第13話 破片とHeud(へウド)
OSMAUDの特殊部隊、NS部隊の峰村 英知部隊長は、自身の執務室で疲れ切っていた。
政府とOSMAUDが合同記者会見を開き、情報を解禁してから、日に日に、仕事が増えていた。
短時間でのディメンションゲート発生の原因解明のための調査、犯人の特定のための調査、短時間でのディメンションゲート発生対策、過去の事件への調査対応、新体制の構築、警戒警備の強化、市民からの通報への対応、などやらなければならないことは山積みだ。
特に、短時間でのディメンションゲート発生の原因解明、犯人の特定の調査、短時間でのディメンションゲート発生対策は、急務で、「自然科学」 を専門分野とする、NS部隊の役割は大きく、部隊長の峰村は、国民を安心させるためにも、至急結果を出せ! とOSMAUDの最高責任者に呼び出され、直接発破をかけられた。
慌ただしくなる一方の政府とOSMAUDとは裏腹に、事件を起こした犯人は、東京駅近くで起きた事件以降、鳴りを潜めている。
新たな動きが無いことは、新しい被害が出ず喜ばしい反面、新しい手掛かりが出ず調査は行き詰まっていた。
その時、机の上の電話が鳴った。
OSMAUDの研究室からの内線電話だった。
峰村が、電話に出る。
「はい。峰村です」
受話器の向こうから男性の声が聞こえてくる。
「研究室の研究員の名原 賢示です。ご依頼を受けていました、東京駅近くで発生した短時間でのディメンションゲート発生事件現場で見つかった、破片の調査結果が出ました。取り急ぎ、直接お伝えしたいので、研究室で、ご説明させていただきたいです」
「わかりました。今から、直ぐに、そちらに伺ってもよろしいですか?」
峰村の申し出に、受話器の向こうの名原が返事をする。
「はい。お待ちしております」
電話を切り、研究室へ早歩きで向かう。
(これで、事態が動くかもしれない)
期待から、走り出しそうになるのを必死に堪えた。
ーーーーーー
「おー。きたな〜」
研究室に到着すると、そう言いながら、峰村を出迎えたのが、名原 賢示。
55歳。黒髪よりも白髪の方が多いくらい白髪混じりの髪は、徹夜明け無造作に掻き乱し、そのままなのだろう、短い髪がボサボサしている。髭も伸びてきていた。
だが、目尻に皺が刻まれた、黒い瞳の目がらんらんとするくらい、発見したことへの好奇心に溢れていた。
身長は、160センチ代と男性にしてみれば小柄だが、恰幅いい体格に白衣を着て、堂々とした貫禄がある。
ヘビースモーカーの名原が禁煙の研究室に居続けるためには欠かすことができないのが飴。
タバコの代わりに、棒付きの飴を舐め終わったのだろう、ゴミ箱に捨てながら、立って峰村を出迎えた。
大量の棒がゴミ箱の中に見えて、峰村は思った。
(何日、徹夜したんだ? この人……)
さらに、さっき内線電話で話したときと、同じ人物とは思えないくらい、違う名原の口調に、峰村は思わず仕方がないなと笑いながら、話しかけた。
「相変わらず、すごい変わり身ですね」
「ん? 内線電話の先は、お前のテリトリーだろ。テリトリーの主には敬意を払うべきだ。ここ研究室は、俺のテリトリーだからな、俺が主だ!」
堂々といたずらっぽく笑いながら、名原は力強く言い切った。
名原は、峰村の大学の恩師だ。
名原は、峰村の通う大学で、研究をしながら、教壇に立っていた。
峰村は、研究職を目指して大学で学んで、研究や実験は今でも好きだが、現場を見てこそ気付けることがあると考えていたため、現場に行くようになった。
そして、時間は有限である。だからこそ、自分自身は、現場に徹することを決めた。
研究や実験を信頼する人に任せることにした。
それが、名原だった。
名原も、未知で謎が多い、次元の歪み、ディメンションゲート、未知の生命体に興味があり、研究がしたかった。
両者にとって好都合だった。
「さて! 早速、聴いてもらおうか! 俺の発見を!」
名原が、ニヤリと笑いながら言う。
「お願いします」
峰村は、深く頷き答えた。
機械の中へ収まっている、現場で発見された破片をガラス越しに見ながら説明が始まる。
「まず、犯人の指紋は一切出なかった。だか、破片から面白いものが見つかった。”Heud”(へウド)だ」
「Heud!?」
名原の言葉に、峰村は驚いた。だか、一方で納得もした。
名原は構わずに続ける。
「それも、かなり高濃度のだ。破片を調べる際、念のため防護服を着ておいて良かったよ。Heudは、Heudへの適応数値が低い生物には、有害だ。細胞が壊死しちまう。破片には、Heudを遮断する特殊な加工がされていた。おそらく高濃度のHeudを入れていた容器だろう」
Heudとは、未知次元の高エネルギー(High energy of unknown dimension)の略称だ。
Heudは、次元の歪み、ディメンションゲートからあふれ出る空気、そこから現れる未知の生命体から、初めて存在が発見された、未知のものだった。
そして、高エネルギーを持っている。
その高エネルギーを持っているからこそ、人間の体や、ディメンションゲートのこちら側の生物にとっては有害だ。
実は、ディメンションゲートの被害には原因が、二つある。
一つ目は、未知の生命体による被害。
二つ目は、Heudの持つ高エネルギーに耐えられずにおきる、細胞の壊死による被害だ。
Heudへの適応能力は、個体差がある。適応数値が高ければ、耐えられるが、適応数値が低ければ耐えられず、細胞が壊死し、最悪の場合、死亡する。
OSMAUDの戦闘員に必要な適性とは、Heudに対する、ある一定基準以上の適応数値を持っていることだった。
現場を、シールドで囲むのも、Heudを外へ出さないためでもある。
名原は、生徒に問題を出すように言った。
「じゃ、ここで優秀な峰村君に、問題だ。なぜこれで、短時間でディメンションゲートが発生したと思う?」
「次元の歪みとディメンションゲートがどうしてできるのかを考えれば、今回の事件で、なぜ、短時間でディメンションゲートが発生したのかが解明できる……」
峰村の言葉を聞いて、名原は、ニヤリとした。
「そうだ」
峰村は、頭の中で情報を整理する。
(次元の歪みやディメンションゲートは、異なる二つの異次元の間で起きる現象だと考えられている)
次に、峰村は、次元について考えをまとめる。
(そもそも、次元とは、空間の広がりをあらわす一つの指標。俺達が暮らしている空間は、三次元だと考えられている。座標の数で表されるため、線は一次元、面は二次元、立体は三次元。空間は三次元であり、縦、横の平面に、奥行がプラスされた空間、これが、俺達が暮らしている空間だ)
次に、峰村は、四次元と五次元について考えをまとめる。
(四次元は、縦・横・奥行の三次元に時間を加えたもの。五次元は、次元の数が5である空間で、「五次元=無数の時間軸が存在する世界」この場合の時間軸とは、異なる時間の流れということで、一般的には「パラレルワールド」などといわれている。つまり、俺達が暮らす世界とは別の世界がいくつも広がる空間と考えられている)
次に、峰村は、次元の歪みとディメンションゲートの向こう側について考えをまとめる。
(では、次元の歪みの向こう側、つまり、ディメンションゲートの向こう側は何次元なのか? それは、まだ解明されていない。だが、Heudの存在が大きく関係していると考えられている。そして、Heudは、ディメンションゲートの向こう側の空気中に存在している)
ここまで、考えて、峰村は、次元の歪みとディメンションゲートがどうしてできるのかを話し始めた。
「次元の歪みができるのには、Heudが関係しています。あちら側の次元の空気中のHeudの濃度には差があり、Heudは、高エネルギーを持っているため、濃度が濃くなればなるほど、強いエネルギーが発生します。こちら側の次元とあちら側の次元の間に、薄い膜のようなものがあると考えると、次元の歪みは、あちら側でHeudの濃度が濃くなり強いエネルギーが発生し、間の膜が薄くなっていっている状態です」
聞いていた、名原が頷く。
峰村は、話を続ける。
「ディメンションゲートは、次元の歪みが強くなり発生します。ディメンションゲートは、あちら側でHeudの濃度が濃くなり発生した強いエネルギーに薄い膜が耐えきれなくなり破れできた穴です」
峰村が名原の質問に答える。
「今回、短時間でディメンションゲートが発生した、理由は、こちら側に、人為的に高濃度のHeud を撒いて、強い次元の歪みをおこして薄い膜を破り、人為的にディメンションゲートを発生させたってことですか!」
「大正解だ!!」
優秀な生徒を褒めるように、名原は、嬉しそうに言った。
さらに、呆れたように続ける。
「しかし、Heud を遮断する特殊な加工をしているとはいえ、これだけ、高濃度のHeud は、かなり危険だ。こんな、危険なもん持ち歩くなんて、犯人の気が知れない! しかも、自分の近くでばら撒くなんてな」
峰村は、気づいた疑問を口にした。
「犯人は、その高濃度のHeudに耐えられる、適応数値を持っているってことですか?」
「自殺志願者でもなければな。しかし、これだけ高濃度のHeud を遮断する特殊な加工技術なんて、そう簡単にできるわけじゃない。相当大きな組織なのか、あるいは……」
黙った名原が言わんとしていることが、なんとなくわかり、峰村は、思わず声を小さくして言った。
「まさか、OSMAUD内部に犯人への協力者がいるってことですか!? だから、大切な報告なのに俺だけ、わざわざ研究室に呼んだんですか!?」
名原も声を小さくして、答える。
「考えたくないがな……。研究室は俺のテリトリーだ。防音設備に盗聴器の排除はバッチリだ! 安心しろ!!」
自信満々にいい笑顔で答える名原を見て、峰村は、呆れつつも感服する。
(さすがだ、さすがすぎる! この人!)
名原は、マイペースに話し始める。
「次元の歪み、ディメンションゲート、未知の生命体、Heudに一番精通しているのは、国内だとOSMAUDだろう。海外のOSMAUDのような組織とも考えられるが、こんな、戦争でも起きかねない危険なこと考える国があるとは思えない」
名原の意見に、峰村は頷き、名原は話し続ける。
「高濃度のHeudを遮断する特殊な加工技術は、一番OSMAUDが、使用している。お前も知ってるだろう? OSMAUDが使用している、シールド装置、威力の強い対未知の生命体用の武器、ディメンションゲートを閉じるための装置の動力源がなにか!」
峰村は、眉間に皺を寄せなが言う。
「たしかに、倒した、未知の生命体のコアを使用しています。Heudを体内に取り込んで、コアに蓄えその高エネルギーを使い動いてる、未知の生命体。つまり、コアは、Heudの濃度が高い」
名原は頷くき、峰村は続けて話す。
「そのコアを動力源にし、蓄えられたエネルギーを使って、シールド装置も、威力の強い対未知の生命体用の武器も、ディメンションゲートを閉じるための装置も創られています」
名原が大切な事を強調するように言う。
「だからこそ! 使う人間に危険がないように、Heudが漏れないよう、コアの周りは、かなり高濃度のHeudも遮断できる特殊な加工技術が使われてるんだ。その技術は、他に真似できないくらいだ」
峰村は、頭を抱えながら言う。
「たしかに、危険なため、コアの使用を民間に認めていないだけじゃなく、遮断できる特殊な加工技術がそもそもできないから。民間でシールド装置を作ってる会社は、コアを使わずに、持ち歩けないくらい大きな、電気が動力の有線設置型のシールド装置しか作れないんでしたね」
頭を抱える峰村に、名原は、真剣に忠告をする。
「OSMAUDの中でも気を抜くなよ!」
峰村は、答えた。
「はい!」
短時間でのディメンションゲート発生への対策は、後日改めて話し合うことになった。
※修正のお詫び
2022年2月13日に修正しました。
説明文がわかりにくく、読みにくかったため、改善致しました。申し訳ございません。
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