第1章 突然の別れ⑨
「東の結界が破られたぞ!」
冬夜は戦の準備を急ぎ、兵士たちをまとめるのに奔走していた。
「今回は今までにないほどの妖が入ってきている。気を引き締めて行くぞ!」
「はっ!」
兵士の威勢のいい声を聞き、馬に乗った兵士たちとともに全軍を進めた。
こんな時に……
冬夜は心の中でつぶやいた。
3日後に婚約を控えているのだ。
その日をどれだけ心待ちにしていたことか。
浮かれる気持ちを抑え、早く片付ける決意を固めた。
冬夜は固い決意のもと、妖たちが侵入した東の地へと向かった。
妖は人間に呪いをかけて自分の手足として動かす。
我が国の民が呪いにかけられ襲いかかってきたとしても、殺すことは許されない。
妖の呪いを解かなければならないのだ。
妖の呪いを解きつつ、妖と対峙するのは骨の折れる作業だ。
だが、今回はいつもとは違った。
侵入した妖の数が多いとは聞いていたが、これほどの数は見たことがない。
冬夜の率いる兵士たちの半数ほどの妖が次々と民に呪いをかけ、手足のように操っている。
呪いをかけられた民の数は兵士の数の倍はあった。
「ちっ!」
思わず舌打ちした。
まさかこれほどの妖の侵入を許すとは。
このところ、四神の結界の綻びが大きくなってきている。
その中でも東の結界の綻びが特に大きく、今回のような侵入を許したのだ。
結界を強める能力を持った者もいるが、数が少ない。
国中の結界の綻びを繕うには人数が足りなかった。
「怯むな!解術の得意な者は民の呪いを優先的に取り除け!残りは妖を殲滅する!」
冬夜はそう指示を飛ばし、妖が多くいる方へ馬を走らせた。
後ろからは妖を討伐する兵士たちが続いた。
結界近くに到達すると、妖が次から次へと侵入していた。
東の守護神・青龍が結界の綻びを繕っているが、繕ったそばから破られ、穴は一向に小さくならなかった。
それでも侵入してきた敵の数を減らすには倒していくしかない。
冬夜は剣を抜き、妖を次々と薙ぎ倒していった。
冬夜の剣は術が込められ、妖を倒すために強化されている。
周りの兵士たちも剣を振るい、妖を倒していった。
妖の数が減り、討伐が終わるかと思った矢先、冬夜はあり得ない光景を目にした。
邪神が結界から入り込んできたのだ。
「何っ?!」
これが本命だったのか。
邪神は平城の国を乗っ取ろうとしているのか。
「邪神が入り込んだ。私は邪神の元へ向かう。貴様らは残りの妖を頼む!」
冬夜はそう叫び、邪神と対峙した。
邪神は不気味な笑みを浮かべて冬夜を見ていた。
「おやおや、私に勝てるとでも思っているのかな?」
そう言うと、邪神は天から雷を落としてきた。
その数の凄まじさに冬夜は驚いた。
雷に当たらないよう剣を振りながら払い落とす。
それを見た邪神は楽しそうに笑い、さらに多くの雷を落としてきた。
雷の量が多く、冬夜は邪神に近づくことができない。
剣を振り回し雷をいなすのがやっとだった。
「冬夜様、妖の討伐が終了しました。加勢いたします!」
多くの兵士が冬夜の元に集まった。
一人の兵士が冬夜の周りに結界を作ってくれた。
「これでしばらくは雷に打たれても持つはずです。邪神の元へ!」
「すまない。皆は雷を払い、民家が火事にならないように対処してくれ。」
「はっ!」
冬夜は勢いよく馬を走らせた。
邪神は近づく冬夜に術を浴びせかけてきたが、冬夜はそれをかわしながら邪神の元へと到達した。
「もう逃げられないぞ!」
「そう簡単に私を倒せるとは思わないでほしいですねぇ」
軽快な返事をする邪神に冬夜は太刀を浴びせかけた。
邪神は次々と術を繰り出す。
激しい打ち合いだ。
邪神を倒さねばこの国は乗っ取られてしまう。
そうすれば、茉莉との幸せな生活も訪れない。
茉莉のためにこの国を守らねばと気持ちを奮い立たせ、冬夜は邪神を切り付けた。
じわりじわりと結界近くまで邪神を追い詰める。
ここでとどめを刺してやる。
冬夜は剣を邪神の急所に突き刺した。
冬夜が剣を振るうと同時に、邪神も冬夜に向けて大きな術を繰り出した。
冬夜の剣は邪神を貫き絶命させたが、同時に邪神の術も冬夜を貫いた。




