第2章 人身御供①
少年の頃から、彼女を妻にしようと心に決めていた。
彼は幼少期から体が弱く、よく床に伏せることが多かった。跡目を担う予定でありながらも、この体の弱さに自分でも情けなく思っていた。本来ならば書物を読んで知識を深めたり、武術の稽古をする必要があったが、それもままならなかった。
ある日、体調が良かったため、軽く体を動かそうと森へ散策に出かけた。すると、彼女が泣きながらこちらに向かって走ってくるのが見えた。慌てて木の陰に隠れて様子を伺う。
彼女は彼より少し年下の少女で、美しい顔立ちをしていたが、涙で顔がぐしゃぐしゃになっていた。手や足には傷やアザがあり、それらの傷は徐々に消えていくようだった。よく見ると、彼女の周りにはモヤのようなものが漂っている。
もしかして、あの力は…。
興味を抑え、そっと彼女の後をつけた。少女は森のそばにある屋敷に入っていく。こっそりと中を覗くと、母親らしき女性から厳しく叱られている様子が見えた。その横には、姉と思しき少女もいた。
そういえば、この家の娘かその一族の誰かが将来の妻になることになっていると聞いていた。
なるほど、彼女こそが私の運命の相手なのかもしれないな。
そう確信した彼は、体調が悪化しないうちに森へと戻った。それからというもの、彼女のことが気になって仕方がなく、体調の良い日は頻繁に屋敷に通うようになった。何年も彼女のそばにいるうちに、彼女が大きな力を持っていることに気づいた。
体調が著しく悪かった日、どうしても彼女に会いたくて屋敷に行った。体調の悪さが滲み出ていたのか、彼女は優しく彼を撫でた。その瞬間、体の隅々に今まで感じたことのない力が入ってくるのを感じた。以前の体の弱かった自分とは違う体になったようだ。手足を動かしてみると、歩くのがやっとだったのが嘘のようだ。
この力は、きっと私たち一族にとって役に立つはずだ。
しかし、嫁入りを心待ちにしていた矢先、思いもよらない事態が起こってしまう。




