83 イワンが帰ってきました。
中庭まで逃げたところで捕まっちゃいました。
放課後だから、人がほとんどいないのだけが幸いです。
大樹の元に座り込むと、イワンが両手を私の左右について逃げられないようにします。
「前にも同じことをしたよな。馬鹿か。しかも逃げるルートまであの日と同じなんて」
「うぅ、みんなひどいです。なんで教えてくれなかったんですか」
文句を言うのはお門違いとは思うけれど、それでも言わずにはいられません。
「オレが黙っていろと頼んでいたんだ。事前に手紙を出して」
「こんなの卑怯です」
私にだけナイショだったなんて、泣いちゃいますよ。
この一ヶ月、会いたくてたまらなかったのに。知ってたらもっとちゃんと、お迎えする準備をしておいたのに。
「卑怯でけっこう。その顔が見たかったんだ」
イワンの指が私の頬に添えられる。私は目を閉じて、口づけを受け入れます。
長い長い口づけをかわして、イワンの胸に顔を埋めます。
「会いたかったです」
「知ってる」
「何日こっちにいられるんですか?」
「五日」
「……足りないです」
イワンの声音もいつもより柔らかくて、温かな手が私の背を抱きしめてくれます。
ずっとこうしていたい。離れたくないです。
会えたら話したいことがたくさんあったのに、うまく言葉になりません。
「意外と甘えん坊だよな、お前は」
「なんとでも言ってください」
甘えん坊でも幼児退行でもなんでもいいです。
呆れたように言いながらも、イワンはされるがままでいてくれます。
どれくらいそうしていたでしょう。
私の背を撫でていた手がカチューシャのネコ耳を摘みました。
「それにしても、なんでメイド服でこんなもんつけてんだ?」
「これはミーナ様が私専用の衣装だって」
「ふーん」
「実はこのネコ耳と尻尾。簡易の魔法が組み込まれているらしくて、私の意志で動かせるんですよ。ほら、見てください」
これは私でなくミーナ様がつけたら可愛いと思うのですけど。使い魔も猫ちゃんですし。
ぴょこぴょこ動くネコ耳と尻尾を、わしづかみにされました。
心なしかイワンの顔が赤いです。
「没収」
「なぜですか」
「オレ以外の男にこんな姿を晒すなんて……いや、とにかく、これ以上お前を狙うライバルが増えたら困る。ネコ耳は禁止」
ライバルとネコ耳なんの関係が。
「返事は」
「はい」
こういうときのイワンに逆らっちゃいけません。
講堂に戻ってすぐ、イワンはネコ耳セットをミーナ様に投げつけました。
「アラセリスに変なもんつけるな」
「あら。イワンはネコ耳よりうさ耳のほうが好みだったの? マニアックね」
「はぁぁああ!? 種類の問題じゃない。こんなのセシリオかローレンツあたりにでもつけとけ!」
ネコ耳話が飛び火したセシリオ様とローレンツくん。
ミーナ様にネコ耳を渡されて、押し付け合いがはじまりました。
「あー、うん、わたしはほら、当日は父上や臣下も来るからそういうのはちょっと。ローレンツならイベント事が好きだし良いんじゃないかい」
「上背ある俺がネコ耳なんてつけてもキモいだけだろ。誰も喜ばねーって! クララ、女の子だしこういうのいいんじゃね?」
クララさんの手に渡るネコ耳。
「わたしには似合わないと思うから、遠慮しておくね。ギジェルミーナ様はどんなものでもお似合いになるのでは」
「嫌ですわ」
みんな、自分がつけるのは嫌なのに私にはつけたんですか。ネコ耳と尻尾が私の手元に返ってきました。
「じゃあ舞台に出ないイワンにつければ解決しますね」
「オレにつけるなド阿呆!」
イワンにネコ耳をつけようとしたら、素早くひったくられて私の頭に押し込まれた。
罰として、帰るまで頭にネコ耳語尾にはニャンをつけろと言われましたニャン。もうしませんから許してくださいニャン。





