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メタモる見本市

幼馴染が勇者と岩陰に行ってしまった

作者: 黒森 冬炎

 世界を暗黒に沈ませる狂悪な魔王が復活した。手下の魔族どもは、まだ魔王封印の地周辺にしか出ていない。今のうちに再封印を施さないと、この世は魔族の食糧牧場にされてしまう!



 ◆



 遥かな国にある魔法の塔のてっぺんで、老賢者は濃い紫色の水晶玉を見上げていた。


「むう!この黒い点は!鴉よ!」

「カア!」

「急ぎ王宮へ飛べ!」

「カア!」

「魔王の復活じゃー」

「カア!」

「おお!2つの白い点も!」

「カア!」

「なんと!ピンクの点まで!」

「カア!」

「伝えよ、鴉!」

「カアー!」


 大人がまるまる入れるような巨大な水晶玉に、僅かなシミのように現れた斑点。年老いた大賢者の可愛がっているカラスは、火急の知らせを持って王宮へとやってきた。


「おお、賢者の鴉か」

「カア」

「何かあったな?」

「カア」


 王は若手の騎士を1人選んで魔法の塔まで遣いに送る。程なく戻った騎士は広い謁見の間、王の前で膝をつく。


「陛下」

「どうだった」

「魔王が復活し、宿命の子供達が現れました」

「なんと!」



 ◆



 共に旅する3人は年老いた大賢者に見出された宿命の子供達だ。盛大な出発式が行われ、いざ魔王封印の地へと旅立った。


 長い旅路ではあったが、魔王封印の地に着くまでは魔族を見かけることもなく、奇妙な病もなかった。封印が解けた割には、魔王や魔族の活動はどうにも地味である。


「まだかなー」


 ミニスカワンピの魔導士が退屈そうに言った。


「まだの方がいいでしょ」


 勇者はにこにこしながら宥める。

 魔法で身体強化をするタイプの黒髪戦士は無言だ。



 封印の地付近に差し掛かると、急に土地が荒れ始めた。岩山を歩いていたら、洞窟しか道が無くなった。仕方なく中に入ると、所々に罠があり、たまに魔族も見かけるようになった。


 洞窟に潜って3日目の晩が来た。光の魔導士、強化戦士、そして勇者の3人が焚き火を囲んで食事を始める。強化戦士は無表情である。その心のうちを覗いてみよう。



 ◆



「はー、今日もなんとか生き延びたねえ」


 金髪碧眼の勇者が間抜けな顔でへにゃりと笑う。こいつとは出発式で初めて顔合わせをした。旅の仲間だが、いけすかない。緊張感がなさすぎる。


「ごはんにしよ!」


 幼馴染のシンディが太陽のような笑顔で言った。勇者に。


 シンディのやつ、ニコニコしやがって。

 そんなにイケメンがいいのかよ!

 いいんだろうな!


 金髪!碧眼!ガッチリしつつ引き締まってムキムキではない乙女垂涎の体躯!柔らかくあり爽やかでもある嬉し恥ずかし理想のイケボ!


 ああクソ、何一つ俺にはねぇ。


「キーくんあーん」

「シーちゃんありがとー」


 なにがキーくんだ。勇者キルヒスリーズチェリとかいうクソ長い名前を略したくなるのはわかるがな!お前、俺がキルって呼んだら怒ったじゃねえか。

 シンディはシーちゃん?へんなあだ名つけやがって。シンディはシンディだろ。


「お腹いっぱい!」

「そうだねえ」


 お前ら一口ずつしか食ってねぇだろ!


「ねえ、シーちゃん、あっちいこ?」

「えー、やだぁ」

「ほら、ちょうどいい岩があるよ?」

「もおー」


 なんだよ?ちょうどいい岩って。割るのか?

 ちっ、クソが。

 岩陰に消えやがった。



 ◆



 さて、岩陰に入った2人だが。


「シンディさん、これ、ムリゲーじゃね?」

「何を仰るキルヒスリーズチェリさん」

「どう見ても無反応でしょ」

「チッチッチッ解ってないねえ」


 シンディは人差し指を立てて振る。


「あの顔は、絶対今夜あたりガバー!からの、スキー!からの、チューって!」

「しないと思うなあ」

「絶対焦ってるよ!嫉妬嫉妬ぉ」

「普通に告白しなよ」

「えぇー、恥ずかしいぃ?しぃぃ?」


 勇者キルヒスリーズチェリは、うんざりした顔で光の魔導士シンディを見る。サラサラの銀髪を束ねもせずに垂らしているのは、幼馴染の気を惹くためだ。何度も小枝に引っかかり、そのたびに幼馴染の身体強化型魔法使い、即ち強化戦士のブライアンが無表情で解いてやっていた。


 勇者はメンドクサイナアと思いながら眺めていたのだが、最近巻き込まれて更に面倒なのだ。


「ブライアンはそういうタイプじゃないでしょ」

「ブラくんのことはしってるもん!」

「じゃあ本人にブラくんて言ってみなよ」

「そんなあだ名嫌がるでしょ!」

「ほらな」

「ブラくん渋っヤバっ!」

「はぁー」


 頑固な光の魔導士は、お人好しの勇者を呆れさせる。仲は良さそうだが、強化戦士ブライアンのほうが細やかに世話をしているのだ。シンディは少し頭が弱いのか、空回りばかりしている。


 しかし、ブライアンの指示には概ね従うため、旅や戦闘で足を引っ張ることはない。せいぜい髪の毛が少し藪に絡まる程度である。


 それだって、本当は光の魔法でごにょごにょっとやれば絡まらないのだ。お荷物ではないのである。曲がりなりにも運命の子供だ。かなり曲がってはいるが。



 勇者が疲れて岩陰を出ようとした時、異変が起きた。岩の向こうから何かが折れるような、割れるような、大きな音が聞こえて来たのである。


「ブライアン!!!」


 シンディが血相を変えて飛び出す。勇者も岩陰から顔をだす。洞窟の壁が割れて、ぽっかりと大穴が開いていた。そこから出て来たのだろうか。金色の棘で覆われた真っ赤な三つ目の怪物が、ブライアンと戦っていた。


「走れー光ー!」


 シンディが浄化の光を放つと、怪物が怯む。ブライアンがシンディを琥珀の瞳でチラリとみた。


「ブライアン!」


 ブライアンは無表情のまま、強化した素手で金色の棘をへし折っている。


「ブライアン!うかつに触るな!」


 勇者の剣が青く光る。



 怪物は、棘だらけの太い腕を6本、不規則に繰り出す。2本の脚も棘だらけで太い。全身金色で目眩しにもなっている。シンディの光魔法と勇者の剣が帯びる光も加わって、洞窟内は眩しすぎる。普通の人なら目を開けていられない。


「シンディ、浄化かけっぱなしで」

「無茶じゃないのぉー?」


 尻尾はなく、耳も鼻も見当たらない。時折音もなく開く大口には、鋭い牙が並んでいた。油断したら大の大人が丸呑みされそうだ。


「わかったよ!走れ光ぃ!」

「うわ、まじか」


 ブライアンの身体にシンディが放った浄化の光が鎧のように被さってゆく。


「ブライアン!いけるよ!カッコいい!」


 ブライアンは、またシンディに視線をよこす。シンディは翡翠の瞳を見開いて、想い人の視線を受け止める。

 心なしか鋭くなった気配を纏い、ブライアンが棘を引っ張って怪物の口を開けさせた。振り落とそうとして首を振る怪物の脚に、勇者は刃を叩き込む。


「よし、下がった」


 金色の棘々は、膝をつき口の位置が下がる。勇者は剣を構えて走りだす。剣から発せられる青白い光は、勇者を包んで炎のように揺らめいた。


「そのまま突っ込め」

「おう!」


 勇者が怪物の口に駆け込むと、内側から青白い光が漏れる。程なくして、勇者の剣が放つ光が棘の間から棒のように突き出した。


「走れ走れ光!」


 ダメ押しの浄化も手伝って、怪物は跡形もなく消えてしまった。



「何だ今の」

「魔王の幼生態だよ。出発前に絵巻物見たでしょ」

「あ、そういえば」

「見たー!」

「じゃあ、終わりか?」

「そうだねえ。魔王が消えちゃったから、そのうち魔族も消えるでしょ」

「そうなの?」

「魔族は人間が主食だけど、魔王からでる不浄の息から生まれるし、魔王がいなければ生きていかれないからな」

「ロマンチック?」

「いや、単なる副産物だよ」

「ええー、あたしはブライアンの副産物なの?」


 勇者と強化戦士が思わず顔を見合わせる。


「帰ろうかー」


 勇者が疲れた笑顔で洞窟の出口へと歩きだす。ブライアンは無言でシンディの手を掴む。嬉しそうに顔を輝かせ、シンディはいそいそとブライアンに寄りそう。


「あーもう、馬鹿馬鹿しいなあ」


 勇者はぶつぶつ言いながら、ゴツゴツした岩の道を歩く。腰の剣が淡く光った。


「ほら、出ておいで」


 剣の光が強くなる。


「こっちもメンドクサイなあ」


 剣の光が点滅した。


「ヘブンズ、おいで」

「もう、仕方ないわね。そんなに呼ぶなら人型になってあげるわよ」


 剣がすっかり青い光だけになり、くるくると渦巻いたかと思うと、見る間に妙齢の美女が現れた。勇者は剣だった美女のキュッと引き締まった腰を抱き寄せて、満足そうにキスをした。



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