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白虎様の妻になりました  作者: 海野雫
第4章 邪神

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第4章 邪神⑨

「・・・というわけだ。」


執務室に戻った翔斗は部屋に残っていた側近達に茉莉の考えを伝えた。それを聞いた3人は各々驚きを隠せない。しかし、茉莉の考えたこの方法こそ、一番被害が少なく刺客を仕留めることができる方法であろう。


「なんと、大胆なことをお考えになる方だ、茉莉様は。」


ふふふ、と楽しそうに大和が笑う。翔斗はそんな大和に言う。


「茉莉はここに来る前、婚約者がいただろう?その者が邪神に殺されて、人を失う悲しみを知ったんだよ。もう、誰も死なせたくないと言っていたな。」

「確かに、そのようなことがありましたね・・・」

「あぁ。この前街に行った時に、ここの民が豊かに楽しく暮らしているのを見て心が弾んだそうだ。民の笑顔を自分の手で守りたいのだと。」

「心優しいお方だ・・・」

「あぁ、そうだな・・・」


翔斗は目を伏せた。茉莉から告げられた方法は一番被害が少なく、刺客を殲滅する方法だ。だが一方で、最も茉莉の身が危険に晒される方法でもある。そんなことを茉莉にさせてもいいのかと思うが、それしか方法がないと腹を括る。そんな姿の主を見た大和は翔斗に言う。


「白虎様。我らが誇る白虎軍がしっかり茉莉様をお守りしますからご安心ください。」


「そうだよー」と勤めて明るい声で日向も同意する。理玖もコクコクと頷いている。


「我々の兵たちを甘く見てもらっては困りますよ。」

「そうだな・・・大和、よろしく頼む。」


翔斗は大和に頭を下げた。頭を上げると、だが、と話を続けた。


「その時は、私が総大将となる。できるだけ側で茉莉を守ってやりたいのだ。」

「本当に白虎様はお強くなられましたね・・・」


感無量、とばかりに理玖は眼鏡を取り、目頭を抑える。そうだろう?と言いながら翔斗が理玖の肩をポンポンと叩く。


「できるだけ早く、刺客を殲滅したい。準備に取り掛かってくれ。」

「「はっ!!」」


3人の側近達はそれぞれの持ち場へと戻っていった。部屋に一人残った翔斗はこの殲滅作戦を必ず成功させると心に誓った。


2日後、計画を決行することになった。日の出とともに準備に取り掛かる。翔斗は軍服に身を包み、凛々しい姿だ。体の線は細いが、筋肉質なので軍服がよく似合う。茉莉は動きやすい袴を着用し、翔斗からもらった髪紐を使って、高い位置で髪の毛を一つにまとめた。翔斗の姿を見つけた茉莉は駆け寄った。


「翔斗様、とっても素敵です!」


今から大掛かりな作戦をする前だというのに、そんな声をかけられてしまっては心が折れるではないか・・・と心の中でつぶやく。だが、平静を装い茉莉の顔をスッと撫でた。温かい手だ。


「準備はいいか?」

「はい・・・」


茉莉は自分の頬に当てられた翔斗の手に自分の手を重ねる。


「私は自分の守りたいものを守って見せます。」

「・・・そうだな。」


どちらからともなく、手を取り合い、二人は宮の端にある丹塗りの門へと向かった。そこには大勢の兵達がすでに集まっている。文官で術の使い手も混じっていた。術を使うのが苦手な他の文官達は翔斗と茉莉で強力に結界を施した離宮に避難させておいた。翔斗はぐるっと見回し、準備が整っていることを確認する。翔斗は大和に合図をした。


「それでは今から作戦を開始する!各々、持ち場につくように!」


大和の声を聞き、一斉に持ち場へと着く。それを確認した翔斗は茉莉の耳元で「俺が必ず守る」と囁いた。茉莉は大きく頷くと、門へ近づいて行き、結界を解いて一人で外へ出た。


門の外は静寂に包まれていた。まだ夜が明けたばかりだからか、人の姿は全くない。茉莉は門のすぐ外で立ち止まり、大きく深呼吸した。


(大丈夫、きっと大丈夫・・・)


自分に何度も言い聞かせる。結局、今日まで邪神の刺客の居場所は掴めなかった。それに加え、どのような姿なのか、刺客の人数はどれぐらいいるのかもわからない。だが、茉莉を狙っているとすると、宮の近くに潜んでいるはずだ。不安な気持ちを押さえ、一歩一歩、歩みを進めていった。門の影からは翔斗が見守ってくれているはずだ。それを思うと心が少しだけあたたかくなる。


さほど門から離れていない場所で、耳元で「茉莉」と囁かれた。驚いて周りを見渡すが、誰もいない。


「誰っ?」


背筋に冷たいものが走る。耳元で囁かれたということは、すぐそばにいるのだろうか。恐怖に慄きながらも勇気を振り絞り、震えた声で問う。


「私に用があるのでしょう?」

「そうだよ・・・」


茉莉の目の前にゆらっと人影が現れた。しかしそれは半透明で人間でないというのが見て分かる。その人影に目をやり、茉莉は驚いた。その人影は、茉莉が外界にいた時に戦で死んだ婚約者、冬夜だったからだ。


「と、冬夜様!」

「覚えていてくれたんだね。嬉しいよ。」


ニヤッと笑いながら、冬夜は茉莉に近づいてくる。茉莉はじりっ、じりっと少しずつ門の方へと追い詰められていく。


「あ、あなた様はお亡くなりになったはず。」

「そうだよ。君に見守られながらね。だけど邪神様が私の体を元に戻してくれるとおっしゃったんだ。君を連れていったらね。」


ニヤニヤと笑いながら近づいてくる冬夜の顔は、以前の優しい顔と比較できないほど、鬼のような悍ましい顔に変わっていった。茉莉の知っている冬夜とは違う。


「あなたは冬夜様ではありません!」

「いや、私は黒水冬夜だよ。さあ、茉莉。私と一緒に帰ろう。そして私と結婚してくれ。私のことを慕っていると言ってくれただろう?」


手を差し伸べながらじりじりと茉莉ににじり寄ってくる。茉莉は冬夜を近づけまいと一歩一歩後ろに下がる。


「私のことがそんなに嫌なのかい?それともあんな悍ましい虎の妻になることを君は望むのか?」


冬夜は今、自分が鬼のような姿になっている事に全く気づいていないのだろう。自分の方がいいだろう?とニヤニヤしながら近寄ってくる。


「白虎様は悍ましいお方などではありませんっっ!!」


茉莉が叫んだ途端、冬夜との間に結界ができた。それを見た冬夜は一瞬、悲しそうな表情を浮かべたものの、すぐに元の表情を取り戻し、茉莉に問う。


「そんなに私が嫌なのか?白虎の方がいいのか?」

「私はあなたが亡くなってから、もう誰も戦いで死んでほしくないと思いました。家族が悲しむのを見たくないと思いました。白虎様の妻になり、私の持つ力でみんなが楽しく笑顔で過ごせることに尽力したいと自分自身で望んだのです。」

「そうか・・・ならば力づくで連れて帰るしかなさそうだな。」


冬夜は手のひらを結界へ向け、術を放った。結界はピキピキと音を立ててひび割れる。さらに術を繰り出すと大きな音をたて、結界は飛び散った。既の所で茉莉は門の中へ逃げ込んだ。翔斗が走って近づいてきて茉莉に話しかけた。


「茉莉、大丈夫か?」

「はい、怪我はありません。あの人は私の死んだ婚約者でした。私を取り戻して結婚したいと・・・」


早口で冬夜との会話をかいつまんで翔斗に報告する。茉莉を渡してなるものか、と翔斗はギリギリと歯軋りした。


「茉莉、奴は攻め入ってくるはずだ。今すぐ安全な場所に避難していてくれ。よくやってくれた。あとは俺たちが奴を殲滅する。」

「分かりました・・・」


兵に促され、茉莉はその場を去った。結界が強く張られている建物の中に入り、外の様子を伺う。すると突然、バーンと大きな音が轟いたかと思うと、門が冬夜によって破られた。いつの間にか冬夜の脇には鬼も現れ、術を繰り出しながら宮の中に入って来た。


翔斗と冬夜が対峙している。何か会話をしているようだ。茉莉は気になって結界の張られた建物を出て、そっと二人に近づいた。崩れた丹塗りの門のかけらがあちこちに散らばっている。つまづかないように気をつけながら近づき、気付かれないように耳をそばだてた。


「おやおや、白虎様自らお出ましとは。ちょうど良かった。」

「お前の目的は一体何だ。」

「私は茉莉を取り戻して、夫婦になりたいだけですよ。あなたを殺してから、ね。」


冬夜は牙を剥き出しにしてヒヒヒと笑った。身も心も鬼に侵されているようだ。茉莉はゾワリと背筋に寒気が走った。


「そうか。だが茉莉は渡さん!俺の花嫁だからな。」


そう言うが早いか、翔斗は手のひらから炎を繰り出し冬夜に向かって放った。それをふわりと冬夜は交わす。武人であったため身軽だ。


翔斗の攻撃を皮切りに、白虎の兵達は次々に鬼達に襲いかかっていった。それを横目で見ていた冬夜は、今度はこちらから、と言いながら術を繰り出す。翔斗は刀を抜き、それを跳ね除ける。次に刀に炎を纏わせ、冬夜に切りつけた。冬夜はひらりと交わす。お互い一歩も譲らない。


茉莉は物陰から二人の攻防戦を見てハラハラしていた。少しずつではあるが、冬夜に翔斗が追い込まれているのだ。冬夜は武人だ。おそらく戦いは二人は五分かもしくは冬夜の方が上かもしれない。


「くそっ!」


翔斗は唇を強く噛んだ。相手の力が強すぎる。おそらく邪神より鬼の力を与えられているのであろう。普通の人間では考えられない術を次々と繰り出してくる。このままでは兵達だけでなく、茉莉も守りきれない。白虎に転身し一気に片付けるか・・・そう考えてた瞬間、ビュンと冬夜が大きな術を繰り出した。射抜かれる!そう思った瞬間・・・


「やめて!!」


叫びながら茉莉が翔斗の前に飛び出してきた。茉莉は結界の張られた建物にいたはずなのに、なぜ?ズン、と音を立て、術が茉莉の体を突き刺した。目の前で茉莉が崩れ落ちる。


「茉莉っ!!」


手を伸ばすが届かない。


「あぁ、茉莉にあたっちゃいましたか。でもまあいい。」


ヒヒヒと笑いながら冬夜は人差し指を立て、くいくいっと自分の方に動かすと、茉莉がふわりと浮いて冬夜の腕の中におさまった。その瞬間、冬夜の姿はすうっと消えた。翔斗の伸ばした手が虚しく残った。

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