第3話 魔の森の調査
翌日、宿を取るのも面倒でまたもや野宿しようかと思っていたところで、ギルドマスターからオススメの宿を教えてもらい、そこに泊まる事にした。串焼きは食えなかったが、代わりにしっかりと夕食を食べる事はできた。銀貨一枚はしたが……。
「よし、行くか」
剣を腰にさし、コートを羽織る。馬車で行く事はできないから、歩きで行く事になる。調査の間寝ないという選択肢もあるが、どの程度時間がかかるかは分からない。野宿と思っておいた方がいい。
街の出入り口である門を出て、魔の森へ歩いていく。確かに冒険者が少ない。元々あった低ランク冒険者の狩場が突然なくなったようだから、冒険者達が他の狩場に行ってしまったのだろう。冒険者は基本拠点を持たず、フラフラとどんな場所にも行く。
だが、今回の稼ぎでしばらくは金に困らなそうだし、ランクも上げてもらえるなら、しばらく失効する事もないだろう。依頼を受けずに旅ができそうだ。
「あれか」
ようやく見えてきた魔の森からは、確かに多くの魔物の気配があった。気配が多過ぎて、何の魔物がどのくらい、どこにいるのかは分からない。森へ足を踏み入れた瞬間、僅かな殺気を感じる。
森の奥へ進むにつれ、殺気は強くなり、魔物の気配が近付いてくる。けれど、冒険者ギルドからの情報とは少し違うように感じる。魔物同士が争っている様子も、形跡もない。
縄張り争いはしていない。だが、そもそもシルバーウルフとブラックウルフは元々この森にいたのだろうか。それなら、この森は最初から低ランク冒険者の狩場にはなっていないはずだ。急に高ランクの魔物が出現するようになったなら、魔素溜まりができたのかもしれない。もしくは……
(やめよう、考えない方が良い)
少し陽が沈んできた。やっぱり馬車での全速力と歩きではかなり違う。森に着いた時点で昼は過ぎていたから、陽が沈んでもおかしくはない。今日はここで野宿だ。とはいえ、晩飯は欲しい。近くの魔物でも狩るか。
丁度良さそうなところに魔物の気配もある。音を立てないよう向かってみれば、そこにいたのはロックバードとコカトリスだった。ラッキーだ、ロックバードの肉は割と美味い。けれどコカトリスはいただけない。毒があるし正直不味い。倒しておいた方が良いが、食べたくはない。木の上からサッと剣を振り下ろしコカトリスの首を落とす。すぐさまロックバードの喉元に剣を突き刺した。
コカトリスはアイテムボックスに入れておき、コートの下に隠してあった短剣でロックバードを解体していく。早く解体しないと、血の匂いに釣られて他の魔物も寄ってくる。さっさと終わらせて早く飯が食いたい。
解体を終えると、さっき見つけた馬車の通った跡のある場所に行く。道中拾っておいた木の枝に魔法で火を付ける。周りに人はいないだろうから、気にする必要はない。
料理ができなくもないが、わざわざ野宿で料理までするのは面倒だ。焚き火で肉を焼き、適当に塩を振って食べる。元の肉が良いから、焼いただけでもそこそこ美味い。腹が膨れるまで食べれば、余った肉をアイテムボックスに入れる。
焚き火の火を消し、近くの木の上に飛び乗る。地面で寝ると寝ている間に魔物に襲われる。前に寝ている間に腕を喰われたことがあって以来木の上で寝る事にしている。もう魔物に喰われるのは懲り懲りだ。
〜
日が登って目に光が刺さる。木の上だとかなり早い時間に起こされる。野宿だから仕方がないといえば仕方がないが。水を出して顔を洗い、アイテムボックスから取り出したタオルで顔を拭く。
「よし、行くか」
馬車が通った道から少し外れ、森の中心部へ向かう。魔物の気配はあるのに、あまり近付いてこない。おかげで楽に森を進めている。だが、中心部手前になると、少しずつ魔物の群れが近付いてきていた。
「ブラックウルフの群れか」
森の中心部手前でブラックウルフの群れに囲まれた。けれど襲ってくる気配がない。ブラックウルフは知能があるはずだ、私との実力差は分かっているはず。
そういえば、ブラックウルフの知能は高く、個体によっては会話も可能なはずだ。群れという事は、ブラックウルフをまとめている魔物がいるはずだ。よくよく観察してみれば、ブラックウルフの後ろにはシルバーウルフの群れが待機していた。
「ブラックウルフ、私は危害を加えるつもりはない。この森を調べに来た。この先へ行かせてもらえないか?」
迷いながらもブラックウルフ達は道を開けてくれる。奥にいたはずのシルバーウルフも道を開けてくれている。そういえば、馬車に乗っていた時も、シルバーウルフ達はブラックウルフを襲おうとはしていなかった。縄張り争いなら、人間に襲われているところを狩る方が効率が良いはずなのに。シルバーウルフは、ブラックウルフと同等かそれ以上の知能を有している。
もうすぐ森の中心部というところで、薄く張られ今にも破れそうな結界を見つけた。結界を壊さないようにそっと中に入ると、澄んだ空気と浄化された土地が広がっていた。
中心部に見えた泉の横に横たわっていた魔物に少し驚く。それと同時に納得もした。この森の中心部へは誰も来た事がなかったのだろう。でなければ、低ランク冒険者の狩場になどなっていなかったはずだ。
そこにいたのは、ブラックウルフとシルバーウルフの長に護られるように眠る、幼いフェンリルだった。