閉話4 ジェームズとバルセロナの休日 前半
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時間は少しさかのぼる。
ジェームズはアラゴン王国に外交団の代表として赴くこととなった。
ジェームズは、僕はフィルと違って外交や政治上の駆け引きができる能力はないからお飾りだよね、と思いながら船旅を楽しんでいた。
ジェームズ達がアラゴン王国の港で首都でもあるバルセロナに着いたあと、ジェームズ達は王宮に挨拶に行くことになった。
その間、使節団の面々は相手官僚と和平条件について詰めることになっていた。
国境の画定、通商等による人に移動の取扱い、犯罪者の処分方法についてなど取り決めすることはたくさんあり、外交団の役人たちはバタバタと働いていた。
王宮側の指定で、ジェームズはアラゴン王に謁見することとなり、謁見は今日より3日後と決まった。
そしてこの和平のために、アラゴンとプルターク両者において婚姻が結ばれることとなった。
アラゴン王は女性で未婚であり、子供はいないのだが、公爵家に嫁いでいる妹の娘を養女にして、ジェームズと婚姻させ、プルタークとの和平のあかしとすることとなっていた。いわゆる政略結婚だ。
謁見の際に、相手の対面があると聞いた。そしてすぐに仮の結婚式を実施するとのこと。
正式な婚姻の儀式は後日行うことにして、娘をプルターク領に人質として送るための措置だそうだ。
ジェームズ自身、リーニャという正妻がいるので別途婚姻を結ぶことに抵抗があったが、リーニャ自身に平和のためには政略結婚もやむを得ない、でもこの家をアラゴンの好きにさせず守っていくためには、私も努力するけど、あなたもしっかりしなくては駄目よと諭され、婚姻はやむなしとあきらめていた。
その日はいろいろ連れまわされ宿泊場所である賓客用の屋敷に着いたのは夜になってからだった。
翌日も外交団の他のメンバーはいろいろ忙しいのだが、謁見の日まで特にやることのないジェームズは暇になってしまった。
謁見の2日前、暇で暇でしょうがないので、町の視察でも行くかとジェームズは思い立った。
前にフィルがプルターク領に訪ねてきた時、冒険者風の服を着ていたのを見て、とてもうらやましくなり同じものが欲しいと強請ったところ、仕方ないなと送ってもらった冒険者風の服に愛用の剣を佩いて町へ繰り出した。
屋敷の執事長がなんかわめいていたが、聞こえなかったので無視して、走り去った。
町は、異国情緒の、南方の雰囲気が強かった。この町は貿易の一大拠点となっており、船はイム教を信じる砂漠の国や南の果てにあるジャングルの現地人とも交易のため出向いて、多くの珍しい商品をこの地にもたらしていた。
ジェームズは物珍しそうにそれにを眺めつつ、買い食いを楽しみながら町を散策した。
途中、何回かスリにあったが、財布の代わりにある種の魔道具にすり替えて握らせた。
この魔道具、つかむと手について離れなくなり、それが1日に倍の大きさに膨らんでいくというものだった。更に、魔道具から触手が手のひらから腕に潜り込んでいき、心臓まで到達して切り取ろうにも切り取れないようになっているという実に凶悪な仕様になっていた。
外すためには、これを設置した術者に解除してもらう以外ない。
かわいそうにスリたちは、手のひらで毎日どんどん膨らんでいく塊によって動くこともおぼつかなくなり、触手が食い込んでいるため、切り離すため腕ごと切断しようとしても触手が邪魔して切れないという苦しみを味わうこととなる。
そしてある一定以上大きくなると爆発する仕様になっていた。
唯一の救いは、手のひらに触手が潜り込んでいくのに、痛みは何もないことぐらいだ。
町を散策しているジェームズに向かって、一人の女の子が逃げてきた。
「お嬢様、お待ちください!」後ろに兵士が3人ほど追っかけてきており、まもなく女の子は捕まりそうになっていた。
面白そうだとばかりに、三人の足元に沼を発生させ、兵士たちがその上を通ると体半分まで一挙に沈んだ。
そのまま土を固めて兵士たちを固定してから、ジェームズは女の子の後を追った。
「ねえ、君どうして逃げているの?」女の子の横に並んで走りながらジェームズは聞いた。
その女の子は、横に並んだジェームズを見てびっくりした様子だったが、立ち止まると「兵士たちは追っかけてこないわね。あなたが足止めしてくれたの?」と尋ねてきた。
「ああ、土の中に下半身を埋めて動けなくしたからしばらくは大丈夫だよ」とジェームズは言った。
「ありがとう。助かったわ。私は……そうジェミーよ、あなたは冒険者?」その女の子、ジェミーは言った。
「まあ、そんなものかな。名前はジェームズ、ジムと言ってくれ」
「ジムね、よろしく」
「で、どうして追われていたの?」
女の子は少し言いよどんでから、思い直したように口火を切った。
「実は家から逃げ出してきたの。なんか私が知らないうちに見ず知らずの男と結婚させられることになったの、本当にありえないわ。私まだ12歳なのに結婚なんて。きっと幼女趣味の変態男に違いないわ」
「そうなんだ、大変だね」その気持ちわかるよ、とジェームズは思った。
「そうなのよ、本当に信じられないわ。そりゃ私の家、いろいろあって自由に結婚できるとは思っていないけど、普通結婚するなら16、7歳ぐらいでしょ。まだやりたいこともあるし、他人の家に行って言いたいことも言えず、行きたいところにも行けず、食べたいものも食べられずに生きていくなんていや!」
「うん、わかった。それじゃ頑張ってね。またね」とジェームズは言って、そこから立ち去ろうとした。
冷たいようだけど、何で逃げているかどうかも聞けたし、内容的に面倒くさいことになるのは目に見えていた。これから和平を結ぼうという国でいざこざを起こすのはまずいと思った。
ジェームズが立ち去ろうとすると、「ちょっと待ってよ」とジェミーは声をかけてきた。
「何か用?」とジェームズが尋ねると、袖をつまんで「一人は怖いの。もう少し付き合ってよ」と言ってきた。
ジェームズはしげしげとジェミーを見た。
色は、この国の人々によくみられる、少し浅黒い肌で黒髪茶目、掘りが深く、整った顔をしていて、かなりの美少女で間違いないだろう。更に品が良く、お嬢様と言う感じがする女の子であった。
この子、顔は整っているし、世間知らずそうだし、このまま見捨てるとひどい目にあうんじゃないかな、それはさすがに目覚めが悪いと、思い直した。
「わかった。わかったから、手を放して」
「逃げちゃやよ」そうジェミーは言って手を離した。
「それできみ、どうするつもり?」
「とりあえず、町を見てみたいわ。わたし屋敷……家から出たことがほとんどないの」
完全な箱入り娘だ。先のことを全然考えていない。
まあ、街を散策して、好奇心を満足させたら、家に帰るかもしれないな、と思い付き合うことにした。
「それなら付き合うよ。市場に行こうか」と一緒に行くことにした。
2人は市場に行った。そこには、いろいろな品物や露店が出ていた。
ジェミーはきょろきょろと楽しそうに見回しながら、市場を楽しそうに歩いていた。
しばらく歩くと、一軒の露店の前で足を止めた。そこは南方の果物を打っている店だった。
果物に串がさされ、食べ歩きがしやすいように加工されていた。
じっと見つめるジェミーに「食べたいの?」とジェームズが聞くと、「うん、でもお金がないの」と悲しそうに言った。
この子お金も持っていないのか。と少しあきれながら、「それじゃおごってあげるよ」と微笑みながら言った。
「えっ、いいの!ありがとう!」とジェミーは嬉しそうに微笑んだ。
かわいい、と思わず見とれてしまった。
買ってあげた果物を食べながら嬉しそうに歩く彼女は本当に楽しそうだった。
露店を冷かしながら、ふたりで散策した。話してみると、とても気さくで、性格も良い子だった。結構世話焼きな面もあって、二人で串焼きを食べた時、ジェームズの汚れた口をすごく高級そうなハンカチで拭こうとしたので、慌てて止めた。
「そんな高そうなハンカチで拭いたらもったいない」とジェームズはきれいなタオルを出して自分の口を拭いた。ふと見ると、ジェミーも汚れていたので、「ちょっといいかな」と言ってとジェミーの口を拭いた。
ジェミーは真っ赤になった。ジェームズは「あっ、ごめん。デリカシーがなかった」と謝ると、「ううん、良いの。ありがとう」とはにかむように言った。
ジェームズはその可愛さに思わず見とれてしまった。そんなやり取りを重ねていくうちに、いつの間にかジェームズも笑顔でジェミーに話しかけるようになっていた。ジェミーも嬉しそうに微笑みながら話していた。
とある露店で宝飾品が売られていた。青い透明な貴石で作られたイヤリングだった。
「きれい……」ジェミーはそのイヤリングに見とれていた。
ジェームズはそのイヤリングを手に取ってジェミーの耳に当てた。
「うん、似合っている。これいいんじゃないかな」微笑みながら言った。
「そう、うれしい」そう言いながらはにかんだ。
あはは、可愛い、ジェームズは胸がときめいた。これは買うしかないでしょ。
「ねえ、これいくらだい」そう店の主に行った。
「おう、彼女にプレゼントかい?いいねー。よし、おまけして、100ブッシュでどうだ」店の主は笑いながら言った。
「えっ、悪いよ」ジェミーは焦ったように言った。
「いいから、いいから。はい100ブッシュ」とお金を払って、ジェミーの耳につけてあげた。
ジェミーは嬉しそうに微笑んだ。
2人は手をつないで、歩き始めた。
「よう、お二人さん、ずいぶん見せつけてくれるね」突然声をかけられた。
声をかけられた方を見ると、どう見ても堅気ではない雰囲気の3人組がいた。
「何か御用ですか」ジェームズが訪ねた。
「大したことじゃねえよ。お前の財布とその女をここに置いて行け。そうすればお前は見逃してやるよ」真ん中の男がいやらしい顔をしながら言った。
「ねえ、ジェミー」
「何?」
「ちょっと目をつぶってて」
「嫌!私を置いて逃げるの!」泣きそうになりながら言った。
「うんにゃ、じゃちょっとグロいもの見ることになるけど我慢してね」
「おい、てめえ、無視してんじゃねえぞ!」男が怒鳴った。
ジェームズが土魔法の補助を使い、目にもとまらぬ速さで男に近寄ると、腹部に剣を滑るように当てた後、右側の男の首めがけて剣を振り上げた。
更に迂回するように左側の男の首を後ろから振り下ろすと、元に位置に戻ってきた。
剣を構えなおすと、真ん中の男の腹はすっぱりと切られ、内臓が飛び出してきた。
左右の男は首を皮一枚残して切り取られ、血を首から噴き出して倒れました。
「この野郎、俺たちが誰だかわかっているのか!」
「知らない。誰?」ジェームズはのんびりとした口調で尋ねました。
「俺たちはこの街を仕切っているカストリ一家だ。こんなことをしてただで済むと思うなよ!」
「うん、わかった。じゃ死んで」とジェームズは首を皮一枚残して落としました。
「じゃ、行こうか」ジェミーの手を取って歩き出した。
「ジムってめちゃくちゃ強いわね」ジェミーが感心するように言った。
「あはは、とりあえず面倒に巻き込まれる前に逃げるよ」
2人は手に手を取ってその場から立ち去った。
市場から離れた二人は小さな公園にたどり着いた。間もなく日が沈もうとしていた。
そこからは海がよく見えた。海風が気持ちよかった。
二人は黙った海を見ていた。
「なあ、ジェミー」一緒に来ないか、とジェームズは言いかけて口をつぐんだ。
確実にこの子の親は名門貴族か豪商だろう。
その娘をさらって海外に連れて行けばやっていることは完全に誘拐だ。
この国との外交関係もぶち壊すことになりかねない。
お爺様や、フィルならどうしただろう、お爺様なら「好きなんだろ。相手がいいと言うなら持って帰ればいいだろう」と言いそうだ。
フィルは「いいんじゃない。まあ、やばくなったらうちにおいでよ」うん、そう言うな。
意を決してジェミーに対して話しかけようとすると「私、家に帰るわ」と突然ジェミーは言った。
「えっ」思わずジェームズは声を漏らした。
「私思ったの。私は一人では何もできないわ。お金もない。強くもない。特技もない。一人で生きていくなんてとても無理ね。今日だってジムに甘え切っていたわ」
「でも帰ったら、知らない男と結婚させられるのだろ?」
「確かにそうだわ。本当は嫌でたまらないけど、私が一人で生きていくためにはもっといろいろ学ぶ必要があるわ。結婚相手を利用するぐらいの気合で頑張らなくちゃね」と言って微笑んだ。
「強いな」
「強いかな」
「強いよ」
「うふふ、ありがとう」そう言って微笑むと、ジェームズのほほにキスした。
「えっ」ジェームズはびっくりしてほほに手を当てた。
「うふふ」と微笑みながら「さあ、帰らなきゃ」と言って「ジム、途中まで送ってくれる?」
「ああ、いいよ」ジェームズはきょどりながら答えた。
2人は手をつないで歩いていた。両方とも無言だった。
「ここでいいわ」お屋敷の立ち並ぶ一角でジェミーは言った。
「ねえ」
「なんだい」
「好きよ、ジム。でもサヨウナラ」ジェミーは一言言って走って去っていった。
ジェームズはポロリと涙をこぼした。
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恋愛物、難しいですね。一度書いたのですが、全然受けませんでした。




