第1章 突然の別れ②
白金家の当主、紫苑は焦っていた。
3年後に迫るあの儀式。それまでに娘・茉莉の縁談を見つけなければ、茉莉は儀式に捧げられてしまう。
白虎様からの啓示を受ける能力がないと判断された茉莉は、儀式への参加を回避するため、礼儀作法や家事に厳しく取り組んできた。しかし、このまま結婚できないまま3年が過ぎてしまえば、茉莉は運命を逃れられない。
そんな折、北の守護神を守る黒水家当主から縁談の申し出が届く。
まさに渡りに船。紫苑は早速返事を書き、3日後に二人は料亭で会食する。
「お久しぶりです、闘吉様。」
紫苑は美しい所作で黒水家当主・闘吉に挨拶をする。
「いやはや、紫苑殿。ご無沙汰しております。さて、早速本題に入りましょう。」
簡単な挨拶の後、縁談の話題に移る。
茉莉は13歳、冬夜は16歳。結婚には申し分のない年齢である。だが、紫苑には茉莉に教えなければならないことがまだあった。
茉莉には何の能力もないと思っていた紫苑だったが、ある日、茉莉に折檻をした際、驚きの事実が発覚する。なんと、茉莉には傷を癒す回復能力が備わっていたのだ。
しかも、体調不良の使用人と接するだけで、その体調を回復させる力まで持っていた。
紫苑は茉莉に術を教えたわけではないが、折檻を続ける中で自然と能力が開花したようだった。
この能力があれば、守護神の結界を強め、国を守ることができる。
北の一族である黒水家にとっても、茉莉の回復能力は大きな戦力となるだろう。
結界強化や兵士の治療など、様々な術を教える必要がある。
「この度は、娘・茉莉へのご縁談を誠にありがとうございます。」
「拙宅の息子もそろそろ嫁を迎えるべき年齢になりましてね。ちょうど娘御さんと年齢が近かったことを思い出し、ご連絡いたしました。」
「私も娘の縁談先を探しておりましたので、誠に光栄です。」
紫苑は穏やかに微笑み、闘吉に告げた。
「しかし、すぐには嫁に出すことはできません。」
「何か問題がおありですか?」
「実は、娘にはある能力がありまして・・・」
紫苑は茉莉の能力について闘吉に説明する。それを聞いた闘吉は、驚きと喜びを隠せない様子だった。
「それはこの国にとって、非常に喜ばしいことですな。」
「はい、その通りです。しかし、娘はまだ術を使いこなせておりません。つきましては、婚約まで2年の猶予をいただけますでしょうか?」
紫苑の申し出に、闘吉は快諾する。婚約は2年後、結婚式は3年後という運びとなった。