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ヤンデレゲーの主人公は普通の恋を望む。(完結)  作者: ちはやれいめい
一年生 冬編 花嫁修業と、優しい国を作るための一歩
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105 プリシラという少女 feat.セシリオ

 父上に言われ、土の日にプリシラくんと会うことになった。

 城ではなく港町の一角にある会員制のレストラン。

 個室完備ゆえ、貴族や要人御用達の店だ。



 クララくんいわく、とても楽しい人。

 ローレンツいわく、男相手に拳を振るう少女。

 正確な人物像が掴めなくて困るばかりだ。


 ともにきた護衛の一人、ウィルフレドが声をかけてくる。


「緊張なさっていますね、殿下」

「緊張もするさ。ローレンツが余計なことを言うから」

「ローレンツが?」

「プリシラくんに殴られたことがあると」


 とたんにウィルフレドが口に手を当てて笑いだした。


「ローレンツが殿下にどう説明したか察しました。その日わたしも一緒にいましたが、あれはローレンツが悪いので、どうかプリシラ嬢が暴力的な少女だなんて思わないでください」


 クララくんのみならず、ウィルフレドまでもが悪い子ではないと言う。一体どんな子なんだ。



 話している間に、プリシラが来たようだ。

 店員に案内されて個室に入ってきたのは、アウグストの民族服を着た少女だった。それも、ヴォルフラムが着ていたような男物。


 女の子にしては短い髪はオレンジ色で、快活そうな雰囲気に似合っている。

 まなじりの上がった水色の瞳が、わたしの姿をみとめて瞬いた。


「お初にお目にかかります。セシリオ殿下。ワタシはプリシラ・トゥリパン。堅苦しいのは苦手なので、丁寧語も不要です。気安くリシィとお呼びください」


 プリシラはお辞儀をして笑う。

 こんな子が来るなんて、想像していなかった。

 舞踏会に来るような、ドレスや宝飾品で着飾った令嬢がくるものだとばかり思っていた。


「殿下、挨拶を返さないと」


 小声でウィルフレドに促され、我にかえる。


「はじめまして、プリシラ。わたしはセシリオ・ヒラソール・ルシール。時間を取ってもらってすまない」


 貴族の娘なのに、護衛や使用人の一人も連れずに来たのか。プリシラに続いて誰かが入ってくる様子がない。

 エスコートがないのが当然なようで、自分で椅子を引いて席についた。


「セシリオ様、今ワタシのことを貴族の令嬢らしくないと思いましたね」


 プリシラが楽しそうに言う。


「あ、ああ、すまない」

「謝る必要はないです。ワタシが一般的な令嬢らしくないのは事実ですし、よく言われるので慣れています」


 自覚がある上に慣れているらしい。

 プリシラは視線をわたしのななめうしろに移す。


「おや、そちらの騎士さん、昔一度会いましたよね。うちの倉庫に侵入しようとした赤毛の子を止めたでしょう」

「十年も前のことなのによく覚えていましたね」


 驚くウィルフレドに、プリシラは片方の眉を釣り上げる。


「そりゃ、覚えもするよ。弟くんは泥まみれで倉庫に乗り込んできたあと、お兄さんに叱られても反省の色がなかったから。つい殴っちゃったよ」

「その節は本当にご迷惑をおかけしました」

「商品をだめにされる前に気づけて良かった。お兄さん、弟の躾はしっかりしないと駄目だよ。甘やかすのは本人のためにならない」


 ウィルフレドの弟は、ウィルフレドと同じ黒髪。

 プリシラが言うの赤毛の子はローレンツのことだろう。

 子どもとはいえ人様の物件に無断で侵入したら、殴られるのは当然だ。

 そしてローレンツは殴られたことだけを覚えていて、根に持っている。

 なんだか笑えてきた。


「あの、何かおかしかったですか?」

「君は一緒にいて楽しいね」

「楽しませることを言った記憶がないですが、楽しんでいただけているなら良かったです」


 わたしの反応が予想外だったのか、プリシラは目をぱちくりさせる。


「アウグストの民族服が好きなのかい」

「ええ。これはうちで取り扱っている商品なんです。普段から着ていれば宣伝になるでしょう。アウグストの民は皆さん長生きなので、服もルシールのものより長持ちする素材で作られていて、デザインも……」


 着ている服のことを熱く語りだした。この子はアウグストが好きなんだ。魔族に対して偏見どころか好意、興味を持っている。

 ほんの少し話しただけなのに、わたしの心はもう惹き付けられていた。


「そんなにオススメなら、婚約話関係なく君のところで購入しようかな」

「それは嬉しいな。あなたに似合いそうなものを見繕うから、いつでも店に来てほしい」

「自ら店頭に立っているのか」

「もちろん。父の代わりに仕入れにも行くんだ」


 屈託なく笑う顔は、とても魅力的だ。

 プリシラにその気があるなら、末永く仲良くやっていけそうな気がする。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


次の更新は日曜日。

ローレンツとクララのデート回です!

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― 新着の感想 ―
[良い点] リシィ、かわいい! 好感度高い!殿下の好感度と共に私の好感度も! ローレンツくん、それはそりゃ怒られるよ~~(笑) 民族衣装って魅力的ですよねぇ~ リシィちゃんも魅力たっぷりですが、 作…
2022/09/29 19:42 退会済み
管理
[一言] ボーイッシュな子って魅力的ですよね( ´∀` )
[良い点] プリシラいい子ですね♪ 好感持てます。 ローレンツ&クララのデートも楽しみにしています!
感想一覧
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