第3章 神の国⑧
昼食後、翔斗と茉莉は宮を出て、広場へ向かった。そこには既に理玖が待っていた。
「理玖、待たせたな。忙しいところすまん。」
「いえ、滅相もございません。」
理玖は丁寧に頭を下げた。
「今日はあの山の上で練習をしようと思う。」
翔斗が指差す先には、お椀型の山が見えた。木はほとんど生えておらず青々としている。茉莉はどうやってそこへ行くのか疑問に思っていると、翔斗が続けた。
「空を駆けて行くから心配ない。」
空を駆ける?茉莉が首を傾げていると、二人は虎の姿に変わった。
「きゃぁ!」
茉莉は驚いて叫んだ。翔斗の虎は理玖のそれよりも一回り大きく、銀色の美しい毛並みだった。茉莉は「綺麗・・・」と呟きながら翔斗の毛を撫でた。
「俺の背中に乗れ。振り落とされないように、しっかり捕まるんだぞ。」
翔斗は茉莉が背中に乗りやすいように屈んだ。茉莉は翔斗の背中に乗り、腕をしっかり翔斗の首に回した。翔斗の体温を感じて安心した。
「行くぞ!」
翔斗は地面を蹴り、空を登っていった。地上がどんどん小さくなり、下に見える家々は米粒のようだ。空気が澄んで冷たかったが、張り詰めた空気が心地よかった。あっという間に山の頂上に着き、翔斗は茉莉を降ろして人の姿に戻った。
「大丈夫だったか?」
「はい。翔斗様のおかげで怖くありませんでした。ありがとうございます。」
「そ、そうか・・・」
翔斗は照れ隠しに頬をかいた。後から来ていた理玖も山に降り立ち、人の姿に戻っていた。
「よし、始めるか。」
茉莉は心臓がドキドキしていた。結界を張れるか不安だったからだ。
「まずは回復能力を使う時のように、手のひらに力を集めてみるんだ。」
「こ、こうでしょうか?」
茉莉は手のひらに力を集めた。翔斗と理玖は驚いた。
「これは素晴らしいですね。我々でもこれほどの大きな力は出せませんよ。」
理玖が感心した面持ちで言った。
「そ、そうなのですか?」
「はい!」
理玖に褒められた茉莉は自信を持った。
「次は、その力を横に広げるような感覚で、理玖と茉莉の間に壁を作ってみろ。」
「やってみます。」
茉莉は手を横に動かし、力を広げて壁を作ってみた。キラキラ光るものが手から繰り出され、壁ができた。
「すごいじゃないか!初めてなのに結界を張れるなんて。」
翔斗は感嘆した。結界を張るのは難しいのに、茉莉は簡単にやってのけた。
「理玖、その結界を破ってみてくれ。」
「かしこまりました。」
理玖は術を使って結界を破った。簡単に破れてしまい、茉莉はがっかりした。
「そうがっかりするな。初めてで結界を張れただけでもすごいことだ。何度も練習すれば強固な結界が張れるようになるはずだ。」
「本当ですか?」
「ああ、そうだよ。」
翔斗は茉莉の頭にぽんと手を置いた。温かく大きな手だった。翔斗の体温を感じると安心する。
「もう一回やってみてもいいでしょうか?」
「もちろんだ。」
茉莉は何度も結界を張った。理玖に壊されるたびに自分の力のなさに落ち込みそうになったが、気持ちを奮い立たせて練習を続けた。日が傾き始めた頃、翔斗が「今日は次で最後にしよう」と言った。茉莉は手のひらに全ての力と意識を集中させ、理玖の前に思い切り放った。
「おおっ!!」
翔斗と理玖の歓声が上がった。茉莉が恐る恐る目を開けると、今までのものとは比べ物にならないほど分厚い結界が張られていた。理玖がさまざまな術をかけて壊そうとしたが、びくともしない。茉莉は嬉しくて破顔した。
「翔斗様、どうでしょうか?」
「すごいぞ、茉莉!よくやった!!」
翔斗は茉莉を抱きしめた。
「本当に素晴らしいです、茉莉様!」
理玖も眼鏡の奥の目をキラキラさせて喜んでいる。すごい人が花嫁になったものだと感心した。
「今日はこのぐらいにして、明日は我が西の地の結界を強める練習をしよう。」
「はい!頑張ります!」
宮に戻ると、既に夕食の準備が整っていた。
「今日は疲れただろう?」
茉莉のことを心配して声をかけたが、茉莉は興奮した様子で「大丈夫です」と答えた。二人でゆっくりと食事を取り、食後は長椅子に並んで座り、少し話をした。沈黙が続いた瞬間、茉莉の頭が翔斗の肩にもたれかかった。茉莉は寝息を立てていた。
「今日は頑張ったから疲れているんだろうな・・・」
翔斗は微笑みながら、茉莉をゆっくりと横抱きにして寝台へ運んで寝かせる。そっと優しく茉莉の頭を撫で、「これぐらいは許されるよな・・・」と言いながら、おでこに口付けをして部屋を後にした。




