人を石にし治療する
スマホを眺めながら漫画を読んでいた
本棚を圧迫しない電子書籍はいい文化だ
最近読んだのはドクター○○ーン
面白いから全人類読むべき
チカッ
目が眩んだ、目眩か?視界が一瞬暗くなったというか
世界が暗闇に包まれたというか
頭が良ければコレがなんなのか説明できるかもしれないけど、平々凡々なガキには分かりませんよっと…
視界は相変わらず真っ暗だった
遠くから何か声が聞こえてくる
ジャリ、と手が砂を掴んだ
口元もなんだか砂っぽい
『あ?一瞬前まで自室でスマホを見ていたのに?』
どうにも地面に這いつくばっているらしい
確認するにもまずは目元の布が邪魔だ
目元の物が布とわかったのは、頭が混乱しているうちに少しズレたらしく、光が漏れて指したからだ
瞬きを何度かすれば更にズレた
黒い布、それを邪魔だと思った瞬間、ねずみ色に代わり、ボロボロと崩れて
目が覚めた
◇
視界に映ったのは砂
首を動かして周りを見る
遠くから聞こえてきた騒ぐ声が、少し静かになっていた
なんでか、自分は地面に押さえつけられていた
鎧の男だ
頭は外していて髭おっさんが見える
『なんだよ邪魔くせーな』
日差しが照りつけており、地面は熱を持っていた
つまり熱い、暑くて熱い
だが、次の瞬間、押さえつける力が弱くなった
おっさんが石に変わっていたのだ
熱さから離れるために、立ち上がる
抑えが無くなったんだから当然だ
すると、石のおっさんは俺を抑えていたつっかえ棒が引っかかり、横に倒れた
ごとん
「あ、わり」
口からはするりと謝罪が出たが
美術品を倒してしまったような気分になり、顔を覗き込んだ
うん、ヒビひとつない動揺顔だ
そして、あまりの静けさと、突き刺さるような目線の数々に周りを見渡す
闘技場、コロッセオ?そんなバトルフィールドな真ん中に自分は立っており、観客よろしく大勢の人が俺を見ていた
その誰もが目が点になっている
何となく『おれ、何かやっちゃいました?』とでもいいながら頭をかこうと思ったが
少し手を動かした瞬間、どこからともなく叫び声が響き渡り、大勢の人がしっちゃかめっちゃかになりながら動き始めた
そして
「うおおおお!!」
そんな感じで叫び声を上げる人物が目の前に
鎧を着ていて、物騒な斧を持っている
その鎧は斧を振り上げてコチラに走り始めた
『うわ怖っ!?』
表情は見えないが鬼気迫る声だ
怖いと思うのは当然のこと、そのぐらいの迫力ということで
1歩2歩、ズンズンと重い足音は、次の瞬間聞こえなくなった
代わりに
メリメリと音を立てながら鎧は石像に代わったのだ
バシュン!
次に聞こえたのはそんな音、なかなかにデカい音だ
その正体はすぐに分かった、矢だ
2階席のようなところからクロスボウで矢を放った者がいる、もちろん狙いは自分に向けて
「ひっ!?」
ほとんど反射でしゃがみこんで身を丸めた
数瞬のうち、パラパラと何かが降り掛かってきた
砕けた石
バシュン、バシュン
立て続けに放たれた矢、もう避ける余裕はない
その矢は空中で石に変わり、パラパラと砕けながら石つぶてとなって降り掛かってきていた
ドスッ
「いいっ!?」
右肩に痛み
石の矢が当たっていた、ただ、石の矢は砕けていたし、痛みのレベルとすればガチガチに固めた雪玉程度
もちろん痛いが、矢が刺さるのと比べればマシと言える
後ろを見れば当然クロスボウを構えた鎧達
振り向いただけで腰を抜かしながら視界から消えたヤツもいる
ここまで来たら何となく自分の立場も分かるというもの
理解はできないが、彼らは味方では無いのだろう
ビシリ
見ていた鎧が石像に代わった
ビシッ、バシッ、ビシリっ
叫び声を上げながら石に変わるもの、仰け反りながら石になるもの、何か叫んで石になったもの
綺麗なピカピカした盾を構えた者もいたが、盾も鎧も石になった
半周回って体の正面
豪華な椅子に座る髭のおっさん、鎧ではない豪華な服、偉そうな人と目が合った
石になれ、そう思う寸前
「〜〜~っ!!!」
視界に入ってきた少女が高い声を響かせた
多分「やめて!」とか「止まれ!」とかそういうニュアンスなんだろうけど
その言葉が理解出来ずに自分は動きを止めたのだった
◇◇◇
瞬く間に居たこの世界
やはりどうやら異世界とでも言おうか
言語が分からなければ異世界みたいなもんだ
多分分かっても異世界だろうが
目の前に現れた少女、白髪の美少女は叫ぶなり、フラッと倒れた
それをふわりと受け止めたのだが
少女との間の距離を一瞬で跳び越えたあたり、自分が化け物なのだと自覚するだけだった
少女の後ろを追いかけていた鎧の女が何か叫ぶが言葉が分からなかった
まぁ「はなせ!」とか「返せ!」とかその辺だろう
一瞬、言われた通りに少女を返そうとしたが
さらに後ろから追いかけてきた鎧が到着次第剣を抜いたので返すのを辞めた
この子は人質だ
手で追い払うジェスチャーが伝わったようで女騎士と鎧の一人は後退り、1歩前に出た鎧は石にした
ビシリという音に女騎士が振り向き、怒りの形相で自分を見た
腰の剣に手をかけ、白髪の少女に目を落とし、震えながら剣から手を離した
その目は人をも殺せるだろう
◇
女騎士の後ろについていく
周囲は少し間を置いて鎧達に囲まれている
腕の中の少女はすやすやと寝息を立てていた
そのうちに廊下の少し開けたところに辿り着く、先程の偉そうなおっさんがチラリと見えた
場が整ったようで話しかけられる
おっさんは薄い布の向こう側、直接は見えない
周囲は鎧が何人も囲んでいるし、皆剣に手をかけている
また、隙間隙間に鏡が置かれている、どれも斜め上を見ているが、後ろに人が控えており、いざと言う時に立てるのだろう
自分の推定メドゥーサだった予測が確信に変わった
あと、鏡の角度で自分の顔がチラリと見えたが、まあ普通顔の男だった、石化はしなかった
「まて、言語がわからな…何語だこれ、あ?えっとまってな?なんだこれ」
自分は知らない言語を喋っていた
喋る度にバチバチと頭の中で衝撃が走る
パズルのピースが埋まっていく開放感と共に、言語について理解していく
「おお、言葉がわかる」
「はんっ、どうだか、人の言葉を話したくらいで信じれるものか、名前でもあるというのか?」
自分の独り言に女騎士が言葉を投げかけてきた
名前
「なまえは、分からない、おれは、だれだ?」
「お前が誰か教えてやろうか」
女騎士の鋭い言葉、見れば鬼の形相をしている
「おい、レイナ、やめぬか」
布の向こうから声がするが女騎士は話し始めた
「お前は数日前に森から現れた悪魔だ
人の姿をしながら、人の言葉を使わず、人を石に変えてこの街を逃げ回った
何人もの住民を石に変え、ようやく誘き出すのに成功、そして私の部下を何人も石に変え!弟子を石に変えた!次はその手のお嬢様を石に変えるつもりか悪魔!!」
ふーっふーっと息を荒らげて睨みつけている
「……落ち着けよ、レイナ」
ブチッ
さすがにオフザケが過ぎたと自覚しながら、そう返事した
すぐに女騎士は石に変わったが、既に3歩踏み出しており、剣は振り下ろす体勢に構えられていた
もう1歩遅かったら剣は振り下ろされていた
「おい、今の音は……はぁ、レイナ…お主も石になってしまうのか」
周りの騎士が動揺を隠せないなか、薄い布の向こうから偉そうな服装のおっさんが顔を出した
その顔はもうドンヨリ、曇天、気を抜けば倒れそうだ
「まあ待ておっさん」
言語の理解とともに、この石化の解き方も理解しているのだから
「そもそも…」
ん、いや、まてまておっさん、独白する時間じゃないぞ?
俺のドヤ顔と共に石化をといて俺も生きれる道を探すフェイズだぞ?
「報告によればお主は人の言語を介さないと言われておった、それがどうだ、ちゃんと人の言葉を使うでは無いか。欲しいのはなんだ、地位か?伝説か?その子か?ワシの命は、まぁ先程死んだものと変わらん、せめて歴史書には最後まで抵抗したと書き残しておいてくれ、ミュラーが止めなければワシも今頃は石像じゃからのう
だいたい街を騒がした犯人だからと皆の前で首はねの刑なんかにしなければ、ワシがいる必要なんてなかったろうに、レイナなら斬れた話じゃ、昔から詰めが甘い」
「おっさん?石にするよ?」
「……」
非戦闘員のメイドさんが逃げる準備を進めていたが、おっさんが黙ったことでその動きを止めた
「ちょっといいこと思いついた」
「悪魔め…」
◇
石化された住民の前に立つ
横には女騎士のレイナがいる
そして、石像に金のハリ…太いのでもはや短剣
を優しく突き立てる
『解除』
石化の解き方は何も特別なことは無い、自分が解けるように思うだけだ
金の針も硝酸もアルコールも草花の蕾も必要ない
金の短剣は儀式用だ
そして石化から解けた住民は目をぱちくりさせながら動き始めた
「どうも、私は石化の悪魔を倒したメドというものです」
そんな挨拶をすると、割れた窓の向こうから住民の歓声が聞こえてきた
そんな調子で1人ずつ石化した住民を解いていく
住民の歓声が上がる度に隣の女騎士から凄い殺気を感じたが
そうして「石化の悪魔を倒した治癒士メド」は一日で街の話題の人物となった
◇◇◇
治癒士メド
それが自分の肩書きと名前になった
見た目は言うて普通の男、流れの治療魔法の使い手
石化の悪魔を倒し、石化の術を解呪していった
そして
「メド先生」
「はいはい、治療するから」
一瞬の石化、すぐに解除される
この時、何故か体が健康体へとなっていた
そのため治療魔法、医者のような存在として確立していた
病原菌を石化で殺す、までなら分かるが
石が体外へ排出された、なんて聞いてないし
そもそも何故か骨折まで治っている
自分でも分からない、謎技術だ、いや、謎魔法だ
この街は王都の一箇所?らしくその中でもいい立地に家を貰った
おかげで偉そうな人間が連日治療に押しかけてきたりもするが、街長的に抱えておきたいのだろう
自分もこの街と隣町ぐらいしか知らないので出るつもりは無いが
「メドさん?考え事ですか?」
「あぁ、君の治療法をね」
白髪の少女、名前をミュラー
街長の娘で病弱な子
この病弱はアルビノが関係しているのか石化では治せない
病弱とは言うが、器官が弱いのか、心臓が弱いのか
すぐに息切れしてしまい、酷いとその場で動けなくなってしまう
魔法で鑑定をするこの街の医学?では余命は20と少しと言われていた
それまでに、なんとか
◇
ミュラーは可愛く可憐に美しく成長していった
それはもう隣町から求婚が来るほどにだ
対して自分は成長していなかった
魔法の技術もだが、彼女の治療法も、ついでに見た目も
彼女を誰にも渡さないため結婚式を上げた
石化後の数十分は体調を崩さないという裏技まで使って
「メド、私は今、世界一幸せです」
そのおめでたい日は街を上げてのお祝いとなり
そして、その日を境にミュラーは街から姿を消した
◇◇…◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おい、また酒か、いい加減やめろ」
「……レイナか」
あれから何十年が経っただろうか
街は隣町を飲み込み国となった
永遠の国なんて呼ばれ、不死身の騎士団はシンボルとして君臨している
「あの日から何年だ」
「120年だ」
「……バカをいえ、お前何歳だよ」
くたびれた男の隣に座る女は100年前から同じ顔だという
後ろで気まずそうにしている弟子とやらも同じ顔だ
「だいたい120歳だが」
「しょうもないサバ読むなよ」
「なんだと?少なくとも体年齢は20そこらだ」
「ははは、誰のおかげだと」
「ははは、そうだな、お前にならなんでもしてやるぞ」
「おいやめろ、誘惑するな、このコの前だぞ」
「…すまない」
私は席を立つ
くたびれた男は毎日この石像の前で涙を流していた
治療法が見つからないと
そしてある時、言ったのだ
「戻ってきた時に、誰も彼も変わっていたらこのコが可哀想だろう」と
あぁ、同意した私達も情けない
あの日から、騎士団は誰も死んでいない
姿も変わらず、あの時の見た目のままだ、共にあのコを迎えるために
「…その割に女にだらしないのは腹立つな」
「ノロケですか?」
「私達もお手付きの可能性があるって事ですか?」
「ない、ないない、馬鹿なことを言うな、あいつの1番は今もあのコで私は共に生活しているだけだ」
「ノロケじゃないですか」「死ねばいいのに…」
男の作ったアクセサリーは付けているだけで石化と解除を常に繰り返す機能があるらしい
そんなものをいくつも付けている
それで自由に動けるのだから
常人離れの集団になるのも時間の問題だった
不死身の騎士団なんてそんなネタだ
どれもあのコには効かなかったと嘆いていたが
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おい、石の国があるぞ」
「城壁の話か?そんなのどこも…石の国だな」
ある二人が人のいない城門をくぐり抜けると
そこには石でできた国が広がっていた
街も、人も、果てには炎まで
まるでそこで祝祭があったかのようなまま、全てが石になっていた
その国の中心では男の石像が見目麗しい女の石像と結婚式をあげていたという
◇
「っていう終わり」
男が白い髪の女性にそう話を終えた
「メリーバッドエンドじゃないですか!?なんなら私最後の方ずっと石ですし、レイナ団長にメドさん盗られてますよね!?」
「だってこれ書いた1年後に治療法見つかると思わなかったし、レイナも可愛いし…」
「レイナ!?そこに座りなさい!」
「や、ミュラー、そんなに怒らなくても…」
「不死の騎士団計画なんて今すぐ中止してください!だいたい1年ごとに起こされてるの石化してても分かってましたし!数えてました!
昨日お母様に会ったら全く変わってなくって反応に困ったんですからね!?」
「はは、うける」
「メドさん!!騎士団のみんなもノリがいいのか悪いのか…!!」
「ノリノリだぞ」
「もぉー!!」
「これも全部ミュラーの美貌が悪いんだ、人を狂わせる」
「あ、もう、ずるいです…」「えへへ、私も…」
「レイナはそこに座っててください」
「ひん」
(ハッピーエンド)
連載形式で書きなぐったんですがキリのいいオチに持っていったら短編だったので
後日譚とかの形で掘り下げたりするのは面白そうです