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ヤンデレゲーの主人公は普通の恋を望む。(完結)  作者: ちはやれいめい
一年生 春編 運命に翻弄される春
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35 比翼連理の関係 feat.イワン ☆

 新入生歓迎会が終わった翌日。

 書斎にいた親父、エルネスト・ラウレールに「つがいとなる女を見つけた」と告げると、それはもう嬉しそうに笑った。

 こんなにも笑う親父を見たのは、生まれて初めてかもしれない。


「良かったなイワン。相手のお嬢さんはお前の事情を知っているのか?」

「ああ。あいつはオレが悪魔族の先祖返りだって承知しているし、夢魔の姿を見た上で答えた」


 悪魔だと承知しているかどうか。そこが何より重要だ。オレの母親のようになられても困る。アラセリスならその心配はなさそうだが。


「ふむ。夢魔であることを抜きにしても、お前はかなりの毒舌家。お前と一緒にいられるのなら、天使のように心の広い子なんだな」

「何が天使だ。アラセリスは心が広いどころか、心が狭いぞ。気が強くてちょっとつつくとすぐ言い返してくる。そのくせすぐ泣くし、花畑や星空を見て喜ぶようなガキっぽいところがあるし……」


 親父は紅茶をテーブルに置いて、ビロード張りの椅子にもたれる。


「心が狭くて気が強くて子どもっぽいのが気に入らないなら、つがいを解消しなさい。先週送られてきた侯爵家からの見合い話に、求婚を受けると返事を書いてもいいんだよ」


 代わりはいくらでもいるという態度に、腸が煮えくり返る。


「ふざけるなクソ親父!! アラセリス以外誰がオレのつがいになれるっていうんだ。オレは他の女なんて充てがわれたって結婚しないぞ!」


 全部諦めてどこかの令嬢と政略結婚しろだなんて話、受け入れられるものか。


「ほらほら、翼をしまいなさい。このわたしが、理解のない人間をお前の妻に据えるわけがないだろう。怒りで人化じんかが解けるくらいには、愛しているんだね」


 夢魔の力を持ってないくせに、親父はオレの心のうちを見透かす。

 

 人生経験の差というやつだろう。親父に言い返すだけ無駄。いつも丸め込まれて終わる。

 バカバカしくなって、天井をあおいだ。

 


「今度うちに連れてきなさい。わたしもアラセリスさんに会ってみたいな」

「……話しておく」


 父親に会ってくれなんて言ったら倒れそうだ。

 慌てるあまり百面相するアラセリスの顔が簡単に想像できて、笑ってしまった。

  


 

 自室へ戻るため廊下を歩くと、怯えた目をした老執事が急ぎ足で立ち去る。

 これはいつものこと。もう慣れた。


 魔族との戦争時代を知る者は、オレを見ると怯える。

 オレは戦後の生まれだし、オレ自身がこいつらに何かしたわけではないのに、なぜこんな扱いをされなければならないのか。




 学院についてすぐ、仕事を処理するため生徒会室に向かった。


 先に来ていたのはアラセリス一人だけだった。

 書類整理をしていたアラセリスは、顔を赤らめながらうつむく。

 昨夜のことを思い出しているのか、目が泳いで挙動不審。


「あ、お、おはよう、ございます……」


 せっかく他に誰もいないんだ。

 ちょっとしたいたずら心で、アラセリスの頬を両手で挟む。


「おはよう、アラセリス。挨拶ならちゃんと顔を見て言え。昨夜の積極性はどこいった」

「いたいれふ〜」


 目に涙をためて訴えてくる。

 うん、こいつの泣き顔を見るとゾクゾクする。

 体に流れる悪魔の血ゆえの嗜虐性なのかそれとも、支配欲からか。

 独り占めしたいという欲と、もっと泣かせたいという欲にかられる。


 これから授業があるから、あまりおおっぴらにいじめられないのが残念だ。


「アラセリス」


 名前を呼び、口づけをして、生気と魔力を分けてもらう。

 やっぱりアラセリスの力は、何度味わっても甘美で、惹き付けられる。オレを愛してくれているからなのだろうか。これほど美味な心を他に知らない。


 アラセリスの手がオレのシャツを掴む。

 唇を離すと、ようやくアラセリスはまっすぐにオレを見た。


「おはようございます、イワン……えへへ。なんか、やっぱり照れちゃいますね」


 ほんのり、アラセリスの目元に朱がさす。

 怯える様子なんてひとかけらもない。


 どうしようもなく惹かれて、後戻りできない、昨夜アラセリスはそう言った。

 オレももう後戻りできない。

 アラセリスの背を抱き寄せて、首筋に顔を埋める。アラセリスの手がオレの背に回される。

 もとからこいつと一つの命だったような、不思議な安心感がある。


 昨日までと同じようで違う新しい関係が、こうして始まった。


挿絵(By みてみん)

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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] >ふざけるなクソ親父!! アラセリス以外誰がオレのつがいになれるっていうんだ 文句を言ったと思ったからパパンはああ言ったというのにキレられても困りますゾ(;'∀') そして……次回、実家に…
[良い点] イワンパパ、あのイワンたまを手で転がせる男! 余裕のある感じが好きです~~~v わざと息子の本気度を試す?ところも好きです! うふふ、悪魔化するくらい本気なのですね~(*´ω`) そんな姿…
2022/07/17 19:59 退会済み
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