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第14話 帰宅


 五日後、ようやくギルドから連絡があり、報酬を受け取る事ができた。長かった。調査は無事終了、何も見つかる事なく塞がれた入り口に、中から魔物も出てこられないだろうと言う結論で調査は終了した。

 私は上乗せされた報酬を受け取り、早々にこの村を出た。長居して何か言われては面倒だ。せっかく冒険者の依頼も終わって、今は金にも困っていない。一度帰っても良いかもしれない。


 かつて勇者と共に魔王を倒し、世界を救った。勇者は異世界から召喚され、魔王を倒したら帰りたいと何度も口にしていた。けれど、魔王を倒して得たのは民からの名声と魔王からの■■だった。

 ただ還る方法を探していた。俺はそれを手伝った。例え何年、何十年、何百年と掛かろうと、必ず還る方法を見つけようと。そうして、二人だけの隠居生活が始まった。勇者が異世界から召喚されてそろそろ十年経とうかという頃、還る方法が見つかった。

 その時、俺は勇者に何も言わず、こっそりと魔王からの■■をひとりで引き受けた。この世界の事は任せて、自由に生きれば良いと思った。後悔はない。そんな隠居生活を送っていた場所は、今や私の家として、唯一帰れる場所になっている。


 一度帰ってみよう。短期間で色々あった訳だし、またひとつ、あいつとの約束を守れたはずだから。


 〜


 その家は、誰にも見つからない山の中にある。霧に囲まれ、何も知らずに入った人間は道が分からず迷いながら元来た道を戻る事になる。入る事ができるのは一部の者達だけ。それももうほとんどいない。外からは山がある事も分からないくらいの霧が常にかかっている。普通なら誰も入る事はできない。

 そもそも霧の中をわざわざ進む必要はない。街から出て少し歩き、人気のない場所に出ると転移魔法を使って家まで飛ぶ。そんなに長い間留守にしていた訳ではないが、少し埃が溜まっていた。パッと風魔法で埃を片付け、部屋の手帳に一行書き足す。


 やる事もないし、今日は寝よう。明日起きたら、また遺跡探しだ。


 〜


 ドンドンッと何かを強く叩く音が聞こえた。無視して再び寝ようとすれば、またドンドンと強く叩く音が聞こえた。せっかく寝ていたのにと少し不機嫌気味に起きる。家の戸を開ければ、見覚えのある顔の女性が立っていた。


「はぁ、何のようだフィーヤ」

「何のようだ、じゃありません! いつお帰りになったんです!? 毎回毎回、帰られたら教えてくださいと言っているのに何も言わずにどこかへ行ってしまわれるから、私が訪ねに来るのですよ! 良い加減帰った時くらい知らせてください!」

「あぁもう分かったから、大きな声を出さないでくれ。起き抜けの頭に響く」


 この山に住んでいる竜族のフィーヤ。少し前に行き倒れていた所を助けた、既に滅びたとされる竜族の少女だった。色々あって、元々住んでいた隠れ里を移してこの山に住んでいる。なかなか放っておいてくれず、家に帰った時に見つかるとよくこうやって竜族の里に連れて行こうとする。

 どうしてもどこか面倒になってしまって、こっそり帰ってはこっそりと出掛けていく。今回は見つかってしまった。もう少し寝かせて欲しかったが、見つかってしまった以上、二度寝するのは難しい。


「それで、何のようだ。帰ってきたばっかだから寝たいんだが」

「そんなの決まってるじゃないですか、里に……」

「寝る」

「ダメです。行きますよ」


 寝起きのまま引っ張られて里に連れて行かれそうになる。待て待てと一度止めてせめて着替えさせろと頼んだ。寝起きで髪もボサボサで服も脱ぎっぱなし。着替えだけはさせてもらいたい。ついでに起きるなら顔も洗わせろ。

 フィーヤを一度家に入れ、私は顔を洗って着替える。昨日まで来ていた服は自動で洗う魔導具に放り込み、軽い服に着替える。小さなテーブルの椅子に座るフィーヤに、偶には何か作るかと気紛れに思う。


「フィーヤ、なんか作るから手伝ってくれ。」

「え!? 作ってくれるんですか!」

「何か食べたいのあるか?」

「フレンチトーストが食べたいです!」

「地味に面倒なの選ぶなぁ……ちゃんと手伝えよ?」


 アイテムボックスから卵とパン、砂糖を取り出す。アイテムボックス内は時間が止まる。今度食べようと放置していた食材が知らぬ間に見るも無惨な姿に様変わりしていた事が少なくない。それもあって、食用の物はアイテムボックスに入れている。

 私はそこまで器用な事はできないから、卵を割るのも混ぜるのもフィーヤがやってくれる。取り出した食器はいつの間にか増えている事が多く見覚えのない物ばかり。よくある事なのでもう諦めている。


「フィーヤ、私が前回里に行ってから、何年経った?」

「……ざっと百四十年程でしょうか」

「そうか…………」


 フィーヤは俺の秘密を知る数少ない人物だ。昔助けた時に取引をした。その際に話したのだ。この霧は竜族達が起こしており、俺は方向感覚を惑わせる魔法をこの場所にかけている。既に滅びたとされる竜族を守るために、この山に住まわせている。

 竜族はドラゴンと人間、両方の特性を持ち合わせた種族だ。一説には、ドラゴンと人間が恋に落ちて子供を作り、その子孫が竜族となったと言われている。昔はドラゴンに姿を変えられる者もいたそうだが、今の竜族は力や魔力がドラゴン並みなだけの人間だ。

 だが、寿命が長い。人間とは比べ物にならない程長く生きる。ドラゴンと人間も寿命が違いすぎる。きっと恋をした二人は早々に引き離される事になったのだろう。


 私はもう時間の感覚がほとんどない。基本毎日起きられるおかげで日数を数える事はできる。けれど感覚はない。数えなければどの程度の時が経ったのかすら分からない。例え十年、百年、千年と経とうと、数えてなければ私にとって同じ時間だ。

 フィーヤは、そんな私に時の流れを教えてくれる。あの日フィーヤを助けて、竜族を助け、取引の末にこんな形に落ち着いている。本当は感謝しているし、フィーヤ達竜族が私を慕ってくれている事も分かる。それでも、私と違う時の流れを生き、各々が好きなように生きるその姿が眩しくて、どうしても距離を取ってしまう。


(失う事が……怖い)


 どうしても関わりを薄くしようとする、悪い癖。フィーヤは何とかして里の皆んなと関わらせようとしてくる。有難いけど、怖い。置いていかれたくない。

 烏滸がましい事だとは思う。フィーヤの思いも分かる。取引としてあんな事を頼んだ私に言えることではないのかもしれないけれど、置いていかれる事が怖い、自分で自分の過去を消していくのが怖い、存在が薄れていくのが怖い。


「フィーヤ、悪いけど……」

「また旅に出るんですね」

「悪い、私は……」

「何度も言いますが、戻ってきた時くらい顔を見せてください。ちゃんと、待ってますから。ほら、できましたよ、食べたら里に行きましょう」


 フィーヤの優しさが痛い程心に刺さった。

 

6月15日に日間異世界転生/転移〔ファンタジー〕ランキングで238位ありがとうございます!

他作品にも書きましたが、ランクイン機能によって気が付きました。

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