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第13話 かつての記憶


 正直、面倒だったのはギルドへの報告だった。古代遺跡らしきものはなかったと言う事は簡単だが、学者が来ている以上そう簡単に言っても疑われてしまう。おまけに私が遺跡を壊した跡は残っている。

 だから、魔物の巣であった事にした。遺跡だと思って行ったは良いが、そこは魔物の巣で遺跡らしき物は何もなかった。依頼は遺跡までの護衛だったため、入り口に到着した時点で依頼は完了していたが、着いてこいと言われたため着いて行った。魔物の巣であったため、依頼主は我先にと逃げてしまい、ひとりで巣を抜け出し危ないからと中を壊してからギルドへと向かった。

 これが、私の考えた事のあらましだ。依頼主はあまり良い印象を持たれていなかったらしく、やりかねませんね、なんて言われて終わった。念のためギルドの方で巣を確認するが、中から巣を壊してくれたなら問題はなさそうだと言われた。


 一応依頼は達成ということだったが、巣を確認してから報酬を支払うと言われた。なんでも上乗せしなければならないかもしれないから、しっかり調査をしてから支払うとの事だ。

 幸い金には困っていないからなんの問題もない。だが長居は無用だ。報酬を受け取ったらすぐにでも此処を出立しよう。それまでは行き先を考える事にしよう。

 再びぼったくり宿に泊めてもらい、その日は何も口にせずに眠りについた。


『お前、名前は?』


 懐かしい声。目を開ければ、そこにいたのはかつて共に旅をした、勇者と呼ばれる人だった。見覚えのある風景に、二人だけの旅。


(あぁ、夢か……)


 頭だけは冷静に働き、これは夢だと告げてくる。もう既にいないはずの勇者が目の前にいるはずがない。それに、さっきの勇者の言葉には聞き覚えがある。“俺が”いつまで経っても名前を名乗らなかったから、聞かれたのだ。


『No,Α121号』

『は? なんだそれ。名前じゃねぇだろ』

『それ以外で呼ばれた事はない』


 かつてあった記憶が、私の意思とは関係なく口を動かす。そう、他の仲間を失って、二人だけの旅になった時の事だ。当時名前のなかった私は、そう答える他なかった。誤魔化してもいつまでも聞いてくるものだから、鬱陶しくてこちらが折れたのだ。


『じゃあ、■■■■■なんてどうだ?』

『なんでも良いが、名前はそんなホイホイ教えるもんじゃないんだ。鍵になったり、呪いに使われたりするから、みんな偽名を名乗ってるんだよ。俺みたいに名前のない奴はむしろ楽なんだ』

『え!? そうなのか……でも、名前はないと寂しいだろ? じゃあ、俺が偽名の方も考えてやるから、お前は俺の偽名考えてくれよ! そのくらい良いだろ〜?』


 そうだ、いつもこんな感じで明るい奴だった。俺の事情なんか知らないくせに、気になってるくせに、踏み込んでこない。その優しさが痛い時もあったけれど、今思い出すと酷く暖かい。

 この時も、二人で落ち込んでいた時だった。仲間がまた一人死んで、とうとう二人だけの旅になってしまったから。守れなかったと悔やんで、落ち込んで、それでもあいつは明るくあろうとした。


 勇者召喚で呼び出され、突然魔王を倒せと言われて旅立たされた。最初の仲間は俺ひとり。それも、監視役として付けられたに過ぎなかった。路銀だって十分じゃなくて、行く先々で稼いでいた。宿に泊まる金はなくて、当時は魔物に勝つのも一苦労で、野宿ばかりが続いて、疲れ切っていた。

 それでも、あいつはいつも明るかった。弱音なんて吐かなくて、いつも前を向いていた。行く先々で仲間を集めて、魔物と戦って強くなって。そうして、最後は二人で魔王城まで辿り着いたんだ。


『ライってのはどうだ? 俺の故郷の……異国の言葉なんだが、嘘って意味なんだ。偽名にはピッタリだろ?』

『確かに……良いかもな。お前は…………シリウス』

『シリウス? なんか意味とかあるのか?』

『教えない。それより、絶対に本名を名乗るなよ。今までみんな勇者って呼んでたのも、名前を知られないためだ。気に入ったなら、どうしてもって時シリウスって名乗れ』


 あぁ、懐かしい。この時はまだ、お前との接し方が分からなくて、戸惑って、今思えばもっと言い方があった気がする。それでも、まるでもう友人であるかのように接してくれて、段々と俺も慣れていった。

 あいつの隣が心地良かった。もう誰も、俺達のことなんて覚えてない。勇者という存在がいた事すら知らない。魔王がいたのかも、定かではないらしい。今は、勇者を英雄と呼ぶそうで、勇者という存在はなかった事にされている。俺が、全部消したから。


 シリウス、俺が付けた、あいつの名前。夜を照らす、最も明るい星。曇った心も、先の見えない不安も、全てを明るく照らし出すあいつに、よく似合う名前。

 この日からしばらくして、二人きりの時はお互いを本名で呼び合っていた。もっぱら野宿の時ばかりだったが、俺にとってはそれが一日の内で最も楽しみにしていた時間だった。


 あぁ、これが夢だと分かっているのに。夢はいつか覚めてしまうのに。もう少し、もう少しだけ、この幸せな夢を見ていたい。

 無情にも窓から差し込む太陽の光に起こされる。頬を何かが伝ったような気がした。

 

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