第2章 人身御供③
白金紫苑は、娘の茉莉の未来を案じていた。
茉莉は黒水家への嫁入りを控えていたが、婚約者の冬夜が亡くなり、白金家へ戻ってきたのだ。
紫苑は、娘をあの残酷な儀式から守るために、急いで縁談を進めていた。茉莉と冬夜は互いに愛し合い、幸せな夫婦になるはずだったのに。
しかし、黒水家の次男からの申し出を茉莉は断り、白金家へ帰ってきた。茉莉の気持ちを考えると、黒水家へ残しておくのは苦痛に違いない。
そこで紫苑は、東の青木家か南の赤羽家へ早々に縁談を申し込むことを決意する。
その夜、紫苑は白虎神の啓示を受けた。白虎神は重要な啓示を伝えるとき、必ず夢に現れるのだ。
(今回はあなた一人で来るように)
白虎神はそう告げた。
戦の前には準備するもの、不作が予想されるときには対処法など、白虎神の啓示は常に人々を助け、国を豊かに導いてきた。
翌朝、紫苑は巫女装束を身にまとい、神の住まう森へと向かう。
森は鬱蒼と茂り、人の侵入を許さない。白金家当主である紫苑だけが、この森に入ることを許されている。
近年、紫苑は次期当主である長女の百合を伴って啓示を受けていた。しかし、今回は紫苑一人での参上が求められていた。
「何か重大なことなのかしら」
紫苑は不安を胸に、白虎神の社に到着する。社に入り、神殿前にひざまづき、祝詞を唱えると、白檀の香りが漂い、白虎神が現れた。
「白虎様、白金紫苑参りました。」
「忙しいところ、申し訳ない。」
白虎神は紫苑に労いの言葉をかけ、その姿は大きく、白く、恐ろしいながらも優しい言葉を語りかける。白虎神を見ることができるのは、白金家で啓示を受ける者のみであり、その声も一般人には聞こえない。
「今日呼び出したのは、1年後に行われるはずの儀式を1か月後に執り行うためだ。」
「そ、それは・・・っ!!」
紫苑は驚き、声を呑む。1年後の予定だったため、時間的な余裕があったはずだが、焦りが募る。
「1年先ではだめなのでしょうか・・・」
恐る恐る白虎神に問いかけるが、「決定事項だ」という一言で返されてしまう。
「1か月後に娘をこの社に連れてくるように。森の入り口には案内役を遣わすので、付き添いは不要だ。」
そう告げると、白虎神は静かに消えていった。
『儀式』とは、人身御供の儀式のことだった。
50年に一度、白金家の未婚の娘を白虎神に捧げるという慣わしである。白金家に未婚の娘がいない場合は、傍系から選ばれることになっていた。ただし、次期当主となる娘は例外とされていた。
紫苑には娘が二人おり、長女は次期当主のため儀式には参加できない。そのため、対象となるのは次女の茉莉だった。
しかし、紫苑は茉莉を儀式から守るために、急いで嫁入り先を探していた。ところが、婚約者が亡くなり、茉莉は白金家へ戻ってきてしまったのだ。
「そ、そんな・・・」
紫苑は絶望し、膝をつく。




