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第39話 よみがえる梨央奈の記憶と身体能力

 左腕が痛む。


 まるで、あの時みたいだと梨央奈りおなは思った。


 あの時も、左腕が痛かった。


 左腕だけじゃない、左足も、全身が痛かった。


 でも1番たまらなく痛かったのは、心だった。


ーーーーーーーーーーーーーー


 梨央奈は、ドーム状のシールドの中で万知まちに付き添われていた。

 意識は記憶の中に入り込んでいるため、万知に右腕を引かれるままにシールド内へ走り込んだ後は、未知の生命体(アンノウン)に貫かれ血が流れ出る左腕を右手で押さえて立ち尽くしていた。

 そんな様子の梨央奈を万知が心配そうに見て呼びかける。


「梨央奈?」


 梨央奈の目は、開かれているが正面を見たまま瞳には何も映してはいないようだったが、万知の呼びかけに反応した。


「万知?」


 梨央奈は意識を取り戻したが、頭の中では大量の記憶が一気に思い出され流れていた。

 大量すぎて一つ一つの記憶の詳細は認識できない。


「うわっ!! おえっ……」


 梨央奈は目が回るようだった。

 吐き気に見舞われその場に膝から崩れ落ちる。


「梨央奈!! どうしたの!? 大丈夫!?」


 梨央奈は説明する余裕がなく、ひたすら耐えるしかなかった。

 話すことができない様子の梨央奈を見て、梨央奈の背中をさすりながらも、万知はとにかく左腕の止血をしなければと応急処置を始める。


 2匹の未知の生命体(アンノウン)は、ドーム状のシールドの外からシールドを壊そうと前足でシールドを攻撃をしているが、シールドがその攻撃を防いでくれていた。

 未知の生命体(アンノウン)Heud(へウド)は、シールド内に入ることはできないため、シールド内は安全だった。


 浜松はままつが、江田えだと梨央奈の同僚達、谷口たにぐち長谷川はせがわ高橋たかはし井上いのうえ、佐々ささきに走り寄っていた。

 未知の生命体(アンノウン)達が居る側から一番遠い位置のシールド内に固まって居た。


「私達は、OSMAUDオズマウド隊員です。このシールド内には未知の生命体(アンノウン)Heud(へウド)は入ることはできません。安心してください。ですから、絶対にこのシールド内を出ないでください!」


 そう言って、梨央奈の同僚達を安心させた。

 同僚達は、まだ混乱している様子で、ただただ返事やお礼を繰り返していた。


「はい! はい!」


「ありがとうございます!」


 浜松は、優しく安心させるように話しかけながら、負傷した江田のもとへ歩いていく。


「ケガをした人はいませんか?」


 浜松の質問に社長の長谷川が全員の様子を確認して答える。


「私達は大丈夫です。あの……隊員の方が……」


 浜松は、江田と谷口へ歩み寄る。

 江田は傷の痛みとシールド内へ入り安全が確保できた安心感から、その場に膝をつきしゃがみ込んでいた。

 その脇で江田に肩をかしながら谷口は、しきりに江田へ謝っていた。


「すみません! すみません!」


 江田は、言葉は話せていないが谷口の肩を安心させるように叩き、大丈夫だと伝えようとしていた。


「私が彼の応急処置をします。応急処置をしている間、未知の生命体(アンノウン)に変化があったら教えてください」


 浜松がそう言いながら、谷口から江田を引き受けると江田をその場に寝かせて応急処置を始めた。

 持ち合わせの救急セットでは、止血をするのが精いっぱいだが、今は出来るかぎりのことをするしかなかった。


 江田が絞り出すように浜松に言う。


「すまない……」


「しゃべらなくていい。今は傷に障る」


 浜松は、手際よく応急処置をする。


 梨央奈の同僚達はパニックを起こしていたが、浜松達がOSMAUDオズマウド隊員であることがわかり安心した。

 ずっと江田と浜松が守っていてくれたことも信頼に繋がっていた。

 浜松の指示に従い、シールド内で恐怖に耐えながらも落ち着きを取り戻していった。


 梨央奈の応急処置が終わった万知が外と連絡を取ろうと、椎名しいなに無線で呼びかけるが無線は通じなかった。

 梨央奈が心配でその場を離れることができないでいた万知を察して、梨央奈が万知に言う。


「万知……。私は大丈夫だから……。ここで休んでるから、万知は万知のやることをやって」


「……わかった。梨央奈ここにいて」


 万知は梨央奈にそう声をかけて、江田と浜松のところへ行き今後のことを相談し始める。


 そのころ、梨央奈達のいるビルの向かいのビルで、椎名は中の状況がわからなくなっていた。

 視界が遮られるように歪んで中が見えないのだ。

 無線でNS部隊の峰村みねむら部隊長と高野こうの副部隊長と連絡を取り合い、現場の状況把握と救援に向け打合せをしていた。

 大きなゲートが2つ同時に開いたことで、次元が不安定になっていた。

 2つのゲートが1つになろうとしているのか、その場全体が別次元に引きずりこまれ始めていた。


 峰村と高野は、OSMAUDオズマウドの本部内で救援の準備を進めながら、繋がらない無線を繋げようと奔走していた。


 浜松は、江田の応急処置が進むが傷がひどく眉をしかめていた。

 万知と浜松で現状の認識合わせを済ませ、今後はシールドを維持し、何とか外と連絡を取り、救援を呼ぶ方向で話がまとまったとき、2つのディメンションゲートが騒がしくなった。


 2つのディメンションゲートから新たな未知の生命体(アンノウン)達が現れ始めていた。


 カチカチ


 カツン! カツン!


 先にシールドを攻撃していた2匹に合流するように、何匹かの未知の生命体(アンノウン)がシールドに群がり始める。

 万知は、シールド装置のエネルギー残量を確認した。

 今すぐにシールドが切れることはないが、攻撃のせいでエネルギー消費が激しい。


(このままじゃ、救援が来る前にエネルギーが尽きてしまうかもしれない……。それにあれだけの未知の生命体(アンノウン)がシールドに負荷をかけ続けたらシールドが破られる可能性だってある……)


 万知は、シールドが消えて未知の生命体(アンノウン)と高濃度のHeud(へウド)に一斉に襲われることを考えゾッとした。

 シールドへの攻撃を少しでも減らし、救援が来るまでシールドを持たせなければならない。

 何よりも、外と連絡を取り救援を要請しなければならなかった。


 浜松は、江田の応急処置で手が離せない。

 万知がイヤホン式の無線機にもう一度手をかけた時だった、無線機から声が聞こえてきた。


「……こちら……峰村だ。……聞こえるか……」


 万知は、ホッとした。


(よかった……)


「こちら桜田です。峰村部隊長応答願います」


「万知……よかった……。そ……らの状況……教えてくれ……」


 安定しないようだが、かろうじてやり取りは出来そうだった。

 万知は重要な救援要請と負傷者の人数と全体の人数を先に伝える。


「至急救援をお願いします。至急救援を。江田と鈴木 梨央奈の2名が負傷しています。全員で9名が取り残されています」


「救援は……準備している。もうま……なく……現場に到着する……。ディメン……ゲートは、いく……開いて……る……」


「ディメンションゲートは2つ開いています。未知の生命体(アンノウン)は……」


 その時、続いていた未知の生命体(アンノウン)によるシールドへの攻撃の音がより大きく響き渡った。


 ドンッ!!


 バチバチバチ!!


 シールド内にいる、人間全員ビクリと体を震わせた。

 万知が音をした方を見ると、梨央奈がいる向こう側のシールドの外に未知の生命体(アンノウン)が群がっていた。

 他の未知の生命体(アンノウン)よりも大きな未知の生命体(アンノウン)の前足がシールドに突き刺さっていた。


 「キャーー!!」


 「ひいっ!!」


 梨央奈の同僚達から悲鳴が上がる。

 浜松は、驚きながらも彼らがシールド外へ走り出さないよう落ち着かせる。


 万知は、血の気が引いた。

 シールド装置でシールドの出力を上げた。

 エネルギー残量は不安だが、今中に入られたら全滅してしまう。

 だが、未知の生命体(アンノウン)の前足は弾き返せず刺さったままだった。


 慌てて未知の生命体(アンノウン)専用特殊武器《SWUIFスイフ》のハンドガンを構えて射程距離の距離へと走り寄る。

 そして、入ってこようとする未知の生命体(アンノウン)に向けてハンドガンを連射した。


 ドン! ドンッ! ドンッッ!!


 未知の生命体(アンノウン)は少しだけひるんだが、前足2本でシールドの穴をこじ開け、頭を前足で開けた穴に差し込んで無理やりシールド内に入ってこようとしている。

 万知は、慌てて座り込む梨央奈へ走り寄り、自分の背に未知の生命体(アンノウン)から庇いながら距離を取るように後退する。


 シールドの開いた部分からHeud(へウド)が流れ込む。

 万知達がさがりきらないうちに、未知の生命体(アンノウン)1匹がシールド内に入ってきた。

 さがりきれていなかったため距離が近い。

 未知の生命体(アンノウン)が万知に喰らいつこうとした。


 ドン! ドンッ!


 SWUIFスイフの攻撃は、未知の生命体(アンノウン)の体を一部破損させたが勢いはおさまらなかった。

 万知はとっさに、梨央奈を後ろへ突き飛ばした。


「梨央奈! 逃げて!!」


 突き飛ばられた梨央奈は後ろに倒れて尻餅をついた。

 カツンと固いものが梨央奈の手に触れた。

 江田の使っていたSWUIFスイフのハンドガンだったが故障していた。

 江田が未知の生命体(アンノウン)に刺されたときに壊れ、握りしめたままシールドに逃げ込んでここで手放したのだ。


 梨央奈に、生きてほしいという想いを込めた万知の目が一瞬向けられる。

 梨央奈の目にその姿が焼き付く。


 ガチンッ!!!


 万知は、自分の背中に背負っていた遠距離用のスナイパーライフルを未知の生命体(アンノウン)に噛ませ、両手でスナイパーライフルを掴んで必死に耐えた。


「万知!!」


 梨央奈は、必死に左手を伸ばす。

 その時思った。


(ああ……そうか……隆聖達は……)


 万知と隆聖の姿が重なっていた。


『生きろ』


 そして、梨央奈は思い出す。


 「隆聖達は、死んだんだ」


 それはいつか見た夢に似ていたが、たしかに梨央奈の記憶だった。


ーーーーーーーーーーーーーー


 ヒリヒリと喉が痛い!

 そのくらい、息が苦しい!

 全力で、無我夢中で、走る!!


 空気が薄く感じる!

 酸素が足りない!

 心臓が痛い!


 岩と砂の洞窟のような空間の中。

 梨央奈(りおな)は、基地に向かって必死に走り続けていた。


 速く! もっと速く!!

 一分一秒でも速く!!!


 私の体はこんなに動かなかっただろうか。

 もっと速く走れたはずだ!!!

 足を少しでも速く前に出せ!!

 腕を少しでも速く腕を振れ!!


 私の心はこんなに弱かっただろうか!!!

 隆聖りゅうせい達は無事だろうか? 弱気になるな!!

 今は、何も考えるな!! きっと無事だ!

 前に、少しでも速く前に進むことだけ考えろ!!


 頼む! 頼むから!! みんな無事でいて!

 私は、どうなってもいいから!!

 頼む! どうか!! どうか!!! 生きていて!


 身体が重い!

 どんなに速く走っても足りない!!

 もっと速く!!

 もっと強く!!


 走る中で、光星こうせい香音かのんがお互いを守るように抱き合いながら倒れていた。

 琥珀こはく飛翠ひすいもギリギリまでお互いに背中を任せ戦っていたのだろう寄り添うように倒れていた。

 あんなに優しく温かかったはずなのに、冷たくなっている光星、香音、琥珀、飛翠を見た。

 それを見るたびに、胸が切り裂かれるように苦しくて痛い。


 切実に隆聖とかなめTOMOともの無事を願いながら。

 基地の扉を開いた!!

 基地の中には要のノートパソコンに大量の血がついた状態で壊れて転がっていた。

 涙が、溢れて止まらない!!!


 隆聖の姿が見えた。

 大きな未知の生命体(アンノウン)と対峙していた。

 隆聖がこちらに気づく。

 隆聖に、必死に左腕と手を伸ばす!!

 もうこれ以上伸びる余地が無いくらいに!!

 前に! 前に!

 届け!! 届け!!!


 目を見開く!


 「隆聖!!」


 隆聖の目元は、覚悟をしたような目で優しく笑っていた。

 黒く短い髪が、風に揺れていた。

 向かって右側の額にこめかみから目尻あたりまでうっすらと傷跡があった。

 あの傷は、昔、梨央奈を未知の生命体(アンノウン)の攻撃から守ってくれた時にできた傷だった。


 前は、強いというより優しいと思っていたが、今なら心も人としても強いとわかる。


 隆聖の口元が微かに、優しく微笑んで動いた。


『生きろ』


 優しくも、力強く、淋しさを感じさせる声。

 生きてほしいという、強い思いが込められていた。


 次の瞬間、対峙していた未知の生命体(アンノウン)よりもはるかに大きい未知の生命体(アンノウン)に、無情にも隆聖を飲み込むように遮られてしまう。

 梨央奈の左腕も一緒に喰いちぎられ飲み込まれる。


 痛みに耐えながら、絶望が心を支配する。


 もっと! 速く走れていれば!! 助けられたのに!!


 何で! 私はこんなに弱いんだ!!

 もっと! 私が強ければ!! 助けられたのに!!

 もっと! 私に力があれば!! 助けられたのに!!

 もっと、もっと!!!


 涙が溢れて、止まらない。

 もう、誰も見えない。

 気配を感じない。


 悔しかった。

 無我夢中でその場の未知の生命体(アンノウン)と戦った。

 左足もいつの間にか食われていた。

 それでも戦い続けた。


 声にならない、声を叫ばずにはいられなかった。


ーーーーーー


「あぁぁ~~~~!!!」


 その時、梨央奈が両手で顔を覆い叫びながら立ち上がった。

 フラフラと体が揺れる。

 俯いていて表情は見えないが、嗚咽がもれポタリ、ポタリと涙が頬を伝い落ちる。


 左手には、故障して使えなくなった江田のSWUIFスイフが握られていた。

 故障しているはずなのに、SWUIFスイフに組み込まれたコアが赤くゆらゆらと光っている。


「梨央奈! さがって!!」


 万知が未知の生命体(アンノウン)の攻撃を必死で防ぎながら、梨央奈に叫んだ。


 次の瞬間、フッと梨央奈の姿が消えた。

 正確には、消えたと思うくらい素早い動きだった。


 消えた梨央奈の姿は、万知を襲う未知の生命体(アンノウン)の頭の斜め下に潜り込んでいた。

 万知に喰らいつこうと、大きな未知の生命体(アンノウン)の頭は、低い位置にあった。

 梨央奈のあまりの速さに未知の生命体(アンノウン)の反応が遅れる。

 次の瞬間、梨央奈は一歩踏み込み、腰、右肩、右腕と力を伝達するように動かし、右手の手根しゅこんである手首に限りなく近いもり上がった箇所で未知の生命体(アンノウン)の頭を下から突き上げた。

 掌底打(しょうていう)ちだった。


 ガンッ!!


 未知の生命体(アンノウン)の頭が弾き上げられた。

 その衝撃で未知の生命体(アンノウン)の体が浮き上がる。


 普通はありえないことだった、今の梨央奈の体にそんな力は無いはずだった。

 そもそも素手で未知の生命体(アンノウン)を吹き飛ばすような攻撃をできる人間がいるはずがない。

 だが、未知の生命体(アンノウン)の体は間違いなく浮き上がった。

 コアの赤い光が梨央奈の体を包んでいた。


 弾き上げられた未知の生命体(アンノウン)の頭がゆっくりと揺れている。

 未知の生命体(アンノウン)の頭が弾き上げられてからの光景は、その場にいる誰もがまるでスローモーションのように見ていた。


 梨央奈が左手に持つSWUIFスイフの動力源であるコアが強く赤く光り出した。

 その光に梨央奈が右手で触れた。

 梨央奈の右手に触れた光から真っ白い澄んだ光に変わっていく。

 次第にほとんどの光が赤色から澄んだ真っ白い光に変わった。

 梨央奈がスッと右手を上に振り上げた。

 澄んだ真っ白い光もその右手についていくように上に伸びた。

 澄んだ真っ白い光が剣の形に変わる。

 日本刀の刀のような形にも見えるが、刃が日本刀よりも少し広い。

 それは、見たことがない美しい剣だった。


 その生みだされた剣の柄を梨央奈が右手で握る。


 弾き上げられた未知の生命体(アンノウン)の頭が元の位置に下がり始める。

 だがそれよりも、梨央奈が剣を振るほうが早かった。

 それは、静かな静かな澄んだ音だった。


 スーーキンッ


 下から上へと振り上げられた剣は、未知の生命体(アンノウン)の体にあるコアの位置を正確に捉え真っ二つに切断していた。

 コアは未知の生命体(アンノウン)の体の中にあった。

 つまり、白いシルバー色の金属のような固い体を真っ二つに切り裂いていた。


 ゴトン! ドゴン!!


 ガッシャーン!!


 二つに切られた未知の生命体(アンノウン)の体が支えをなくし重力に従い重い体が一気に床に落ちる。


 信じられないものを見た。

 その場に居る全員がそんな思いで固まっていた。

 誰も一言も発せずに。


 助けられた万知も目の前で起きたことが、信じられないようだった。

 あんなに手こずっていた未知の生命体(アンノウン)が、あっけなく倒された。

 目を見開き、未知の生命体(アンノウン)の攻撃を防いでいたままの格好で梨央奈をジッと見ていた。

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