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白虎様の妻になりました  作者: 海野雫
第3章 神の国

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第3章 神の国⑥


「あぁ、茉莉をいつ南に行かせようか・・・」


朝餐(ちょうさん)を終え、執務室に戻った翔斗は顎に手を当てながら考え込んだ。茉莉はまだこの国に来たばかりで、側近の大和や理玖、西の地すらも紹介できていない。だが、早めに行ってほしいと彪人に頼まれていた。うーん、と悩んでいると、雪がやってきた。


「坊ちゃん、失礼します。」

「どうした?茉莉に何かあったか?」

「いえ、大したことではありませんが、茉莉様が坊ちゃんと一緒に過ごす時間を増やしたいとおっしゃって、食事を一緒に摂れないかと仰っていました。」

「それは本当か?」


翔斗は椅子を倒しそうになりながら立ち上がった。雪は「はい」と微笑んだ。翔斗は口角が上がりそうになるのを抑え、咳払いをして椅子に座り直した。


「そうか、分かった。今日の昼から食事を共にしよう。その前に側近たちに茉莉を紹介したい。今日の午前中、茉莉の予定が空いているようだったら執務室に来てもらえるか?」

「かしこまりました。すぐにお連れします。」


雪はそう言って退室した。部屋の隅で書類に目を通していた日向が顔を上げ、ニヤニヤしながら翔斗を見ていた。


「何がおかしい?」

「翔斗さん、茉莉さんから一緒に食事したいって声かけられてよかったねー」

「お前、ここでは白虎様と呼べと言っているだろう・・・」


まったく、とため息をつく。とはいえ、日向の言うことには違いない。内心、喜びで満ちていて、今すぐにでも茉莉の元へ駆けつけたいぐらいだ。だが、まだたくさん仕事が残っている。大和たちに茉莉を紹介するため、彼女がこちらに来るので会える喜びは変わらない。


「日向、もうすぐ茉莉がこちらに来るはずだから、大和と理玖を呼んでこい。」

「はいはーい。」


日向は勢いよく部屋を出て行った。翔斗はため息をつき、皆が集まるまで仕事を片付けることにした。現在の最優先課題は、茉莉の南の地での結界補強作業だ。彪人の軍をいくらか出してくれると言っていたが、自分のところの者もつける必要がある。誰が適任か悩みながら、額に手を当てた。うーん、と唸っているところに日向が大和と理玖を連れて戻ってきた。


大和はがっしりした体躯で屈強そうだ。銀色の髪を高い位置で一つにまとめている。白虎の兵士の隊長を務める。一方、理玖は線の細い体で背が高い。丸眼鏡をかけ、銀色の髪は後ろに流している。理玖は役人たちの取りまとめを行なっている。


「呼び立ててすまない。茉莉が来るまで座って待っていてくれ。」


二人は長椅子に腰掛け、ニヤニヤしながら翔斗を見ていた。ため息をついた翔斗が問いかける。


「なんだ、お前らまで・・・」

「いやね、白虎様もようやく恋を実らせることができたんだなぁと思うと感慨無量で。」


大和が言うと、うんうんと頷きながら理玖が腕を組みながら続けた。


「どんなに忙しくても、どんなに体調が悪くても、外界に会いに行ってましたからねぇ。これからは好きな時に好きなだけ会えるから本望でしょう。」


理玖は眼鏡を指で上げながら言った。


「まぁそうなんだがな・・・」


翔斗が暗い表情で呟くと、日向が口を挟んだ。


「昨日、彪人陛下から頼まれごとをされちゃいましてねー」


日向はちらりと翔斗を見た。


「それについては、後で二人にも相談したいのだが、いいか?」

「「承知しました。」」


そこへ雪を伴い、茉莉がやってきた。


「失礼いたします。」


茉莉は深々と頭を下げ、執務室に入った。


「急に呼び立ててすまない。側近たちを紹介しておきたくて。大和と理玖だ。日向はすでに知っているな。」

「お初にお目にかかります、茉莉と申します。」


お互いに頭を下げ、礼をした。大和と理玖は「ほう...」とか「なるほど...」と呟いた。茉莉は不思議そうに首をかしげた。


「いや、失礼しました。大変美しい奥方様ですので、白虎様が寵愛なさるのもわかります。」


大和が言うと、理玖も首肯した。


「どれだけ忙しくても、体調が悪くても外界に足を運ばれたのは納得です。」


理玖は眼鏡をキュッと上げた。茉莉は「ありがとうございます」と返し、恥ずかしそうに俯いた。


「あまり茉莉をいじめるな。」


翔斗は茉莉に向かい話を続けた。


「こいつらは幼い時から私を支えてくれていて、兄弟みたいな存在だ。悪い奴らじゃないから何かあれば頼ってくれ。」

「はい、わかりました。皆さん、よろしくお願いします。」


茉莉はにこやかに側近たちに挨拶した。翔斗と側近たちの関係性を羨ましく思った。茉莉はほとんど屋敷から出たことがなく、幼馴染や気心の知れた友人もいない。思わず表情が暗くなった。


「茉莉、どうかしたのか?」


翔斗に声をかけられ、「なんでもありません」と首を振った。


「そうだ、今日から昼食と夕食を一緒に取ろうと思うが、どうだ?」

「本当ですか?」


茉莉の表情がぱっと明るくなった。翔斗は内心「俺の花嫁かわいい!」と思ったが、側近たちの手前、表情を冷静に保った。


「昼食の準備が整ったら、茉莉の部屋まで行くから待っていてくれ。」

「わかりました。」


5人で他愛もない話をして少しの間、楽しい時間を過ごした。茉莉はここに来てよかったと思った。

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