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白虎様の妻になりました  作者: 海野雫
第4章 邪神

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第4章 邪神①

「ほう、そのような娘がいるのか。」


形を持たない黒い霧がつぶやいた。


「はい、侵入を試みていた南の結界の綻びを急速に修復され、閉ざされてしまいました。かなりの強度の結界となり、厄介です。」


黒い霧に向かい、大鬼が報告した。南の結界の綻びを知った黒い霧は、妖や鬼たちをそこから侵入させて国を乗っ取る計画をしていたが、その目論見(もくろみ)も娘によって失敗した。黒い霧は歯軋りしながら言った。


「その娘を何としてでも手に入れよ。我の姿もその者によって元に戻るやもしれん。」

「かしこまりました。」

「楽しみだのう。」


今の姿のままだと、妖や鬼たちをうまく操れない。力も弱く、国を乗っ取ったとしてもすぐに返り討ちに会うだろう。姿を元に戻し、力を取り戻すために娘の力は必要だ。黒い霧はそう呟き、すうっとその場から消えた。



平城の国では、帝に呼ばれ四神を守る一族の当主たちが集まっていた。


「陛下、ご機嫌麗しゅう。」

「面をあげよ。」


四人は顔を上げた。中性的な顔立ちの帝、彪人(あきひと)陛下が脇息(きょうそく)にもたれかかりながら(しゃく)を口元に当てている。


「急に呼び立ててすまなんだな。」


四人の顔をゆっくりと見て、西の守護神を守る一族、白金紫苑で目をとめた。


「白金の当主よ。先ほどそなたの娘は儀式に参加したのだったな。」

「はい、仰せの通りでございます。」


紫苑は両手をつき小刻みに震えながら頭を下げた。茉莉は一体どうなったのか。不安が募る。


「そう緊張するな。そなたの娘は神の国で幸せに暮らしておるぞ。」

「まことでございましょうか?」


紫苑は勢いよく頭を上げ、帝を見た。


「そなたの娘は白虎に寵愛を受けておる。その白虎より儀式について詳しく伝えて欲しいと頼まれてな、今回、皆を集めて儀式について話すことにしたのよ。」


彪人は続けた。


「そちらは儀式を人身御供(ひとみごくう)として生贄(いけにえ)のように思っていたであろう?そうではなく、儀式は四神の妻に迎えるものなのだよ。」

「なんと!」


驚きの声が上がった。人身御供として差し出すと思っていた当主たちは困惑した。生贄となるなら自分の娘は差し出したくないと誰もが思っていたからだ。一族で娘がいなかった場合は、傍系から年頃の娘を人身御供の儀式に参加させていた。


「白金紫苑。そなたの娘は今、白虎のところで結婚の儀を行う準備を進めておる。決して酷い扱いを受けているわけではないから、安心せよ。」


彪人は、ほほほ、と朗らかに笑った。


「そうでございましたか。神の国で健やかにしているとのことで安心いたしました。」


紫苑は胸を撫で下ろした。娘が神の国で元気に過ごしていると知れてありがたい。しかし、ふと思い出し言葉を続けた。


「ところで、古い文献で守護神様の社付近にミイラや(むくろ)があったと記述されていましたが、それはどういう事でしょうか?」


そのような記述があるからこそ、生贄となり、命を捧げなければならないのではないかと当主たちは勘違いしていたのだ。


「あぁ、そのことか。」


彪人は笏を口にあて、ほほほと笑いながら続けた。


「外界へ出るには四神の許しが必要なのじゃ。だが、その許しがないまま外界、つまりこの国に戻ろうとすると、術により命を落としてしまうのだな。」

「そ、そんな事が・・・」

「さよう。無闇に外界と行き来できぬよう、抜け道には術がかかっておる。そこを通る事ができるのは四神だけじゃ。もちろん、外界から神の国に入ろうと試みても、術にかかり命を落とす。」


彪人は目を細めて言った。


年若き娘が儀式に参加した場合、家に帰りたくなり抜け道を戻ることがあったのだろう。または恐怖に耐えられず逃げ出したものもいるかもしれない。この儀式が四神の妻を娶るものだと知っていたら、そんな悲しいことはなかったかもしれない。


「そこで頼みなのだが」と言いながら彪人は話を続けた。


「今、神の国は結界が脆くなっておる。儀式に参加する娘は一族の中で回復能力の強い者を送ってもらいたいのだ。」

「それは何か理由があるのでしょうか?」


北の当主、黒水闘吉が尋ねた。


「回復能力はこの国で使うより神の国で使うと何十倍もの力を発揮できる。そのため、結界が強まり、この国に妖などが入る余地がなくなるのよ。」

「なるほど。この所の妖などの侵入が多いのは、そのためでしたか。」


闘吉が納得した面持ちで言った。


「その通りじゃ。回復能力を持つ妻を娶ると、四神との間にできた子は母の回復能力を受け継ぐため、結界を常に強固に保つ事ができるのじゃ。」

「それでは、茉莉は白虎様の元でお役に立てているのですね。」

「その通りじゃ。先ほども南の地へ赴いてもらい、結界修復をしてもらったばかりじゃ。」


紫苑は茉莉が神の国で役に立てていることに安堵し、目を潤ませた。


「それに」と彪人は話を続けた。


「回復能力があることで、神の国の民たちの健康が保たれるのじゃ。神の国は妖たちが頻繁に攻め入ってくる。傷を負った兵士たちの傷の回復の手助けになるしな。」


紫苑は確かにその通りだと頷いた。茉莉が家にいた時は家族や使用人たちは常に健康で、怪我をしても治りが早かった。


「ところで、四神より啓示で、戦準備を整えていたと思うが、白金紫苑の娘の力により戦は回避できたので安心するが良い。」


当主たちは顔を見合わせてほっと胸を撫で下ろした。


「だが、油断は禁物じゃ。まだまだ結界の綻びもあるゆえ、戦の準備を整えておいてくれ。」

「かしこまりました。」


四人は深々と頭を下げた。

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