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最強のギルド職員は平和に暮らしたい  作者: 月輪林檎
第二章 ダンジョン調査

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診察と買い物

改稿しました(2022年1月15日)

 次の日、仕事に向かうリリアさんを見送った後、私は病院に向かった。キティさんは、留守番をしている。今日も診察してくれるのは、アンジュさんだ。かかりつけ医だから当たり前だけどね。


「それで、今日はどうしたの? 見たところ、いつもと変わりないように思えるけど」

「はい。実は、悪夢についてのお話なんです」

「まさか、悪化した!?」


 アンジュさんは、慌てて私に詰め寄った。そして、顔を両手で包んで覗きこんでくる。


「……少しだけ痩せた? 目の隈も退院した時より、少し濃くなっている。やっぱり、悪化したのね?」

「いえ、悪夢自体は、悪化していないんです。リリアさんとキティさんのおかげで、普通に寝ても悪夢に魘される事はなくなっていますから」

「そうなの? でも、前より、少しだけ状態が悪いけど……」


 アンジュさんは、両頬に付けていた手を離して、私の額に当てた。アンジュさんの手に緑色の光が纏わり付き始める。いつもの魔力を使った触診だ。


「この前の調査で、発作が起きたんです」

「例の悪夢が蘇ってくるやつね。身体の硬直とかの付随効果もあるみたいだけど、確か不定期に起っていたんだっけ」

「はい。そうなんですが、その発作で見た内容が、今までと大違いなんです」

「なるほどね。詳しく話せる?」


 アンジュさんは触診を続けながら、私の話を聞く。


「見た事が無い景色、悲鳴と怒号と恐怖の声ね。その見たことがない景色っていうのは、どんな感じなの?」

「取りあえず、スルーニアでないことは間違いないです。見たことのない材質の家があったり……かと思ったら、スルーニアにあるような家があったり、平原だったり、森の中だったり、共通することは、全体的に赤かったり黒かったりということです」

「赤いっていうのは、血で?」

「……それもそうですが、確か、炎もありました。黒焦げになった人の死体とかも……」


 そこまで話して、ある事に気が付いた。


「そういえば、昨日の夜に、その景色を見ました」

「それは、悪夢じゃなくて?」

「はい。赤くも黒くもなかったです。本来あるべき姿みたいに思えました。沢山の人の笑い声も響いていて、久しぶりにいい夢を見られたと感じたくらいです」

「そう……」


 アンジュさんは、少し考え込んだ。私のこれは病気じゃなくて、呪いが原因だから、やっぱりアンジュさんに言っても仕方ない事だったかな。


「その景色を絵に描ける?」

「絵ですか? 描けると思いますけど」

「じゃあ、描いてきてくれる? それが描けたら、また来て。後、きちんとバランスの取れた食事を取る事。気休めかもしれないけど、睡眠以外の場所で、健康を取り戻せるようにしないとね。目の隈自体は取れるか分からないけど、体調自体は少し改善すると思うから。それと、また発作が出てきたら、すぐに来て」

「分かりました。今日は、ありがとうございました」

「こっちも、あまり役に立てなくてごめんね」


 アンジュさんにお礼を言った私は、診療室から出て行く。アンジュさんは、ああ言っていたけど、こっちの悩みに真剣に対応してくれるアンジュさんが、役に立っていないわけがない。こっちの気だって楽になるからね。この呪いが解けるまで、私は悩み続けないといけないから。


「さてと、病院も終わったし、防具をカラメルに持って行こう」


 病院を出て行った私は、真っ直ぐカラメルに向けて歩いていった。昨日、家に帰ってから防具を脱いでみたら、自分で思っていたよりもボロボロだったので、カルメアさんの言うとおり、カラメルに持っていくことにしたのだ。


「マイラさん、いらっしゃいますか?」


 カラメルの扉を開けた私は、中に向かってそう呼び掛けた。すると、店の奥からマイラさんが出て来た。


「いらっしゃいませ。あら、アイリスちゃん、今日はどうしたの?」

「実は、調査で防具が消耗してしまって、直して貰うために来たんです」


 背負っていた鞄から防具を取り出して、マイラさんに手渡した。マイラさんは、私の防具を広げて全体を見ていった。


「あらら、結構くたくたになっちゃったね。強敵と戦った?」

「はい。でも、防具のおかげで、大怪我はしませんでした。ありがとうございます」


 あのトレント・サハギンの最後の一撃を受けても、打撲とかで済んでいるので、本当にマイラさんの防具があって良かったと思う。


「どういたしまして。でも、大分、強化したつもりでいたんだけど、足りなかったみたいだね。直すついでに強化しておいてあげる」

「ありがとうございます。代金は、どのくらいですか?」

「う~ん、このくらい?」


 マイラさんが、代金を計算して紙に書き出してくれた。そこに書かれた金額を見て、少しだけ苦笑いになってしまう。


「結構しますね。でも、ここでケチったら、取り返しの付かない事になりそうですし、お願いします」

「承りました。じゃあ……四日後に取りにきて。多分、そのくらいには終わると思うから」

「はい。分かりました。じゃあ、失礼します」

「うん、またね」


 マイラさんに一礼してカラメルを出ていく。そして、今度は商店街に向かう。食料品が少なくなってきていたので、買い足さないといけないからだ。それと、もう一つ買わないといけないものが増えた。


(画材店に向かわないと。家にある画材じゃ、景色の絵とか描けないし)


 アーニャさんに見せるための絵を描く画材を求めて、商店街の中にある画材店の中に入った。その中で、筆や絵の具などを買っていく。

 悪夢の景色を書くだけなら、色は少なくても良かったんだけど、今日見た夢の絵も描くから、色々な色が必要になる。悪夢と違って、結構色彩豊かな夢だったから。それに、紙も必要になるので、それも買う。


「意外とするなぁ。でも、必要なものだし仕方ないよね。後は、絵が上手く描けるかだけど、そればかりはやってみないと分からないし、気にするだけ無駄かな」


 取りあえず、買わないといけない画材を買ったところで、食料品の方に移る。


「何か、珍しいものとかあるかな?」


 いつも通りの野菜、加工品、肉を買いながら、一風変わったものがないか見ていく。いつも同じものばかりだと、飽きが来てしまうので、なるべく何か新しいものを探しているのだ。


「今日は、特になさそうかな」


 残念ながら、今日は珍しいものを見つける事は出来なかった。いつも珍しいものがあるわけじゃないから仕方ない。


「じゃあ、普通に果物買って帰ろう。リリアさんやキティさんも好きだし」


 私は、いくつかの果物を買い足す。そうして、家に帰ってくると、キティさんがテントを物干し竿に掛けている途中だった。私は玄関先に荷物を置いて、すぐに手伝いに向かう。


「手伝います」

「ん、ありがとう。おかえり」

「ただいま。洗ってくれてありがとうございます」

「ん、そこまで汚れていなかったから、楽だった。それより、病院はどうだった?」


 キティさんは、心配そうに私を見ていた。まぁ、病院に行ったとなったら、心配するのも当然かな。


「私の問題は呪いなので、本格的な治療は出来ないですが、少しだけ気が楽になりました。後、私が見た景色について絵に描いて欲しいと言われたので、それをやろうと思います」

「景色の謎が分かれば、解決する?」

「どうでしょう? ただ、解決とまではいかなくても、糸口は見つけられるかもしれませんね」


 キティさんとそんな事を話しながら、テントを干し終えた。


「絵は得意なの?」

「う~ん、普通ですね。得意ってわけでもないですけど、苦手ってわけでもないです。なので、ちゃんと描けるかは、少し不安ですね」

「頑張って」

「はい!」


 私達は運んできた荷物を持って家の中に入り、買ってきたものを仕舞った。そして、自分の部屋に戻った私は、早速、悪夢と夢で見た景色の絵を描き始める。

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