隣国の門に行く道の途中だ。無視したら後で何を言われるか分からない。気が進まないが、助けた方が良いだろう。
道なりに走り、馬車の側までくると、盗賊であろう男に蹴りを入れる。私に気付いた他の盗賊も襲いかかるが、殴る蹴るで大人しくなった。アイテムボックスから縄を取り出して盗賊達を縛っていく。
馬車の近くに護衛らしき人影がない。さては雇った冒険者に逃げられたな。冒険者は自分の命が第一。依頼が達成できず多少罰金やら罰則があっても命があればどうにでもなる。冒険者ギルドでブラックリストにでも入れられない限りは、いくらでもやり直しは効くわけだ。
「大丈夫かー?」
「だ、誰だお前は!?」
「通りすがりの冒険者だ。にしてもそんな言い方ないだろ」
中にいたのは貴族のような見た目の男と、ひとりの少女だった。男はどこか偉そうで、本当に貴族のようだが、身なりを見るに貴族ではないなさそうだ。金持ちではあるのだろうけど。それに引き換え、少女はボサボサの髪に古い服。どこか萎縮した様子に、奴隷のようだと思ったが、奴隷の首輪や印はない。よく見れば少女は常に男を見ているようだ。
(面倒な奴らを助けたかもしれない)
馬車の向かう先はどうやら同じだったようで、幸いにも逃げていなかった馬で私が馬車を動かす形で向かう事になった。中の男は終始偉そうにしていて、少女はずっと隅で縮こまったまま。けれど相手の事情も知らないまま勝手に突っ込んで行くのは良くない。
(まぁ、もし何か言われればその時考えるか)