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白虎様の妻になりました  作者: 海野雫
第4章 邪神

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第4章 邪神⑩

「邪神様、あの娘を手に入れることができたそうですよ。」


大鬼は邪神に報告する。ですが、と話を続けた。


「娘は黒水冬夜の放った術に当たり、昏睡状態だそうです。」

「そうか。だがあの娘は回復能力を持っているのだろう?自分で自分を治せるのではないか?」

「おそらくは。術が強かったので、回復まで時間がかかるようですが・・・」

「娘が目を覚ましたらすぐに実行するかのう。」


黒い霧はすうっと消えた。


「やっと私の元に戻って来てくれたね、茉莉。」


冬夜は寝台に茉莉を寝かせて呟いた。頬を撫でようと手を伸ばすが、茉莉に触れることができない。自分が魂だけであることを改めて実感した。酷く落胆しているところへ、大鬼がやってきた。


「娘の様子はどうだ?」

「まだ目を覚ましません。」

「目を覚ますまで、お前が面倒見ておけ。目を覚ましたら連絡しろ。」


大鬼は必要なことだけを言い残すとその場を去っていった。


「誰が連絡なんかするか・・・」


冬夜が茉莉を連れ戻し、茉莉の世話をするよう言いつけられた時から、茉莉が目を覚ましたら、茉莉の力で自分の体を回復してもらい、一緒に逃げようと考えていたのだ。絶対、邪神などには渡さない。茉莉が目を覚ますのを心待ちにしている冬夜の顔は、もう、鬼の顔ではなく以前の優しい顔に戻っていた。


「茉莉・・・」


触れられない手で茉莉の頬を優しく触った。


茉莉を冬夜に連れ去られてしまった翔斗の落ち込みようは目も当てられないほどだった。どんよりした空気が執務室を覆っている。翔斗の目の下には真っ黒なクマができてた。茉莉がいなくなってから3日間、一睡もできていないのだ。


「翔斗さーん、今、大和達が手掛かり探しているから、そんなに落ち込まないでー」


日向が明るく声をかけてくるが、全く耳に入らない。茉莉を守れなかった自分の不甲斐なさに落ち込む。そして、茉莉のいない生活はこんなにも苦しいのかと思い知らされていた。日向が、やれやれと言いながら椅子に腰掛けると、大和が大慌てで執務室に入ってきた。


「白虎様、奴らが使ったと思われる、抜け道を発見しました!」

「何?!それは本当か?」

「はい、山の端にある廃坑なのですが、普段は岩で塞がれてあるものが、岩が動かされており隙間が出ていました。念の為確認してみましたところ、最近、何者かが通った形跡がありました。」

「その廃坑はどれぐらい前に閉鎖されたのだ?」

「確か100年前ほどだと言うことです。」


ふむ、と言いながら翔斗は顎を撫でた。100年前の廃坑を塞いでいた岩をわざわざ動かすものなどいない。そこから侵入したとして間違いないだろう。


「分かった。ではその廃坑を使ってどこへ向かったのか、確認してくれ。」

「承知しました。」


大和からの報告で、茉莉を探す手掛かりが見え、少しばかり心が緩んだ。だが、まだ茉莉が無事である確証はない。何か他に探す手立てはないものか・・・とこめかみのあたりを人差し指の関節でぐりぐりを揉んだ。


「そう言えばさー、茉莉ちゃんって翔斗さんの渡した髪紐つけてなかったっけ?」


翔斗は、はっ!とした。そうだった。茉莉は翔斗が渡した髪紐をつけていた。あの髪紐には翔斗が術を施してある。自分の術の痕跡を追っていけば、茉莉を見つけることができるかもしれない。


「日向、よくやった!!」


肩を強く叩かれた日向は、いてて、と言いながら役に立てたのが嬉しそうだ。


「大和が帰ってきたら、茉莉を探しに大和達と共に行くが、ここをお前と理玖に任せてもいいか?」

「大丈夫だよー。もうここは襲ってこないでしょう?一応、翔斗さん、結界しっかり張ってね。」

「あぁ、もちろんだ!」


茉莉を取り戻せると思うと、今までどんよりしていた気持ちが一気に軽くなった。


大和が帰ってくるとすぐに、翔斗は茉莉を探しに出かけた。廃坑は中で道が幾つも分かれていたが、通った後が確認できたのは一つだけで、すんなりと出口を見つけられたとのことだ。広場で虎に転身し、廃坑の出口まで向かう。そこから先は慎重にことを進めなければならない。どこに敵が潜んでいるか分からないのだ。翔斗は意識を集中し、自分の術の痕跡を辿って行った。


廃坑の出口からさほど遠くない山の端に洞窟が見えた。術の痕跡はその洞窟の中まで続いていた。敵の数も分からないため、兵を3名、偵察に行かせることにした。


「中の様子を探って来てくれ。」


兵は「はっ!」と返事をすると洞窟へ向かった。しばらくすると兵が帰ってきたが1名足りない。


「あと一人はどうした?」

「申し訳ございません、敵に見つかり殺されてしまいました。」

「そうか・・・で、中の様子はどうだった。」

「はい、入り口近くの部屋には鬼が50ほど、その奥の部屋に一際大きな鬼が一人おりました。その先に部屋が二つありまして、どちらかが茉莉様のいる部屋だと思われます。一つは黒い霧のようなもので覆われていました。」


黒い霧。それが邪神の魂なのか。これは大掛かりな救出になるかもしれないと直感で感じた翔斗は手のひらをくるっと返し、小さな虎を三匹出した。


「四神たちに応援を頼む。」


小さな虎はヒュウっと去って行った。『通』を送ってすぐに、玄武、青龍、朱雀がそれぞれ兵を率いてやってきた。翔斗の前に降り立つ。


「無理言ってすまない。」


翔斗は3人に頭を下げた。


「何を言ってるんだ、俺たち兄弟みたいなもんだろ?水臭いぞ。」


玄武こと勇輝が翔斗の背中をバシバシと強く叩く。


「そうだぞ。お前は俺たちの一番したの弟だからな。」


青龍こと碧登がにこやかに言う。


「あんな体の弱かった翔斗がこんなにも立派になって・・・」


朱雀こと扇羽が目を潤ませている。こほん、と大和が咳払いをして、四神達へひざまづいた。


「守護神の皆様、昔話はそれぐらいにしていただいて・・・」

「そうだな、様子を説明しようか。」


翔斗が先ほど戻ってきた兵の話を勇輝達にした。入り口あたりにいる鬼は兵に任せてもいいだろうとの結論に至った。厄介なのは大鬼と邪神、そして茉莉を奪った黒水冬夜。茉莉はおそらく冬夜と同じ部屋にいるであろうとのことだった。


「では、我々は一番奥の邪神の元へ直接向かう。翔斗は花嫁さんを取り戻すのが先決だな。それが終わったら、我々と合流してくれ。


勇輝の言葉に翔斗は、分かった、と返事する。


「邪神は魂だけになっているとは言え、かなり強力な術を繰り出してくるかもしれん。転身してから向かったほうがいいかもしれない。」


翔斗は先日の冬夜との戦いでそう思った。魂だけの人間にあれだけの力を与えられるのだ。邪神本体はもっと強力に違いない。


「彪人陛下のために!」

「この国のために!」

「平城の国の平和のために!」


四神は転身した。どの守護神達も目をギラギラとさせている。


「行くぞ!」


翔斗が叫ぶと、皆、洞窟へと向かって行った。



「何?敵が入り込んできただと?」

「はい、3名のうち一人は仕留めましたが、あと二人は逃しました。」

「攻め入ってくるかもしれんな・・・」


そう言うが早いか、大鬼は部屋を出て邪神の元へ向かった。


「邪神様、どうも白虎達がすぐそこまで来ているそうです。」

「そうか、であれば、娘を連れてここを出るしかないな。」


邪神はゆらりと霧を茉莉がいる部屋に向かおうとしたその瞬間。ドーン、と入り口の方で大きな音が聞こえた。


「ま、まさか!こんな早くに襲撃されるとは!邪神様、こちらでお待ちください。すぐに片付けてまいりますので。」


大鬼は勢いよく邪神の部屋から出て行った。


「わしが一捻りで潰してやっても良いものを・・・」


グハハと不気味な笑い声が響いていた。


先鋒として侵入した四神の兵達はあっという間に鬼を殲滅した。どの四神も精鋭を共に連れて来ており、瞬殺だった。それを見届けた四神たちは一斉に奥へと進む。行く手には大鬼が仁王立ちしていた。


「翔斗、お前は花嫁を助けに行け!」

「すまん、ここは頼んだ。大和、俺についてこい!」

「承知しました。」


大鬼を3人が引き付けている間に、二匹の虎がするりと脇をすり抜けて奥へと進んだ。洞窟は暗く、ところどころ蝋燭の明かりがあるだけだ。左手に部屋らしきものが見える。邪神がいる部屋は黒い霧がかかっているとの報告だったので、おそらくあれが茉莉のいる部屋だろう。扉を蹴破って中に入ると、そこには寝台に寝かされている茉莉と一人の男がいた。翔斗はガルル、と牙を剥く。


「久しぶりだな、茉莉の元婚約者よ。茉莉を返してもらうぞ。」

「茉莉は渡さない!」


冬夜は術を繰り出した。


「そんな程度では俺は倒せないぞ!」


翔斗は全身の毛を逆立て、ビリビリと帯電させる。大きな前足を冬夜に向けて振り下ろした。


「っつう!」


半透明な魂である冬夜はモノが通り抜けるはずなのに、大きな打撃が走った。見ると傷ついていた。じりじりと白虎がにじり寄ってくる。気づけば、茉莉を寝かせている寝台から遠ざかっていた。白虎が寝台脇まで近づいている。


「大和!」


白虎が叫ぶと、一回り小さい白い虎が近寄ってきた。白虎は茉莉を優しくくわえ、もう一匹の虎の背中に乗せると、「後は頼む」と告げた。茉莉を乗せた虎は外へ向けて走っていった。


「さあ、どうする?このままお前を抹消してやろうか?」


白虎はニヤリと笑う。「くそっ!」と叫び、白虎に向けて術を繰り出すが、スルリスルリと買わされてしまう。


「この前の勢いはどうした?」


白虎がすぐ目の前まで近づいてきた。白虎の前足が冬夜の頭のすぐ上に迫った。終わった・・・そう思ったが、一向にその前足が振り下ろされなかった。


「お前を抹消したら、きっと茉莉が悲しむだろうからな。」


そう言いながら白虎は前足から術を繰り出した。スルスルと白い霧が冬夜を包んだ。


「お前には罪人の烙印を押しておいた。本来であれば邪神に与したものは平城の国の民として我々は守る必要はないのだが、今回は見逃してやろう。向こうでしっかり罪を償ってこい。」


冬夜の目から涙が溢れた。白虎がその手を天に振り上げると、冬夜は天に昇って行った。


「さて、本命に行くか。」


翔斗は部屋を後にし、大鬼のいる場所へと戻った。すると大鬼は四神達に倒されていた。


「すまん。遅くなった。」

「無事に花嫁は取り返せたか?」

「あぁ、大和に連れて行ってもらった。」

「よし、じゃあ邪神の元へ行こうか。」


勇輝を先頭に、四神は奥へと進んでいった。一番奥の部屋には黒い霧がかかっている。ここに邪神がいるに違いない。勇輝にまとわりついている蛇が火をふき扉を燃やした。中には黒い霧がゆらゆらと揺れていた。


「おや、四神勢揃いとは。」


ヒヒヒと邪神は笑う。四神は無言でジリジリと邪神に近づいていく。


「あの娘がいれば、わしは不死身になれるのだぞ。」


ふわりふわりと揺れながら針金のようなもので四神を狙う。4人はするりとそれをかわす。


「残念だな。茉莉は返してもらった。」


翔斗が言うと、邪神はピクッと動いた。


「何度でもさらいにいくから問題ない。」

「そうはさせない。お前にはここで死んでもらう。」


勇輝が水の縄を繰り出し邪神に放った。邪神はするりと抜ける。


「そんなものではわしを捕まえられんぞ。」


部屋中をぐるぐると駆け巡る。今度は勇輝と碧登が体に帯電させてから同時に水の縄を繰り出す。邪神は凄まじい速さですり抜けた。


「四神の力はこんなものか?弱いのう。」


はははと不気味な笑い声が聞こえる。霧の中から勢いよく術が放たれた。四神は飛び退き、さらりと避ける。今度は水の縄に加えて勇輝の蛇が邪神に牙を向く。すかさず碧登は尻尾を振り回した。


「グエッ」


邪神に碧登の尻尾が命中した。すかさず、翔斗と扇羽も体に帯電させて二人同時に火を吹く。凄まじい炎の渦が邪神を飲み込んだ。機を逃さず四人一気に術を邪神に向けて放った。


バン、と大きな音が鳴り、邪神の魂が砕け散った。周りにハラハラと灰のようなものが散ってきた。止めに扇羽が大きな火を吐き、翔斗が帯電した爪で灰を割く。邪神の魂はあっけなく砕けた。再度魂が復活しないように4つに分け、術で封じてから抹消した。


洞窟の外に出て、人間の姿に戻った翔斗は勇輝、碧登、扇羽に再度頭を下げて礼を言った。


「本当に今日は来てくれてありがとう。みんなのおかげで茉莉も取り戻せたし、邪神も抹消できた。助かった。」

「いいって言っただろ?」


3人は顔を合わせ笑う。それを見て翔斗も笑顔になった。本当に心から笑えたのは何日ぶりだろう。ほっと胸を撫で下ろした。


3人を見送ってから、茉莉の元へ駆け寄った。側に寄り添っていた大和に様子を伺う。


「茉莉の様子はどうだ?」

「術が解けてないようで、まだ目覚めていないようです。」

「そうか、すぐに宮に連れて帰ろう。」


翔斗はくるりと転身して、自分の背中に茉莉を乗せて、宮へと戻って行った。

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