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第10話 遺跡調査


 コツコツと階段を降りていく。流石に遺跡かもしれないものに入ったとなれば、男も迂闊に歩いたりはしない。先程までと打って変わって慎重な足取りだ。

 下に行くにつれて光が届かなくなっていき先が見えなくなる。後どの程度階段があるのか、この先がどうなっているのか分からない。明かりがなければこの先へは進めない。


「明かりがいるな」


 手を顔の少し下まで上げると魔法で小さな炎の球を作り出した。広い範囲とは言わないが、これで先が見えるだろう。視界の端に映った少女が私の魔法に驚いた顔をしていた。男は相変わらず上から目線で少しは使えるじゃないかと言っていた。ずっと気になってはいたが、何様のつもりなのだろうか。

 明かりを頼りに階段を降りれば、その下に長い廊下のような道が見えてきた。どこか見覚えのあるような道。階段といい壁といい、明らかに人の手が入っている事は間違いない。

 等間隔で壁に設置された明かり用の魔導具を見ながら進む。男は魔導具については知らないようだ。魔法を使える私に対して明かりを灯せとは言わない。これが何なのかも分からないのだろう。


(知っていたら知っていたで、それもまた問題だけど)


 長い長い廊下の行き先は分からず、時折見つける扉の中を覗いてみたが、特にこれといって何かある訳でもない。そのくせ扉には罠が仕掛けられていて、開けた瞬間毒を浴びせられたり、矢が放たれたり、電流が流れたりしている。


「お前は化け物か何かか?」

「随分失礼だな」

 

 本当に化け物を見るような目でこちらを見る男に正直過ぎやしないかと呆れを通り越して感心する。確かに矢は刺されば痛いし、毒は苦しいし、電流だって痛い。ただここの罠は侵入者の捕縛用になっているからかそこまでの威力はない。毒も電流もせいぜい動きを止めるくらいで命に関わるような強いものではないし、矢に関しては腕や足を狙っていて急所を外している。

 けれど、化け物というのも、間違っていないのかもしれない。言い得て妙だが、普通の人間とは確かに違うだろう。人間だとは思っているが、本当に人間なのかは怪しいものだ。

 ふとひとつの扉に目が止まった。他の扉と違い、そこだけ広い部屋に繋がっているようだった。扉の造りも他より少しばかり頑丈だ。鍵もかかっているようだ。下手に開けたら他の扉と違って罠が殺しにかかってきそうだ。


「ここだけ他と違うな」

「開けられるんだろうな?」

「少し時間かかると思うぞ。他と違ってしっかり鍵がかかってる。無理矢理開けたら流石に死にかねない」


 とはいえ、鍵の形状は見覚えのある物だ。何の種類かは忘れてしまったが、下手に罠が作動しない程度に覚えのある解除方法を片っ端から試せばいつかは開く。昔の型だろうから、思い出せる限り古い記憶でやるしかない。

 鍵穴を覗き込むと、すぐに気付いた。これはフェイクだ。この鍵自体は何の意味もない飾りに過ぎない。ならと扉に触れてみる。かつて使われていた魔力認証の扉だ。


(これは開けられないな)


 魔力認証は、文字通り魔力が鍵となっていて、扉に特定の人物の魔力を流す事で開ける事ができる。魔力は人それぞれ性質が微妙に異なるらしく、偽装も難しいとかでよく使われていた。専用の魔導具で登録された魔力を入れておき、それを流して開けるという手もあったらしい。

 けれどこの扉を開けるための魔力を持った人間を知らなければ意味がない。それに、ここは古代遺跡。登録された魔力の人物は疾うに死んでいる。めんどくさいから開けたくないが……


「おい、どうしたんだ」

「この鍵はフェイクだ。この扉は私も開けられないが、どうしても中に入らなきゃダメなのか?」

「当たり前だ、古代遺跡は貴重なんだぞ、簡単に諦められるわけないだろう!」

「壊して開けるのは?」

「ダメに決まってるだろ馬鹿者が!」


 だよな。となると開ける手はひとつ。この扉は一時期画期的だと騒がれたものの、すぐに使われなくなってしまった。重大な欠陥があったからだ。それは、魔力を通せば必ず開くというもの。

 そもそもの鍵の役割は特定の人物以外を部屋に入れないためのもの。そしてこの扉は罠の発動に特化して造られた。そのせいで、登録された魔力の持ち主以外が魔力を流すと確実に罠が当たる代わりに鍵が一時的に開いてしまうのだ。それが判明して以降この扉は使われなくなっている。

 ちなみに罠は大抵魔法だったが、毒や矢も少数ある。どれを取っても致死性の高いものだった。何が来るかは分からないが、開けよと言うのであれば開けるしかあるまい。私は念のため剣を引き抜いておく。


「な、何だ。何をするつもりだ!?」

「この扉は登録された魔力によって罠の発動なく開ける事ができるが、登録されていない魔力を流しても開く。ただし、罠が確実に発動して必ず当たるようになっている。少し離れていろ、巻き込まれて死んでも私は知らないぞ」


 男が慌てて俺から離れるのを見てから、剣を握っていない左手で扉に触れ、魔力を流す。バチっと軽く電流が流れたかと思うと、何事もないかのように扉が開く。

 おかしい。罠が発動しなかった……? いや、そんなはずはない。私は魔力を登録した覚えなんてない。どこか不気味さを感じながら開いた扉に目を向ける。扉を開ければ抵抗なく開いてしまった。


「おい、開いたぞ」

「な、お前なんで無事なんだ!?」

「見殺しにする気満々だったのか?」

 

 男への呆れと、少しの不安、そして警戒心を抱きながら中へと入った。

 

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