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白虎様の妻になりました  作者: 海野雫
第5章 絆

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第5章 絆⑥

次の日、朝食を終え執務室で仕事をしていると、大和と理玖がやってきた。二人揃ってやってくるのは珍しい。


「どうした、二人して?」


書類に目を落としながら返事をする。最近書類が山ほど届いていて、処理が追いつかないのだ。


「白虎様、お願いがあります。茉莉様のお力をお借りできないでしょうか?」


邪神討伐の疲れが取れていない様子の大和が肩をさすりながら言った。確かに、大和にはいつも無理を言って酷使しているかもしれない。


「私もお願いしたいのですが・・・」


理玖は眼鏡を外して目頭を押さえている。書類の見過ぎで目が疲れている様子だ。


「日向、お前っ!」


目をやると、窓の外を眺めて知らんぷりしている。まったく口の軽い側近だ。そんなことで機密が守れるのだろうかと不安になる。はぁとため息を吐き、指でこめかみをぐりぐりともみほぐしながら大和と理玖に向き合った。


「仕方ない。お前たちにはいつも無理を言っているからな。今日、仕事が終わったら、俺の部屋に来い。」

「ありがとうございます。」


深々と頭を下げる二人はチラリと目線を日向にやった。日向がニヤつきながら親指を立て、「やったな!」と言っているのがよく分かった。それにつられて二人も思わず口角を上げた。


仕事が一段落して執務室の扉を開けると、大和と理玖が待っていた。「今日は特別だぞ」と言いながら共に私室に向かう。執務室のある建物に隣接する宮は白虎一族とその使用人たちが住んでいる。白虎である翔斗の部屋は一段奥になった部分だ。


「ただいま。今戻った。」


扉を開けると茉莉が駆け寄ってきた。共に連れてきた側近二人を見て「どうぞ」と言いながら頭を下げる。


「度々で申し訳ないんだが、こいつらも疲れが取れないらしく、疲れを取ってくれないか?」

「もちろんです。さぁ、こちらに。」


茉莉は側近二人を長椅子に促す。二人は並んで座った。


「どこか痛いところや辛いところはありますか?」


茉莉は二人を交互に見ながら尋ねると、


「私は肩から背中にかけてが・・・」

「私は目の疲れが・・・」


と各々が告げた。「分かりました」と頷きながら、茉莉は両手のひらに力を集中させた。光の玉がキラキラと輝き、右手を大和の肩から背中に、左手を理玖の目元に当てると、強い光が放たれた。二人は驚いて目を見開く。数秒の出来事だ。


大和は肩をぐるぐる回し、「なんと!」と驚いた声をあげた。


「このところずっと痛みが取れなかったのが軽くなりました。ありがとうございます、茉莉様。」

「私も目の疲れと頭の重さが軽くなりました。ありがとうございます。」


元気になった大和と理玖を見て茉莉はにっこりと微笑み、「他にお辛いところはありませんか?」と聞いた。しかし、二人はすっかり元気になったようだ。


「では、これで・・・」と退室しようとする二人を茉莉は引き止めて、夕食を一緒に食べないかと誘った。ぜひ!と言おうとした瞬間、茉莉の後ろで翔斗が「お前ら帰れ」と睨んでいるのが目の端に映った。


「い、いえ、そこまでしていただいては・・・」


深々と礼をして二人は帰って行った。翔斗ははぁとため息をついて「やれやれ」と言いながら茉莉に言った。


「二日連続ですまなかったな。」

「いいえ、私でお役に立てるのでしたら、いつでもやりますよ。それにしても、お二人ともお食事を食べて行かれたらよかったのに・・・」

「いや、だめだ。俺と茉莉の二人の時間が少なくなるだろ?」


優しく茉莉の頬を撫でる。茉莉も「そうですね」と返事をしながら二人並んで食事の用意された卓へと向かった。


昨日は日向が来ていて賑やかな夕食だったが、こうして二人でゆっくり食べる夕飯は格別だ。今日の出来事をぽつりぽつりと話しながら箸を進める。翔斗は仕事であった出来事などを茉莉に話すことが多くなった。とはいえ、日向のやらかしたことがほとんどだが。


「まぁ、そんなことがあったのですか!」


楽しそうに笑う茉莉の顔を見るのが好きだ。ずっと茉莉の笑顔だけを見ていたい。


「日向さんってお仕事中もそんな感じなのですね。」

「あいつには困ったもんだよ・・・」


はぁとため息をつきながら食後のお茶を飲んだ。空になった湯呑みに茉莉がお茶を注いでくれる。


「だが、ああ見えてもいい奴なんだよ。」

「はい、存じております。お二人のやりとりを見ていると、お互い信頼しあっているのがよく分かります。」

「そ、そうか・・・」


翔斗は照れくさくなった。茉莉にそんな風に見られていたとは思わなかったからだ。だが、実際のところ、日向だけでなく大和と理玖への信頼も厚い。自分に何かあった時には任せられるのはこの側近達だと思うからだ。いい人材に恵まれて幸せだ。


湯殿で汗を流し、部屋に戻ると茉莉もちょうど湯殿から戻ってくるところだった。風呂上がりの彼女は頬が赤くなっていて艶かしい。思わずゴクリと唾を飲み込んでしまった。


「翔斗様も今お戻りですか?」


こちらの気も知らずににこやかに話しかけてくる。目を逸らしながら「あぁ」と素っ気なく答えてしまった。不思議そうにこちらを見ているが、茉莉はなんとも思っていない様子だ。


部屋に戻り、長椅子に二人で並んで座り、寝るまでの時間をゆっくりと過ごす。茉莉がぬるめのお茶を淹れてくれた。心が落ち着く。


「今日はお疲れではありませんでしたか?」

「あぁ、まぁ、そうだな。疲れたと言えば疲れたが・・・」

「そうですか?では、疲れをとって差し上げますね。」


茉莉は翔斗の手を引いて寝台へと向かった。翔斗が先に布団へと入り、茉莉も足を入れる。翔斗は茉莉に背を向ける形で横になる。茉莉が翔斗の顔にかかっている絹糸のような銀色の髪の毛をさらっと払いのけ、抱きついてきた。翔斗の首に顔を埋めている。


「このまま朝まで翔斗様の温もりを感じていてもいいですか?」


翔斗は驚いたものの、急に目が重くなって目を閉じると意識が遠のいていった。

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