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70 たった一つの願いごとが叶うなら。☆

 勝敗が決したあと、表彰式が行われました。

 観覧の方たちが見守る中、学長先生とセシリオ様、ミーナ様が進み出てきます。


「イワン、アラセリス、実に見事じゃった。そなたたちの魔法士としての成長を、これからも期待しておるぞ。ほっほっほ」


 学長先生からありがたいお言葉と、手書きのサイン色紙を授与されました。


 ……うーんと、なんていうか、とても達筆ですね。ミミズが這うような、独特のクセ字です。

 うん、これは記念としてお母さんにあげましょう。


 イワンも一瞬いらねーって顔をしましたが、先生の手前、優等生の笑顔に切り替えました。

 セシリオ様が尋ねてきます。


「副賞はどうするんだい?」

「そうでした。どうしましょう。何も考えてませんでした」


 誰に何かしてもらいたいってとくに考えてなかったです。

 ミーナ様がイワンに問いかけます。


「セリスさんは考え中のようですから、イワン。誰に何を頼みますか?」

「じゃあセシリオに。こういう魔法大会のような催し物を、学内だけでなく国民も観覧できるような形で開催してくれ」

「それはまた大規模な願い事だね」


 生徒会のセシリオ様でなく、王族のセシリオ様への願い事です。


 イワンは何を思ってそんなことを言い出したのでしょう。

 セシリオ様は説明されなくても意図を理解できたようで、楽しそうに答えます。


「いいだろう。その提案は国としてもメリットが大きい。父上に打診するよ」

「愛されてるわね、セリスさん」


 ミーナ様は意味ありげな笑顔で私に話を振りました。


「私に関係してます?」

「国の行事で魔法を見る機会が増えれば、魔法を使えるのは当たり前だと思う人も増える。そうすれば、国民の皆様からの偏見も減るでしょう」


 私のために、王族の権限を使わせちゃうんですか。

 なんだか目の奥が熱いです。

 イワンを見上げると目をそらされました。


「さぁ、セリスさんは何を望みます?」


 ミーナ様に聞かれて、私は自然と答えていました。


「ではセシリオ様にお願いします。もっと魔族の国と交流を盛んにして欲しいです。理解が深まればきっと、汚らわしいなんて言う人もいなくなります」


 私とイワンが結婚するなら、いずれ生まれてくる子は魔族の血を宿します。

 私たちの子が差別で悲しい思いをしなくても済むように。


「ははは。君たちは本当に似た者同士だね。確かにそこは、王族がしっかりしないといけないところだ」


 セシリオ様は深くうなずいて、国王陛下にかけあうと約束してくれました。


 表彰式も終わり、みんなそれぞれ帰路につきます。


「イワン。一緒に行ってほしいところがあるんです。今から時間をもらってもいいですか?」

「かまわないが、どこに行きたいんだ」

「町外れにある教会です。まだお父さんに紹介してなかったでしょう」


 イワンは目を見開いて、それからふわりと微笑みます。


「そうだな、まだ挨拶していなかった」


 夕焼けの中、教会までの道を手を繋いで歩きます。

 伸びた影が一つになっているの、面白いですね。


 教会に隣接する墓地は私たちしかいなくて、静まりかえっています。

 お父さんのお墓の前に立ち、私はイワンを紹介します。


「お父さん、しばらく来れなくてごめんなさい。私、魔法学院に入学したんです。この人はイワン。私の大切な人です」


 返事がくることはないのはわかっていても、つい話しかけてしまいます。

 きっと聞いていてくれると思うから。


 イワンは公用のお辞儀をして、同じように語りかけます。


「ご挨拶が遅れました。イワンと申します。これから先アラセリスの時間をもらうことを、お許しください」


 報告を終えて、教会を覗くと明かりがついていました。ここには懺悔をする人や故人を弔う人が訪れます。

 神父様はお留守なのか、離席中の札が置かれています。

 ステンドグラス越しの夕日が床を彩ってきれいです。

 二人で教会の中を歩くと結婚式の予行練習みたいですね。


「大好きですよ、イワン」

「知ってる」

「イワンも言ってください」


 本当に素直じゃない人です。

 私の右頬にかかっていた髪を指でそっとのけて、手で包み込むように触れます。


「……一度しか言わないからな」


 唇が触れる間際に、イワンは低く囁きます。


「愛している」


 漆黒の翼が、鮮やかに彩られます。

 私もイワンの背に手を回して、口づけに応えます。


「一度じゃ足りません。もっと言ってください」


 願わくば、イワンが悪魔の姿のままでも生きられる国になってほしいです。

 私はその隣で、一緒に歩みたい。


挿絵(By みてみん)

挿絵は管澤捻様です。


次回71話も19:00頃更新です。

もうすぐ夏編も終幕です。お楽しみに!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 二人のお願いが、とっても心に響きました。 お互いの事を想いながらも、きっと差別や偏見で傷つく他の人も救われる……そんな素敵な願いだと思います。 セシリオ様、責任重大ですよー!٩(* ゜Д゜…
[一言] セシリオ殿下、これは責任重大だぜぇ(゜Д゜;) 2人の未来のためにも国の将来のためにも頑張れよ!( ´∀`)bグッ!
[良い点] 優勝おめでとう、お二人とも! 学長の字、くせにある達筆なのね~ 私と同じかも…。。。 お母さんに押し付けようとするセリスたん、コラ(笑) そして、願い出た副賞の申し出がお互いを想いあう…
2022/08/21 19:52 退会済み
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