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第4話 親友

 職場の炎上”デスマーチ(死の行進)”を終えやっとの思いで帰宅した梨央奈(りおな)

 アパートの自分の部屋のドアの鍵穴に鍵を差し込み開けて、ドアノブを回そうと握りながら燃え尽きていた。


(疲れた……もう何も出ない……。やっと休める。今日は金曜日。明日は休み。美味しいもの食べて、飲んで、とにかく寝る!)


 その時、ガチャリと左隣の部屋のドアが空いた。左側はアパートの角部屋で住人は1人しかいない。


 ひょっこりと開いたドアから顔を出したのは、金髪サラサラのショートカット美女。

 梨央奈の親友の清水しみず 万知まちだった。


 茶色の大きな瞳が梨央奈を見つけると、ニコッと細められた。耳にいくつか開けられた、シンプルなピアスがキラリと光る。


 身長は、梨央奈より少し大きい160センチ代。

 身体は、痩せ型で鍛えられ引き締まっているが、胸とお尻は女性らしい曲線を描き、出るところはちゃんと出ていてなんとも女性らしい。


 だが、彼女から伝わってくる雰囲気が甘すぎないのは、32歳の大人の女性ということもあるが、彼女の性格によるものだろう。

 そう、この見た目に反して、彼女はサバサバした豪快な性格で酒豪なのだ。


 彼女との出会いは、梨央奈が24歳の時。付き合いは12年になる。

 梨央奈がデザイン会社で仕事をしていた時、カメラマンの万知と仕事をし、気が合い友達になった。


 万知が笑顔で梨央奈に話しかける。


「お帰り〜梨央奈! お疲れ様〜。美味しい食べ物とお酒があるよ。一緒に食べよ!」


 嬉しそうに豪快に笑うを万知見て、梨央奈の肩の力が抜けて心が温かくなった。

 梨央奈も思わず笑いながら答える。


「ただいま。うん! 食べよう!!」


 続けて梨央奈が万知に聞く。


「シャワーだけ浴びちゃっていい? 部屋は私の部屋使っていいから。仕事道具でてるでしょ?」


 万知はフリーのカメラマンをしている。自宅でも仕事をするため、仕事道具が出ていることが多い。

 万知は明るく答える。


「いいよ〜。助かるよ〜さっきまで仕事してたからさ。じゃ、準備できたら携帯に連絡ちょうだい。行くから」


「わかった」


 梨央奈と万知は、一旦それぞれの部屋に入った。


ーーーーーー


「かんぱ〜い!! 1週間お疲れ〜!!!」


 梨央奈の部屋のテーブルで、2人はビールを注いだグラスを合わせる。

 グラスは事前に冷蔵庫で冷やしていたため、きめ細かい泡と冷えたビールが美味しい。

 ゴクゴクと2人とも一気に飲み干した。


「ぷは〜〜!!」


「美味い〜生き返る〜!!」


 万知は息を吐き出し。

 梨央奈は気持ちが声になってもれた。


 テーブルの上には、温かい料理が並べられている。唐揚げ、お肉一杯の野菜炒め、ピザ、サラダ、スープ、ナッツ など豪華だ。


 2人は早速ピザからハフハフと頬張り始めた。溶けたチーズが具と生地と合わさって絶品だ! ピザは熱々に限る!

 梨央奈がシャワーを浴びてる間に、万知が注文をして受け取ってくれていた。


「「美味しい〜〜!」」


 2人のうっとりした声が重なる。

 さらにビールをグイッと飲む。


「「合う〜〜!」」


 万知が言う。


「今日は、こっちもあるからね!」


 テーブルの上に、ドン! っと、一升瓶を置き嬉しそうに万知が話す。


「お気に入りの日本酒! 絶品の純米大吟醸が手に入ったんだ〜。冷凍庫に、お刺身もあるよ〜!」


 笑顔がキラキラしている。


(笑顔が眩しい。美女が最高の笑顔をしている、純米大吟醸で)


 眩しさに目を細めながら、梨央奈は微笑みながら思った。

 梨央奈は一升瓶を受け取り、万知に聞く。


「飲み方は、冷や、冷酒、燗酒どれがいい? 純米大吟醸だから冷酒かな?」


「そうだね〜冷酒がいいかな」


「じゃ、冷やしておくね」


 梨央奈は、一升瓶を持ってキッチンへ冷やしに行って、冷えたビールを持って戻ってくる。

 ビールをグラスに注ぎながら話は進む。


「最近どう?」


 万知がざっくり聞いてきた。


「ヤバかった……」


 注ぎ終わった缶をテーブルに置き、掴んだまま梨央奈は力なくうなだれた。

 グラスを傾け、ビールを飲みながら万知が言う。


「みたいだね〜玄関前の様子でそんな気がしてたよ〜。愚痴ぐらい聞くよ。吐き出しちゃえ〜話せば少しは楽になるって」


 唐揚げを頬張りながら、梨央奈はボソリと言う。


「暗い話になっちゃうよ。それでもいいの?」


 万知は、からからと笑いながら言う。


「いいよ〜いいよ〜」


 と言いたがら、ビールを自分のグラスに注いでいる。

 梨央奈は会社であったことを話した。

 社外秘にあたる情報は、伏せたが充分伝わったようだった。


 梨央奈は弱音を吐いた。


「私なんて、何やってもダメなんだよ〜!!!」


 そんな梨央奈を万知が励ます。


「そんなことないでしょう。梨央奈のことだから、丁寧に仕事したから時間かかったんでしょう?」


「それは、確かに丁寧にやったけど……相手が求めるスピードで出来なかった……認められたいじゃん……でも、できなくて情けない……」


 答えて落ち込む梨央奈。


「とりあえず飲め飲め〜」


 万知が言いながら、グラスにビールを注いでくれた。

 グイッと梨央奈は、ビールを飲んで言う。


「あ〜〜!! せめてプライベートの恋愛が充実してたらな……仕事が辛くても頑張れるのに!!」


「最近良い人居ないの?」


「…………イナイ……もう、何年も……」


 梨央奈は、ガックリうなだれて理由を話す。


「私が好きになった人は、私に興味がない。好きになってくれた人は、申し訳ないけど私が好きになれなかったし。最近は、恋愛対象にも見てもらえないし」


「梨央奈って面食いだったっけ?」


「そんなことない! と……思う。みんな同級生は、結婚して、家庭をもって、子供もいるのに……ハア〜……私何やってるんだろう……」


 心が疲弊してる梨央奈は、マイナス思考に拍車がかかっていた。


 ポンっと万知が頭を撫でてくれた。

 梨央奈は思った。


(なんだか、ホッとする。手が温かい)


 万知が梨央奈を励ます。


「良い人見つかるって」


 万知の声は、いつもの明るいトーンではなく、静かな優しいトーンだった。


「ありがとう。吐き出したら気持ちが楽になった」


 梨央奈は少し照れながらお礼を言った。

 そして、万知に聞く。


「万知は、彼氏とは?」


「ん〜、変わらずだよ〜。普通。悪い話がでてないんだから順調なのかな〜」


 万知には、お付き合いをして数年になる彼氏がいる。海外で働いてるらしく、梨央奈は会ったことがないが話はよく聞いていた。

 梨央奈は万知に質問する。


「やっぱり。相変わらず写真は撮らせてもらえないの?」


「鉄壁だよ〜。撮らせてって言うと、理論物理学の視点から撮られたく無い理由を力説される」


「個性的でスゴイね〜。今海外だっけ?」


「そうだよ」


「結婚の話は出ないの?」


「出るけど、お互いに今はまだいいかなって感じかな」


 気まずそうに梨央奈は質問する。


「…………もしかして、私のことで気を使わせてる?」


「違うよ〜。気にしすぎ〜」


 気まずそうな梨央奈に、万知は明るく笑いながら返した。

 万知はビールを飲み干し、グラスをテーブルに置き、ニッコリと微笑みながら言う。


「ねえ。そろそろ日本酒とお刺身にしない?」


「そうだね。とってくるね」


 席を立ってキッチンへ歩く梨央奈。

 万知は、何気なく部屋を見渡しながら言った。


「そう言えば、模様替えしたんだね〜。メインカラー赤から緑色に変えたの?」


 梨央奈はドキリとした。


(話して大丈夫かな。心配かけそう……。でも、万知なら大丈夫かな、聞いてみたいし)


 梨央奈は思った。


「そうなんだ。好きな色が変わったみたいでさ。……ねえ、万知、前の私の好きな色ってやっぱり赤だった?」


 さりげなく、違和感を感じていたことを聞いてみる。


「赤だったよ。なに? 不安になっちゃったの?」


 あっけらかんと万知が答えた。


「そうだよね……。不安って言うか……。私、赤が好きな色だって思ってたはずなのに、嫌いな色になってて。今は、緑が好きな色だって思うの。なんか気になって」


「気にすることないって、好きな色なんて変わることあるでしょう。」


「そうだよね……」


「他には? 何かあれば聞くよ?」


 梨央奈は、キッチンから持ってきた刺身をテーブルに置き、日本酒の純米大吟醸をガラス製の徳利から、2つのガラス製のお猪口に注ぎながら呟く。


「夢が……」


 言いかけて、なんて言っていいかわからなくなって梨央奈は止まった。


(なんて言うの? ちょっと夢が変わったから不安だって言うの? ただの夢かもしれないし……。これ以上、心配もかけたくない)


「ううん。なんでもない。他に何かあったら、また言うよ」


 梨央奈は言うのをやめた。


「ねえ。梨央奈。定期検診は、ちゃんと行ってる?」


 万知が真剣な顔で梨央奈に聞いた。


「行ってるよ。次は、月曜日。有給休暇とって行ってくるよ」


 梨央奈は、持っていた徳利をテーブルに置きながら答えた。


「なら、安心した」


「心配しすぎだって〜」


 万知はお猪口を持ち上げながら、空気を変えるように明るく言った。


「まあ、とにかく美味しい刺身と純米大吟醸を味わおう!」


「うん。そうだね」


 2人でまずは、冷酒の純米大吟醸を口に含む。日本酒の良い香りとお米の甘さが口に広がり、辛口の切れの良い後味が心地よく美味しい。

 次に、刺身を醤油をつけて頬張り、冷酒の純米大吟醸を口に含んだ。脂の乗った刺身が口の中で溶け、溶けた脂と魚の風味、冷酒の純米大吟醸が合わさってたまらなく絶品だ。


「美味しい」


「合うね」


 2人は微笑み合う。


(こうやって気兼ねなくいられることが、幸せだな)


 梨央奈はしみじみ想う。


「万知。ありがとうね」


 梨央奈は心からお礼を言った。


(万知っていう親友がいなかったら……私、耐えられなかっただろうな)


 梨央奈は心からそう思った。


「なに。改まって」


 万知は、からからと笑いながら答えた。

 梨央奈は嬉しそうに伝える。


「やっぱり親友だなって思って〜」


「あら、嬉しい。私も梨央奈に元気もらってるから、お互い様だって。ありがとう親友♪」


楽しい2人の宴会は、夜遅くまで続いた。

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