第21話 OSMAUD(オズマウド)隊員に襲われる
定期検診から、数日。
梨央奈は、やっと筋肉痛が治まってきていた。
今回も、前回の定期検診後と同じで、梨央奈は、強烈な筋肉痛になった。相変わらず、左腕と左足以外が筋肉痛だ。
そして、日に日に、梨央奈の体は軽くなっていった。筋肉もついてきた。
体重も減り、今まで履いていた、ズボンのウェストがゆるくなり、ベルトをしなければ下がってしまうほどだ。
それ以上に、自分の体が自由に動かせるという意味でも、軽く感じるようになった。
日常の中で強く実感するのは、階段の登りだ。
今まで、息切れをし、自分の体が重く、地球の重力を感じていたのが、今では、息切れをすることなく、すいすいと階段を登り息切れもしない。体幹も強くなった。
日常生活の中で、スポーツをしていない梨央奈にとって、自分の体の変化を感じる場面は少ないが、それでも、明らかに違うと実感するほどの変化だった。
会社での仕事が終わり、梨央奈は帰るために、荷物をまとめていた。
梨央奈に、佐々木が話しかける。
「鈴木さん。最近痩せましたよね! 立ち姿が違う。良い。ダイエット方法教えてほしい!」
「ありがとうございます。でも、本当にたいしたことしてないんです」
梨央奈は、痩せた方法を聞かれるが、曖昧に答えた。
(何もしてないなんて、言えない……)
梨央奈は、結果を得るには、それに見合った原因や努力があるものだと思っている。
だからこそ、今回何もせずに痩せていく自分の状況に、異常性と共に、後ろめたさも感じていた。
(良いと言ってもらえるのは、嬉しいけどね)
慣れない状況に、梨央奈は、落ち着かない。
佐々木は、長谷川社長に呼ばれて、行ってしまった。
井上が梨央奈に話しかける。
「今週末、運動しにきたら? 前に話した通り、知り合い集めて、スポーツやってるからさ。今回は、テニスだよ。ラケットとボールは、あるから運動しやすい格好でくればいいよ」
梨央奈が、申し訳なさそうに、返事をする。
「テニス楽しそうですね。行きたいんですが、今回は、行けないんです。すみません。また今度参加させてください」
「いつでも、どうぞ。じゃ、お疲れ」
「はい。お疲れ様です」
井上は、挨拶をして、帰って行った。
梨央奈も、上着を着て、荷物を持ち、帰りながら思った。
(楽しそうだから行きたいけど、力加減できなくて、相手を怪我させたり、道具壊したりしたら大変だからね)
無意識に、そう考えた自分に気づいて梨央奈は、不思議そうな顔をした。
なんで自分がそんな事を考えたのか、自分で自分が理解できなかったからだ。
(ん? 何でそんなこと考えた? そんなこと心配する必要なんてないのに……変だな……)
ーーーーーー
梨央奈の帰り道には、人通りが少ない公園がある。小さな公園だが、木が植えられ、2つの遊具、ベンチ、衛生対策の柵に囲まれた砂場があった。
周辺に建物はあるが、会社や事務所が多いのか、夜遅くなると人通りが少なくなる場所だ。
この日、梨央奈は残業をしたため、少し遅い時間の帰宅となった。
腕時計を見ると、時計の針は22時を指していた。
公園沿いにある細い道路を車道に出ないように歩いていたら、後ろから声をかけられた。
「すみません。少しよろしいですか?」
振り返ると、年齢が20代くらいで身長180センチ代の大きな男性が2人立っていた。
暗がりで、顔はよく見えないが、1人は、髪を刈り上げた短髪で、もう1人は、ゆるい若者らしいパーマで前髪を真ん中分けにしていた。
「私たち、OSMAUDの隊員なんですが、お聞きしたいことがあるので、お時間いただけますか?」
梨央奈は、たまに、OSMAUDの隊員が、街中で警戒や警備をしている姿は見たことがあったが、話すのは初めてだった。
確かに、2人は、OSMAUDの制服を着ている。
「はい。良いですよ。何でしょう?」
2人の男は、並んでツカツカと梨央奈に近づいてくる。
梨央奈は、無意識に2メートル以上の距離を取った。
2メールはお互いに腕を伸ばして、お互いに一歩下がったくらいの距離がおおむね2メートルだ。
2メートル以内に近づいてしまうと、何かあった時に、逃げることがとても難しくなる。
OSMAUDの隊員の2人に危険性を感じたわけではなかったが、梨央奈は、ここ数日、なぜか人との距離を無意識に2メートル以上とる癖がついていた。
パーマの隊員が、梨央奈に話しかける。
「こちらの道は、毎日通りますか?」
梨央奈は、質問に答える。
「はい。通勤経路なので、通ります」
パーマの隊員が、さらに、質問する。
「いつも、何時くらいに通ります?」
梨央奈は、正直に答えながら、疑問に思い聞く。
「その日によって差があります。何故ですか?」
パーマの隊員が、説明する。
「この辺りで、不審者を見たという情報がありましてね。ご存知ですか? 最近騒がれている、ディメンションゲート発生事件」
梨央奈は、頷きながら、答えた。
「事件は知ってます」
「あちらに、見ていただきたい資料があるので、少し車の中でお話し聞かせていただけますか?」
パーマの隊員が言いながら、示した方を見ると、道路沿いに車が1台止まっていた。
OSMAUDのロゴが入った白い乗用車だった。
だが、梨央奈は、なんとなく違和感を感じた。
2人の隊員から漂う雰囲気が気になった。
「すみません。ご協力したいんですが、この後予定がありまして、あまり時間が無いんです。この辺りで、不審者を見たことはありませんよ」
梨央奈が、そう言うと、隊員2人の目が変わった。
突然、パーマの隊員が、左手で梨央奈の右手を掴んだ。手が一直線になるような形だ。
梨央奈は、咄嗟に自分の右手の下に左手を合わせ、両手を使った。
自分の右手のひらを広げ、手のひらを下へ向ける。
隊員の親指と残りの4本の指の隙間から、自分の肘を曲げながら、隊員の肘にぶつけるようにして、振り解いて、手首を抜いた。
梨央奈が叫ぶ。
「何するんですか!!」
「とにかく一緒に来てもらおう!!」
もう1人の刈り上げた短髪の隊員が叫びながら、両手で、梨央奈の左手を掴んだ。
梨央奈は、隊員の手の隙間から、自分の右手を差し込み、両手を握り、肘を曲げるようにして、上に引き上げるように腕を引いたが、相手の力が強く引き抜けない。
「離せ!!」
ドン!!
梨央奈は、叫びながら、思い切り相手の足を踏みつけた。
「っう!!」
隊員が痛みで怯んだ間に、腕を引き抜いた。
その隙に、梨央奈は、パーマの隊員に後ろに回り込まれた。
(まずい!!)
と思った時には、梨央奈は、後ろから抱き付かれそうになる。
パーマの隊員が叫ぶ。
「大人しくしろ!!」
梨央奈は、隊員の掴みやすい指を一本持って、指を掴んでない手で指を掴んだ方の相手の手首を掴み、隊員の持った指の関節を逆に曲げきめた。
「いっ!!!」
隊員が痛がってる隙に、梨央奈は距離をとった。
突然襲いかかってきた、隊員2人にも驚いたが、咄嗟に動けた自分と自分の身体に驚いた。
梨央奈は、護身術なんて習ったことがないが、自然とどうすれば逃げられるかを知っていた。
梨央奈は、大きな声で叫びながら、逃げた。
「助けて!!」
何度目かに叫んだ時に、声に気づいた数人が集まってきた。
それに気づいた、2人のOSMAUDの隊員は、慌てて車に乗り逃げて行った。
梨央奈は、2人の隊員の特徴を覚えた。
パーマの隊員は、細い目でそばかすが顔に有った。
刈り上げた短髪の隊員は、鼻が大きく、首元にほくろが有った。
その後、梨央奈は駆けつけてくれた人と近くの交番に行き、警察に事情を話し、2人の特徴を伝えた。
襲われた理由に心当たりがあるか聞かれたが、梨央奈には、心当たりがなかった。
警察官も、襲った相手がOSMAUDの隊員ということに戸惑っているようだった。
その戸惑いは、梨央奈も同じだった。
そもそも、偽物の可能性もあるという話になり、隊員証を見せられたか確認されたが、見せられなかったことを梨央奈は警察官に伝えた。
OSMAUDには、OSMAUDの隊員であることを証明する、隊員証があるようだ。
梨央奈は、知らなかった。
だが、制服やOSMAUDのロゴが入った車を見る限り、本物のように梨央奈には思えた。
梨央奈は混乱していた。
(私は、平凡な一般人のはずだ。それとも、自分が知らないところで、私に襲われる理由があるんだろうか?)
梨央奈は、怖くなった。
※作中の護身術は、YouTubeで「警察官が教える護身術講座」で検索すると、愛知県警察の5分くらいの動画があります。いざという時、みんなで自分の身を守りましょう。(2022年2月10日現在)
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