第15話 北での戦いとジョンの参戦
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サロの街にて
サロに町にこもるサロ侯爵の三男、エドモンド・サロは必死に町の防衛に努めていた。
彼はもともと側室の母から生まれ、5人いた息子の中では最下位の序列であった。
なので、この戦闘でも最初は役割を与えられるここともなく、サロの街で待機するよう命じられていた。
ところが、サロ侯爵率いる王国一個軍団と領軍、小貴族の連合軍は南スロベニアの将軍ペトロ・ヴィーレによる吊り野伏にかかり包囲殲滅され、侯爵と嫡男、四男が戦死、五男が逃げ遅れて捕虜となり、辛うじて次男のみが逃げ帰ってきた。
次男は戻ってくると、金を持てるだけ持って、「あとはお前に任せた。俺は王都に行って援軍を連れてくる」と言って、1人で町から逃げていった。
エドモンドは、顔を青くしながら、すがってくる町の人々を見捨てることができず、敗残兵たちを集めて、可能な限りの食料、医薬品、武器を侯爵家の宝物庫から有り金すべて出して買い集め、サロの城門を閉じて、防衛戦を行った。
彼は、武芸は苦手であったが、いずれ侯爵家で中級官僚になる予定であったので、行政運営の知識はあり、食料の配給、負傷兵の治療など民生をもっぱら行い、軍事面は、軍団幹部の唯一の生き残りで、大隊の指揮官だった男に預けていた。
状況は最悪だった。敵に包囲され、兵士たちは次々戦死、負傷していく。
市民を徴募して、兵士の補充に充てたが、それもおぼつかなくなり、女、子供、老人もかき集めた。
医薬品、食料も不足し始めて、満足な食事も、負傷した者に対する医薬品もなくなってきた。
ある時、老人たちがエドモンドのところにやってきた。一人の老人がエドモンドに言った。
「このままでは皆餓死してしまいます。口減らしする必要があります。私たちは十分に生きました。最後に敵兵を少しばかり道連れに死にたいと思います。体に爆裂石を巻き付けて、敵陣に突入して自爆します」
爆裂石とは魔石の一種で、粉にして、大砲などに使うものだ。破壊力はかなり高く、それを巻き付けて自爆したら、死体すらまともに残らない。
エドモンドは何か言おうとしたが、パクパクと口を動かすばかりだった。そして「ごめん」と涙を絞りながら頭を下げた。
その夜、何十もの爆発音が聞こえた。その音を聞きながらサロ市民は皆泣いた。
老人たちの戦いの結果、敵の攻撃は数日止まったが、しばらくして再開された。
すでに食料も尽きかけていた。
もう降伏しかないと思われた。しかし、敵は降伏を受け入れるかどうかわからなかった。敵は戦場で、負傷して動けない兵士を笑いながら殺していったばかりか、降伏すると言って両手を挙げた兵士も迷わず殺していった。そんなやつらが普通に降伏すると言って、はたして認めるだろうか。
エドモンドは死を覚悟した。少しでも有利な条件で降伏するために、老人たちが行った自爆特攻を行う決意をした。志願者を集め自分が指揮を執って、敵に突入して自爆する作戦を計画した。
そして市民の安全を保障することを条件に降伏する、もし条件を飲まなければ自爆特攻を継続して実施するとして、交渉のカードにする。その降伏するサロの代表を軍の指揮を執っていた元大隊長に依頼した。
元大隊長は、「その特攻隊の指揮は私が行います。エドモンド様は生き残ってください」と言ったが、「ぼくは確実に敗戦の責任を取って処刑される。あなたは僕に命令されて従ったことにすれば、命までは取られないかもしれない。これまで本当によく戦ってくれました。ありがとうございます。あなたは生き残ってください」と言って説得した。
元大隊長は抵抗したが、ついにはエドモンドの説得におれ、「わかりました。必ず市民の安全を勝ち取って降伏します。ご武運を」と言って、涙を流した。
エドモンドは微笑んで、黙って両手を握った。
志願兵はすぐに集まった。負傷した兵士と女性たちが中心だった。
負傷兵たちは「とりあえず足は動きます。敵陣に突っ込んで自爆するぐらいは大丈夫です」と笑って言った。女性たちは悲壮な顔で「負ければ私たちは敵の慰み者にされて殺されるのがおちだもの。ここで町のために死ぬ方がましよ」と言った。
その夜突入することにして、夕方最後の晩餐を行った。
一つのパンを10人ぐらいで分け合って食べた。一人一口ぐらいしかなかったが、食べながら笑って話をした。
夜のとばりが落ち、全員爆装し、配置に着こうとしたその時、外ですごい音がした。何ごとか見にいったところ、なんと救援の軍が来て、敵を攻撃しているようだ。
サロの街を包囲する敵の後方から火の塊が無数に敵に降り注いだ。その後鬨の声がして戦いが始まった。
そのなかでも二人の男と女の老人が目についた。それに続くように女性二人が敵を次々と葬っていった。彼ら彼女らは闇の中を月明かりに照らされながら、舞うように大剣をふるい、敵を幾人もまとめて吹き飛ばしていた。その姿は、戦場を踊る妖精のようであった。
敵は大混乱に陥っていた。兵たちは逃げ惑い、将校は兵の統率ができず右往左往している間に殺されていった。
敵は組織的戦闘ができる状態で亡くなり、生き残った者は四方に逃げたしていた。
エドモンドは「助かった……」と言って気絶した。
ジョン達はサロの街を包囲する敵軍後方から突入した。サロの街が陥落寸前だった敵軍は、すっかり油断をしていた。
南スロベニア陣地内にて
南スロベニアの将軍ペトロ・ヴィーレは自分の率いる三個軍団で町を包囲し、明日には総攻撃をかけるつもりでいた。
副官が言った。「先の自爆攻撃にはびっくりしましたが、何とか体制も立て直して、明日には町を落とせそうですね」と嬉しそうに将軍に言った。
「まだわからん、サロの街からの攻撃には十分注意しろ。やつらヤケクソになって再び自爆攻撃を仕掛けてくるかもしれん」将軍は町の方を見ながら忌々しげに言った。
「今回は敵の突入があり次第、魔法使いにより火弾攻撃で敵を全滅させる予定でおります。哨戒体制も完璧です。ただ、町への哨戒に重きを置いたため、周辺の哨戒が少しおざなりになってしまいました」副官は言った。
「やむえんだろう。町からの攻撃に注視する必要があるし、明日の総攻撃のため、兵は休ませなくてはならない。まあ、救援が来る可能性はほぼないからな。今回北からは我々、南からはシケリア軍が攻めていて、今頃、エリトリアの王は兵を首都防衛のためにフローリアに集めている最中だろう」そう言って、将軍は「少し寝る。何かあれば起こせ」と言って、戦地用の簡易ベッドに寝転がった。
しばらくたって、騒がしい音で目が覚めた。「何事だ」というも将軍の天幕の周りには誰もいなかった。
兵たちは逃げ惑い、将校たちは次々と打ち取られていた。
このままではいかん、直ぐに兵を掌握しなくては、と思い装備を着こむと表に出た。
すでにあちこち火がつけられ、指揮系統は崩壊していた。
「われは、南スロベニアの将軍ペトロ・ヴィーレなり。兵よ落ち着け、誰ぞあるか」と大声で叫んだ。
一人の老人が近寄ってきた。見ると全身血まみれになっており、天幕が燃える明かりに照らされ、まるで赤鬼のようだった。
「南スロベニアの将軍とお見受けする。われは、ジョン・アッピア候爵、救援軍の指揮官である。その首もらい受ける」
「とれるものなら取ってみよ。逆にお前の首、儂が刈り取らせてもらう」両将軍は向かい合った。
その時、無数の火弾がペトロ・ヴィーレに襲い掛かり、更に後ろから女性が複数切りかかってきた。
いきなりのことで対応できず、火弾を何発も浴びた後、女たちになます切りにされた。
ジョンは困惑したように彼女達に言った。
「せっかくの一騎打ちなのに……」
「そんな時間ないでしょう。さっさと敵を潰さないと次の行動ができないでしょ」とジョンはミーアに怒られ、テルミヤはニヤニヤと怒られるジョンの姿を見ていた。
サロの街の中で
ジョンはすぐにサロの街に食料や医薬品を運び込み、カーヤに市民たちの救援に当たらせた。
また、軍を率いて、南スロベニアとの国境地帯にあった城砦を占拠、これを改修し、敵との防衛戦を構築した。
「おそらく、南スロベニアの王は再侵攻してくるだろう。防衛線を構築しなくてはな」なんせ手持ちの兵力は一個軍団とサロの街を防衛していた軍の残側部隊が一個大隊ほどしかない。これで防衛線を守らなくてはならない。
敵の残党たちは農民たちに狩らせた。首一つに着き10ブッシュ、将校は階級により更に賞金を上げる方法で彼らに武器を貸し与えて、狩らせた。
次々と首が駆られていった。
降伏した敵の捕虜たちも有効活用する。国境の防衛戦づくりに労働力として活用した後、足の腱を切ってたこつぼに入れ、ボーガンを持たせることとした。体は半分埋めて、正面しか見れないようにした。生き残るためには、味方に攻撃するしかない状態にした。
悪魔の所業だって?
しかし負ければ皆殺しだ。妻たちを守り、サロの街を守るためならば、なんと入れようが構わない。
しかし、現状ではじり貧なのが見えている。
フィルに一刻も早くシケリアを下し、救援に来てくれるよう伝えることを王に依頼した。
サラエボ・南スロベニア王宮にて
「何、北部に派遣した軍が全滅しただと!」アレクサンダル・カラジョルビッチ、王名アレクサンダル三世は報告を受けた側近に向かって言った。
「直ちに軍団を編成、派遣するようにしろ! 」王は怒鳴ったが、軍務大臣が「現在、我が国では8個軍団が整備され、南に2個、東に2個、首都に1個、西部海岸地域に1個、北部に2個配備されておりました。今回派遣した軍は、北部の2個と西部海岸地域の1個が派遣されておりました。これ以上の派遣は危険です。領地貴族たちの私兵を使用していかがでしょうか」と進言した。
「貴族の私兵は当然動員する。しかし、北部の領地貴族たちの私兵をかき集めても数千がいいところだろう。とりあえず、東部の2個軍と首都の1個軍、そして我が国の北部に位置する領地貴族の私兵をすべてエリトリアとの戦いに動員せよ。東部には南部の1個軍を振り分ける」
「東部と南部は小競り合いの多い土地、とても1個軍では対応できません」
「領地貴族の私兵を動員しろ。後、数合わせに臣民を徴兵せよ。これは命令である」王はそう言って、「普段貴族どもにはいろいろ特権を与えているのだ。このぐらい役に立ってもらわなくてはならん」と断言し、部下たちに命令を下した。
王が去った後、群臣たちはこそこそと言いあった。
「領地貴族たちの不満が爆発しなければいいが。ただでさえ、今の王になってからいろいろ負担を強いているのに」
「特別税のことか。仕方があるまい、我々も俸禄の1割を献上させられているのだから」
「領地貴族の負担はそれ以上だぞ。収穫量の2割を税として取られたうえ、今回の徴兵だ。破産する小貴族が増えるぞ」
「軍もそうだ。農民たちを徴兵すれば、それだけ収穫が減るし、武器の用意や食わせる経費も掛かる。本来は自弁で賄うことになっているが、そんなのは実質無理だ」
「すでに海軍は壊滅している。陸軍も半分近くが消滅した。この戦いこれ以上続けて益があるのか」
「このままだと、王家の威信が危ないからな。この国は周辺を敵対する勢力に囲まれ、危うい均衡の元かろうじて国を保持しているが、王家の信用が失墜したら下手をすれば外国からの侵略と内乱の勃発だ。負けるわけにはいかないのだろう」
「なんにしろ、王の言うとおり、実行するしかあるまい。最悪逃げる先を確保しておいた方がいいな」
群臣たちは各々の部署に散っていった。
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