91 約束の星空を見に行きましょう。☆
ヴォルフラムくんをお見送りしてから二日後、イワンが帰国する日です。
学校がお休みの日だったので、港まで迎えにいきました。
お父様もお仕事の都合がついたということで港に来ています。
船がつくより前にしーちゃんが飛んできて、『あと少しで着く』と教えてくれました。
待合室を出たり入ったりして、船が見えないか何度も確認します。
「あと何分ですか」
『さすがに分刻みで予測はできないな』
「そうですか……」
しーちゃんと会話する私を見て、お父様が微笑みます。
「ふふふ。アラセリスさんは本当にイワンのこと好きなんだね。父としてとても嬉しいよ」
『親父は黙ってろ』
しーちゃん越しにイワンがツッコみます。お父様と話すときのイワンって本当に口が悪いんですよね。
「照れることないじゃないか」
『だいたい、アラセリスだけでよかったのになんで親父も来てるんだ』
「イワンが、どんな顔をして婚約者に出迎えられるのか見たかったからかな」
『悪趣味な』
そんな話をしているうちに、船が港に到着しました。
渡し橋から次々に船員さんが降りてきて、その中にイワンの姿が見えました。
たまらなくなって飛びつきます。
「おかえりなさい、イワン! 聞いてください! 私、首席になれたんです!」
「落ち着け」
優しい手つきで背中をなでてくれて、おでこに口づけが降ってきます。
「ただいま、アラセリス」
「おかえりなさい。えへへ。やっぱり会えると嬉しいです」
つがいになったからでしょうか。
ひだまりの中でおひるねしているような気分。イワンの側にいるとあたたかくて、すごく心が安らぐんです。
「イワン。学院や陛下への報告は、明日落ち着いてからで構わないと言われている。今日はゆっくり休みなさい」
「そうさせてもらう」
イワンとお父様と一緒にラウレール邸に行って、夜になってから、イワンは約束通り星を見る旅に連れ出してくれました。
約束してましたから。ずっと楽しみにしてましたから。
嬉しくて心が踊ります。
「掴まってろよ」
「はい」
晩秋のひんやりした夜の空、抱き上げられて空を舞います。
街明かりははるか足元。
月と星が近くなります。遮るものが何もないから、地上で見るよりもずっときれい。
手を伸ばせば星を掴めるんじゃないかとすら思えます。
風は冷たいけれど、イワンと触れ合う箇所は熱を帯びてとても温かい。
星を眺めながら、イワンは呟きます。
「あちらは翼を隠さなくても生きていられたが、微妙なことも言われたな。元敵国の人間が祖母で大変だな、なんて頼みもしない同情をされて」
「……悲しいです。ランヴァルドさんもディアナちゃんも、あんなにお互い大切にしているのに」
二人が想い合っていても、傍から見れば『国の都合で無理やり結婚させられた夫婦』。真実は二人を知る人にしかわからないんです。
いつか、他の人たちにもわかってもらえる日がくるでしょうか。
星を眺めて思います。
「私にも翼があったら良かったのに。そうしたら、イワンと一緒に、もっともっと色んなところに飛んでいけるのに」
「望むなら連れて行ってやる。どこにだって。オレたちの時間は何百年だってあるんだから」
「はい。一緒に、いろんなところに行きたいです」
優しい口づけを受けて、私はイワンの胸に顔を埋めます。
そうですね。時間はたくさんあるから。
一生の間に、世界の隅々まで旅できてしまうかもしれません。
どこまでも、ずっとずっと一緒にいきましょう。
本日も読んでいただきありがとうございます!
明日も19:00頃更新です。




