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第2話 依頼を受けて


 依頼達成の報告に冒険者ギルドに向かうと、予定通り上乗せされた報酬が支払われた。当分稼がなくても良さそうだ。今日のところは何か食べて休もうかと思い、ギルドを出ようとしたところでふと受付嬢と目が合う。視線が少しばかり下にずれ、ふたつのたわわな果実が――っといけないいけない。

 赤茶のメガネフレーム越しに見える涙ボクロが印象的な受付嬢。年頃は二十半ばかそこらか。穏やかだが、したたかでもあるその笑顔に、数百年ぶりに故郷においてきた姉の面影を彷彿とさせた。私に姉はいないが。

 ライさんですね、と言われおっと考えてる事がバレたかと思ったが、そうでもないらしい。着いてきて頂けますかと言われ、嫌な予感がしながらも渋々着いていく。


(流石に腹が減ったんだが)


 しばらく何も口にしていない。死にはしないが腹は減る。せめて何か食べてからが良かった。呼び出される謂れはないはずなんだが。そう思いながら連れられるがままギルドの奥へ進んでいく。

 案内されてたどり着いた扉の前に書かれた文字に既にここから立ち去りたくなる。帰って良いですかと聞けば、笑顔のままダメですと言われてしまった。流石荒くれどもの集まる冒険者ギルドの受付嬢、容易に逆らえない。

 目の前に見える文字にはギルドマスターと書いてある。いつの時代も、どのギルドも、そのギルドの長はギルドマスターと呼ばれている。が、本当に呼び出される心当たりがない。まだ護衛依頼しか受けていない駆け出し冒険者のはずなのだが。

 受付嬢のノックに中から返事が聞こえ、扉を開けられた。中にいるのはギルドマスターひとりだけ。見ただけじゃただのおじさんに見えるが、そこそこ強い。昔は冒険者だったのだろう。挨拶もそこそこに椅子に座るように促される。


「さて、面倒な事は好かん。とっとと本題に入ろう。お前さんを呼んだ理由は、コレだ」


 そう言ってテーブルに置かれたのは、冒険者登録をした際に処分を頼んだ前のギルドカードだ。隣町から一晩かからず来たはずだが、どうやってここまで届いたのやら。


「お前が依頼でこちらの街に来るからと、連絡用の転移装置でこっちに送られてきたんだ。お前、これを持ってたんだってな。拾ったのか?」

「いや、元々私が持っていた物だ。もう使えないと言われて、個人で処分するのも面倒だから頼んだんだが、何か問題があったのか?」

「お前なぁ……これは百年以上前のギルドカードだ。そんな物をなんで持ってんのかって話だ」


 ため息混じりにそう言われる。少々不味いことをしたらしい。親から貰ったとか、家にあったとか、そういう言い訳もできなくはないが、使えないと言ってしまった以上、私の物だという事は明白だ。冒険者ギルドは手っ取り早く稼げる分、こういう面倒事があるのが嫌なんだ。


「お前、ライって名前だったな。昔の文献に、名前が載ってるんだよ、不死のライってな。お前の事だな?」

「なんだそれ、そんな通り名みたいなのは知らんが?」

「そりゃお前が知らないだけだ。冒険者ギルドってのは、何度か潰れては誰かが立て直し、潰れては立て直しの繰り返しだ。だが、滅多に潰れるもんじゃない。なのに、潰れたギルドの資料に毎回同じ冒険者の名前があるんだ、ライってな。おまけに特徴も同じだ、ほら」


 資料とやらに書かれているのは、綺麗に描かれた俺の絵。ほんの少し紫ががった髪に左右に入った緑色のメッシュ、黒いコートやマフラー、腰の剣にウエストバック。腰に括り付けた本まで描かれている。なんでこんな絵があるんだ。誰が描いた。特徴まで書く必要はないだろ。


「それで、何か私に用でも?」

「開き直りが早いな」

「下手に誤魔化す方が面倒なんだ」


 主に誤魔化すための説明を考えるのが。わざわざ下手な説明を考えると、後々その設定が自分の首を絞める事になる。私は目的があって旅をしているが、基本的に自由が好きなんだ。


「魔の森の調査を頼みたい。元々は、低ランクの魔物しか出ない場所だったんだが、五年前から突然ブラックウルフとシルバーウルフの縄張り争いが確認され、それ以降他の高ランクの魔物が出没するようになった。原因が分からなくても良い、せめて縄張りの範囲を知りたい。魔の森は、元々低ランク冒険者の狩場だったんだが、最近では低ランクの冒険者の狩場がなくてな、冒険者達が集まらなくなってきた」


 魔の森の調査。確かにあの魔物、今の時代じゃあそこらの冒険者では太刀打ちできない。元々調べたい事もある、魔の森を調べる事自体は構わない。が、安請け合いはできない。一度でも安請け合いすると、後々前は〜とか言い出す奴がいる。面倒事は御免だ。


「報酬は?」

「金貨十枚、それとランクをBまで上げよう。Sでも良いが、急に上げると面倒事がついてくるからな。お前はそういうの嫌なタイプだろ? 後、調査の報告次第で報酬は上乗せするし、魔物の素材も高値で買い取ろう」

「気前がいいな、他にできそうな奴はいないのか?」

「この街にいるAランクパーティーが一度だけ森に入ったが、重症を負って帰ってきた上に、何も成果がなかった。お前でダメなら、あの森には誰も立ち入らせないように通達を出すしかない」


 それはそれは。つまりAランクパーティーという冒険者ギルドでも貴重な冒険者達が魔の森とやらの調査に失敗してますと。んで、魔の森への立ち入りを禁止しようとしていたところに私が来てしまった。面倒事を押し付けられたような気がしなくもないが、報酬も良いし、何より合法的に魔の森の調査ができる。


「分かった、引き受けよう。明日には向かう」

「頼む」


 魔の森が、私の探すものでない事を祈って。

 

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