第2話 王宮からの脱出
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翌朝、僕は母上のところへ飛んでいきました。何人か引き留めようとする者がいましたが、もうだれも信用できません。
母上のところに行くと、「どうしたの、フィリップ王子」と驚いていました。
僕がしゃべろうとすると、「王子様は王宮にお戻りください。アリス王妃様と会うにはきちんと手続きしていただかないと困ります」と言って、メイドの一人が僕の前に立場たかりました。
僕は隠し持っていたナイフの腹で思いっきりむこうずねを殴りつけました。
メイドは「うっ」と言ってしゃがみ込みました。
そのすきにお母上に昨夜会ったことを話し、王宮から避難させてくれるようお願いしました。母上はびっくりして事実を確かめようとしました。
ところがびっくりしたことに襲撃があったことは報告されていませんでした。そればかりか、「王子は夢でも見たのでしょう」と言って取り合わず、兎に角王宮に戻るようにと口々に言ってきます。
僕は抱えてきたナイフで刺された後のあるメイドの血の付いたシーツと返り血でぬれたパジャマを見せました。
母上は表情を厳しくすると、おそらく実家から連れてきた執事でしょう、何人かに母上の父、つまり僕のお爺様に連絡するよう命じました。
そして、メイドの一人に耳打ちすると、そのメイドはかすかにうなづくと、姿を消しました。
しばらくすると、祖父であるプルターク伯爵が来ました。
祖父も王宮の使用人に止められたそうですが、無理やり押しとおってきたそうです。
母上とお爺様はこそこそと話をしていました。
母上は驚いた様子で、「すぐに王宮を出ます。用意をしなさい」と実家から連れてきた使用人たちに命じました。
王宮の使用人たちは母上を引き留めようとしましたが、「あなたたち、直ぐにこの部屋から出て行きなさい。私からの命令です」と言って彼ら彼女らを引き下がらせました。
引き際に僕をにらむ目が恐ろしいこと、悔しさと憎さをここまで表現できるのだなと感心してしまいました。
僕と母上はお爺様の王都の屋敷に行きました。
「もう安心よ。ここには敵はいないわ」と言って抱きしめてくれました。
なんでこんなことになったのか聞くと、「おそらく第二王子と第三王子の派閥から依頼されたのでしょう。男の王子は5歳になると、正式に王位継承権が生じるからね。あなたはもうすぐ5歳になるから、その前に殺そうとしたのでしょう。事実上王宮にいる使用人は全員敵ね。現にお爺様に送った執事達は王宮内で全員殺されたみたい」と言いました。
執事たちが全員殺されたことを聞き、僕は恐れおののきました。
なぜ今まで生きてこられたのか、母上に聞くと、「子供は5歳になるまでは、結構病気で死ぬ事が多いのよ。特に男の子の場合、それが女の子に比べて顕著なのよね。だから、ほっておいても死ぬかもしれないと思ってほおっておかれたのだと思うわ。私もあなたが5歳になったら、安全なところに保護しようと思っていたのだけど、敵に先手を取られたわ」と悔しそうに言いました。
「今お爺様が王のもとに行って、話をしてくれることになっているわ。兵も引き連れているし、お爺様は安全だと思うけど、兎に角この屋敷から出ないことね」と言って再び抱きしめてくれました。
お爺様が帰ってくるまでに、母上から僕が狙われた理由を聞きました。
この国の王様には正室(第1夫人のこと)の他、副室(第2夫人)に当たる方とその他何人かの側室がいるそうです。
正室様は隣国のアリア王国から嫁がれているそうです。この方は子供を二人産んだのですがともに女の子だったそうです。それで、この国で一番の実力者であるリオン侯爵の娘が副室として嫁がれました。ところが産んだ子がまたも女の子だったため、何人か側室を集めて、王に嫁がせることとなったそうです。
母上もその一人で、祖父も祖母も大反対し、王家に断りを入れたそうなのですが、しつこく娘を側室に出すよう要求され、家の取り潰しも匂わされる事態となったそうです。
祖父も祖母もならば反乱だと息巻いていたそうですが、母は多くの犠牲が出ることを憂いて、自ら側室になることを自ら求めました。
祖父も祖母も泣いて悔しがったのですが、母は側室になったそうです。
母はすぐに妊娠し、第一皇子として僕を生みました。これで世継ぎができたと王は喜んだそうです。
ところが、しばらくして正室様、副室様が懐妊し、男の子を生みました。第2皇子は副室様の子で現在3歳、第3皇子は正室様の子で現在2歳だそうです。
男の子が生まれた正室様と副室様は王位を我が子にと、僕の存在を邪魔に思っているようです。それで、王位継承権が生ずる5歳を前に、ついに暗殺という手段に出たようです。
その日の夕方お爺様が帰ってきました。
「王子様、王妃様、二人とも私の領地に行きますぞ」と言って、かなり怒った顔で言った。
「どうでしたの、父上」母上が訪ねました。
「どうもこうもない、王子が襲われたことも執事たちが殺されたこともなかったことになっているらしい。王もこのことを追求する気はなさそうだ。とりあえず王妃と王子は里下がりと言ってわが領地に静養することは了解を取り付けた。そのこともぐずぐず言っていたがな。執事たちの死体は取り返したが、全員王宮内で剣によって切り殺されていて、盗賊の仕業ということになっている。王宮内で盗賊が出たのかと言ったら、そんなことはないと言い、じゃどうして殺されたのだというと、盗賊がやったという、もう話にならない」お爺様は怒りに震えていました。
そのあと、僕たちはお爺様の領地へと行くことにしました。出発するまでに王宮からは何度も戻るよう使者が来たのですが、僕が殺されかけた事実や執事たちが殺された件を話して証拠を見せても、王子が夢を見たのでしょうと言い、執事たちは盗賊に殺されたのだと言い張りました。
王宮内で盗賊が出るようなところに置いておけないというと、盗賊が王宮内に出るはずがないとせせら笑っており、じゃ執事たちは誰が殺したと聞くと盗賊がやったのだと平然と言い、お前先ほど王宮内で盗賊が出ることがないと言ったな、というと、ええそういいましたと答えので、先ほど執事たちは王宮内で盗賊に殺されたと言ったではないか、というとその通りですと答えました。お前、さっきから王宮内で盗賊は出ないと言っておきながら王宮内で執事たちを殺したのは盗賊だと言っているではないか、この矛盾はどういうことだと問い詰めると、王の使者は何の矛盾もみあたらない、何を言っているのかと呆れた顔をしていました。
お爺様は激怒し、使者をたたき出しました。それ以降使者が来ても門前払いにしました。
領地に行く途中も何度も襲われました。ただ、お爺様の兵は、辺境の地で国境防衛の任務にあたっており、小競り合いもたびたび起きているため実戦経験もあり、とても強かったため、襲ってくる連中は皆殺しか、証人を得るために一部を捕虜にしました。
最初は傭兵のような連中が襲ってきましたが、正規兵が襲ってくるようになり、お爺様の頼子が治める領土の直前ではついには王宮の近衛騎士団が襲撃してきました。
なんでわかったかだって?
だって堂々と正規兵の軍服を着たまま襲ってきていましたし、近衛騎士団など紋章入りの鎧まで着込んでいました。
ただ、護衛隊の隊長でプルターク伯爵家に祖父の代から仕えている家系の出身であるスミス隊長曰く、 「近衛騎士団はすごく弱かったよ。傭兵が一番てこずったかな」と言っていました。
近衛騎士団の死体はそのまま馬車に積んで領地に運び、境界付近に串刺しにしてさらしておきました。
近衛騎士たちのうち何人かは捕虜にしていて、拷問して事情をはかしたのですが、軍務大臣からの命令で動いたようです。王宮にそのことを問い合わせたところ、近衛騎士団にはそのようなものはいない、おそらく盗賊の一味が名乗っているのだろうと返事が返ってきました。
近衛騎士になるためには貴族の出身ではなければならないのですが、捕虜にした者の実家に問い合わせたところ、そのようなものは我が家にはいない、家の名をかたる偽物だ、どう処分してくれても問題ないと言われました。
そのことを元騎士たちに伝えると、みなうつむいていました。
お爺様は「しばらく生かしておくか。いいえさになるかもしれんしな」と言って、牢に放り込んでおきました。さらに伯爵家の手練れを捕虜たちの警備につけておいたところ、生かしておいてはじゃまなのでしょう。暗殺者が襲撃してきました。
お爺様は「予想通り」とニヤリと笑いながら、そいつらを皆殺しにしていきました。
襲撃は2回で終わりました。おじいさま曰く、まともに戦闘になったのは1回だけで、もう一回はすぐ降伏してしまったそうです。
「諜報や暗殺をこの国でもっぱらやっていたのは我が伯爵家だからな。1回目は他家が率いている諜報部隊を派遣したが、2回目の連中はうちの息のかかったものが王命でやむなく来たようだ。かなわないことが分かっていたのでさっさと降伏して、我が家の傘下に入ったよ。もうこの国でまともな諜報・暗殺を行える部隊は存在しないぞ」と自慢していました。
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