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ヤンデレゲーの主人公は普通の恋を望む。(完結)  作者: ちはやれいめい
一年生 春編 運命に翻弄される春
25/133

25 まるで、月のように静かな優しさ。

 潮の香りがするどこかの倉庫に、手首を縛られたまま放り込まれました。

 これは海外の国に奴隷として売られるバッドエンドルートですね。私、まだ十六歳の誕生日すら迎えてないのに奴隷なんてあんまりです。


 けれどミーナ様が教えてくださったのは、頑張れば未来は変えられるということです。

 なら私は全力で運命に反抗します。


 扉は分厚くて蹴ったくらいじゃ壊せそうにありません。倉庫内に脱出口がないか探しましょう。

 窓は月明かりが注いでくる天窓だけ。どう頑張っても登れません。


 積まれた木箱は空。うっすら埃を被っています。

 奥に進むとおりがありました。


 それも、犬猫用の小さいものではなく、上背のある大人でも十人以上は入りそうな大きなもの。

 檻の前に、レスティ先輩がいました。


「ようこそアラセリス。俺の花嫁」


 先輩は手に長い鎖を持っていて、鳥肌が立ちました。


「な、な……」

「セシリオと婚約なんて許さない。俺とマリベルは考えんたんだ。アラセリスがここで一晩俺と過ごせば、何もなくても人は勘繰るよな。何があったのか」


 逃げなきゃいけないのに、足がすくんで言うことをききません。拘束がただの縄から、手錠に変わる。体も鎖で巻かれました。

 突き飛ばされて、檻の冷たい格子が背中にあたります。


「そんな汚らわしい女を王妃にできないと言われて、婚約は破棄。そしてマリベルは王妃に。アラセリスは俺の妻に。レスティ家に治癒魔法が入る。良いことづくめだろう」

「利があるのはあなたがた兄妹にのみ、でしょう」


 こんな人と結婚なんて死んでも嫌です。


 何か、何かできることを探さないと。

 きっと今頃お母さんとレネが心配しています。

 それに、私の未来を知るミーナ様なら、この事態を予測して動いてくれます。だから私もできることを。


 先輩が詠唱して、部屋の入り口に狼が現れました。


「逃げたらこいつに襲わせる」


 ……離れた場所に召喚できるのなら、ペンちゃんをこの倉庫の外に喚べたなら、誰か気づいてくれるかも知れません。


「逃げません。私は立ち向かいます。我の力を分けしモノ、招致に応じよ!」


 ピイ! とで鳴き声がしました。

 ペンちゃん、よくぞきてくれました! 誰かがペンちゃんを見つけてくれることを祈ります。


「ははは! 入学してまもない一年生じゃ、召喚失敗もするよな。反抗的な妻は教育して、旦那様に逆らえないようにしてやるよ」


 旦那様気取りの先輩に幾度となく蹴られ、そこかしこが痛い。


 さすがに泣いてしまいそうです。でもきっと助けが来ます。泣いちゃだめです。


「逆らったこと後悔しろ!」


 先輩が高笑いしてナイフを振り上げたその時。




 天窓が軋みました。

 何か強い力を叩きつけるような音が何度も響いて、粉々に砕けた破片が降りそそぎます。


「な、なんだ!?」


 天窓から、黒い影が飛び込んできました。

 悪魔の翼を持つ影。


「ま、ま、魔族!? なんで悪魔がルシール王国に」

「悪魔とは随分な言いようだな。オレが悪魔なら、アラセリスを監禁して暴行しているお前は、なんだって言うんだ」

 

 槍のような形状の炎が降り注ぎ、先輩と使い魔は一瞬にして火だるま。翼の人が先輩に向かって足を踏み出します。


「ひいいいっ!! よ、寄るな化物!!」


 先輩は私を繋ぐ鎖を放り投げ、一目散に逃げ出しました。




「大丈夫か、アラセリス」

「……はい。ありがとうございます、イワン様」


 私を見下ろす金色の瞳。イワン様の色です。

 こうしてみると月に似ていて、綺麗で神秘的ですね。


「この姿を見ても怯えないなんて、お前どんな神経してんだ」

「ローレンツくんにも言われました。神経図太いって」


 落ちていた鍵を拾って、イワン様が手錠を外してくれました。体を縛っていた鎖も解かれて、自由の身です。


「いくぞ。お前がそんなに重くないなら抱えて飛べる」

「失礼な」


 こんな時でもイワン様はイワン様のようです。

 抱えられて体が浮き上がります。天窓から外に出て、いつもよりも近くにある月が迎えてくれました。


 屋根に着地して、イワン様が一旦羽根を休めます。

 助かったんだと、じわじわと実感が湧いてきて目が熱くなりました。


「泣くほどオレに触れられるのが嫌だったか」

「違うんです、本当は、閉じ込められて、すごく、怖かったから」


 今さら手足が震えています。涙が止まらない。

 温かい手が私の頭を撫でて、背を抱いてくれる。

 こんな時だけは何も言わないなんて、ずるいです。

 でもいまだけ、優しさに甘えます。私はイワン様の胸に顔を埋めて、涙が枯れるまで泣き続けました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] イワン様が助けてくれた!(*'ω'*) しかもカッコイイー!やっぱりイワン様いいなぁ……素敵!
[良い点] レスティ兄妹やっばいな。 女の子を誘拐監禁して暴行して既成事実まで作ろうなんて、なんてゴミ屑以下の野郎かしら!! 最後まで気丈に振舞っていたセリスたん、 でも、怖かったよね(´;ω;`)…
2022/07/11 18:29 退会済み
管理
[一言] 女性を監禁して暴行しているような奴は、もはやヒトではなくゴミ以下の存在ですぜイワン様( ´∀` ) とにかく来てくれてよかったぜ!!( ´∀` )
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