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ヤンデレゲーの主人公は普通の恋を望む。(完結)  作者: ちはやれいめい
一年生 春編 運命に翻弄される春
44/133

44 嘘偽りなく、譲れない気持ちがあるんです。

 ブラウス越しに、胸に下げたイワンのお母様の指輪に触れます。

 イワン。どうか私に勇気を分けてください。


 必死に記憶を辿って、ミーナ様の日記にある対応を思い出します。

 ローレンツくんに対して常に正直にあれと、記されていました。何を聞かれてもはぐらかさず、本当の事を言うこと。


「ローレンツくん。私は生まれてから今日まで、ずっと自分の意志で動いています。イワンに求婚されて、生い立ちも事情も全部聞いて、私もイワンが好きだから手を取りました」

「本当に?」


 きちんと説明しても、ローレンツくんの目は疑り深いまま。


「本当です。イワンはちゃんとうちの家族に挨拶に来てくれたし、私もおうちに連れて行ってもらって、お父様にご挨拶もしました。お互いの家族を交えて話したんです。あなたの知るイワンは、自分の家族まで騙す人なんですか?」

「それは……」


 ローレンツくんの言葉がつまりました。

 私に対して好意を寄せてくれていたんでしょう。

 けれどはっきり言葉にして伝えてもらえてないのに、こちらから付き合えないと言ったら、自意識過剰の痛い人です。


 だから事実だけをはっきり伝えます。

 私は心から好きで、イワンを選んだということ。




「アラセリス。準備はできているか?」

「イワン。はい。大丈夫ですよ」


 イワンが教室まで迎えに来てくれました。


「イワン。アラセリスと婚約したんだって? 教えてくれないなんて薄情だな」


 かなりの棘が含まれたローレンツくんの声音に、イワンは涼しい顔で答えます。


「ローレンツにはまだ話してなかったな。新入生歓迎会のときに求婚して、良い返事をもらった。正式な発表は建国記念パーティーでする」


 イワンは微妙な空気を察してくれたのか、私の肩に触れます。


「オレたちはこれで失礼するよ、予定があるんだ」

「予定?」

「仕立て屋に行って、アラセリスのドレスを注文するんだ。王城に行くのに普段着ってわけにはいかないだろう。それに、ダンスの講師も呼ばないといけない」


 約束の時間だからと、イワンがもう一度言って私のカバンを持ってくれました。

 手を引かれて教室を出ようとしたところで、背中に声が届きました。


「セリス」

「はい?」

「もし…………いや。イワンと、仲良くやれよ」

「はい。もちろんです」


 ローレンツくんの飲み込んだ言葉は、

「もし、俺が先に告白していたら付き合ってくれたのか」

 ミーナ様の日記に書かれていました。

 もしも、なんてないです。

 今イワンといる私が私なのだから。

 私はローレンツくんの気持ちを受け取れない。

 誰か他に、気持ちを受け止めてくれる人を見つけてほしいです。

 



 馬車に乗ってから、イワンに聞かれました。


「ローレンツはどうしたんだ」


 幼馴染の友情に亀裂が入りそうで怖いですが、真実を話すべきですね。


「私がイワンの婚約者になったのは嘘で、魅了術チャームで操られていたんだろ、本心じゃないんだろうって言われて……」


 イワンは目を細めて私の肩によりかかります。


「ふうん。それで、我が婚約者様はどう答えたんだ?」

「そ、それ、言わせるんですか」

「そっちのほうが重要だろ。オレが精神操作系の魔法士である以上、疑われるのも仕方ない話だからな。別にローレンツを責める気はないさ」


 幼馴染に疑われるのは痛くも痒くもない様子。それとも人に疑われることに慣れてしまったのでしょうか。


「わ、私はイワンが好き、だから……自分の意志で求婚に答えたし、操られたわけじゃないって……」


 声がしりすぼみになるのは許してください。本人に聞かせる前提であんな啖呵切ったわけじゃないんで、恥ずかしいです。

 イワンの顔を直視して言えるわけないじゃないですか。


「こっち見て言え」

「無理です〜〜!」


 膝に乗せられて、両手でほっぺた挟まれました。金色の瞳と目が合います。


「アラセリス」

「は、はい……」


 意地悪するんですか、意地悪するんですね。


「そういう顔するな。いじめたくなる」


 おでこがコツンとぶつかります。


「ローレンツがお前に惚れているのは気づいていた。セシリオの気持ちも知っていた。でも、オレは悪魔だから。友達のために身を引く心は持ち合わせてないし、お前を選んだことを後悔はしていない。お前も後悔するな」

「後悔したことなんてありません」


 恋は落ちるもの、とよく聞くけれど、私の場合堕ちるというのが正しいかもしれません。


 傲慢な独占欲が嬉しいとすら思えてしまう。

 こんなにも強く愛されることを知ってしまったら、もう、普通の恋じゃもの足りないです。


 瞳を閉じて、強引な口づけに答えます。


 ーー私は、悪魔の彼と恋に堕ちていく。

 

明日は

45話 ドレスを着るならあなたの色です。

また19:00ころ更新します。お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ローレンツ、解ってくれましたね。 セリスのイワンへの想いが嘘偽りなく、真実の愛であること。自分の意思で、彼を愛しているということ。 常に正直であれ。 きっとローレンツの本来の性格が真っ直…
2022/07/26 20:05 退会済み
管理
[一言] ε-(´∀`*)ホッ うまく切り抜けられてよかったです( ´∀` )
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