87 お祭りのあとも一緒に。
学院祭の片付けも終わり、帰路につきます。
馬車を呼べば早いけれど、一分でも長く一緒にいたいから歩きます。
夕焼けの帰り道、伸びた影を追いかけます。
「二週間後のテスト、勉強は順調か?」
「大丈夫! 今回こそ首席を取りますよ! だから次にイワンが帰ってきたら、ふたりで星空、見に行きましょうね!」
手を繋いでぶんぶん振ります。魔力を送れるし手をつなぐの楽しいし、一石二鳥です。
「学院祭であれだけはしゃぎまわったのに、元気だな」
「そりゃそうですよ。イワンが一緒なんですもの!」
「……恥ずかしいやつ」
そっぽを向くイワン。照れてるんですね。わかります。夕焼けのせいだけでなく、顔が赤くなっています。
「イワンってオレサマで押しが強いわりに、押される方になると弱いですね。かわいいですね」
「人前で何を言う」
イワンがあちらに戻るまであと二日。
二日しかありません。時間がもっとほしいです。
もうすぐ家についてしまいます。
うちがもっと遠かったらいいのに。
歩調がいつもより遅くなります。
「イワン。明日は学校がお休みです」
「そうだな。……お前の家族が許可するなら、うちに泊まりに来るか?」
「行きます!」
イワンのお宅。お父様へのご挨拶で一度行ったきりです。また行けるんですね。
「本当に、お前は思ったことがすぐ顔に出るよな」
頭をぽんと撫でられます。イワンの手のひら、温かいです。
お母さんとレネはちょっと驚いたものの、一ヶ月ぶりに会えるのだからと送り出してくれました。
イワンがしーちゃんを使いとして飛ばして、ラウレール邸までの道のりもまたゆっくり歩きます。
日が暮れる頃お屋敷につきました。
門をくぐるとすぐに薔薇の庭園。
夜はあまり花が見えないですね。けれど薔薇特有の上品な甘い香りが鼻孔をくすぐります。
「ふふふ。いい香りですね。落ち着きます」
「お前は本当に花が好きだな」
庭園を抜けて玄関の前で、お父様が待っていました。
「おかえりイワン、アラセリスさん」
「今帰った」
「こんばんは、お父様」
お父様の肩にとまっていたしーちゃんがパタパタとイワンの肩に飛んできました。右に左にチョコチョコ飛び移って楽しそうです。
しーちゃんは本当にイワンのこと大好きですね。
中に通されて、ダイニングでお父様とお食事をとることになりました。
お皿の上にナプキン。
まわりにナイフとフォークがたくさんですね……。どれから使うんですか。
貴族的お食事のマナーなどわからないので、運ばれてきたものをどうやって食べようか考えてしまいます。
お父様がナプキンをとり膝に広げます。イワンに、二つ折りで膝に乗せろと言われ広げます。
カブのソテーが目の前に運ばれてきて、お父様が一番外側のナイフとフォークを取ります。
「わたしが食べるのを見て、真似てみなさい」
「はい」
お父様は音を立てないよう、ゆっくりとフォークを刺してお料理を口に運びます。
私も見様見真似でナイフとフォークを持ちます。
そっと口に運ぶと、とても柔らかくて美味しいです。ナッツのオイルと酢のソースも相性抜群。
きのこスープとパン、秋魚の煮込み、ルシールりんごのソルベ、海ヒツジのステーキ、そしてデザートはムースケーキ。
最後に紅茶をいただいて、とても美味しいです。緊張のあまり背筋がカチコチになってますよ。
お食事のあとリビングでイワンの子ども時代の話をききました。お父様が嬉嬉として話し、イワンはやめろと怒る。面白いですね。
坊っちゃんと呼ばれていた頃の写真もたくさん。可愛いので一枚もらいました。
夜もだいぶ遅くなってきて、用意してもらった客間でおやすみです。
実家の私室の五倍はある広いお部屋。
ベッドも大きくてふかふか。すごいです。
合宿やラウレール領に行ったときと同じですね。
目が覚めたらすぐイワンに会える。
嬉しくて、楽しみで、胸が踊ります。
学院祭で疲れたからか、ベッドにもぐりこんですぐ、眠りに落ちました。




