久しぶりの帰宅
改稿しました(2022年1月14日)
ガルシアさんへの報告を終えた私とキティさんは、カルメアさんがいる事務室に向かった。約束通りに、ダンジョンの調査で何があったか伝えるためだ。
「カルメアさん、いらっしゃいますか?」
「いるわよ。中に入ってきて」
中に入ると、カルメアさんの他に二人の職員さんが仕事をしていた。
「そこに座って」
カルメアさんが、近くにあるソファを指さす。この中で小さな会議を行うためのものかな。
「それで、何があったの?」
私は、ガルシアさんにした話をカルメアさんにもする。カルメアさんは、聞いているうちに項垂れていき、ガルシアさんと同じくため息をついた。
「全く、アイリスは、調査に行くたびに事件を起こすわね。取りあえず、今回は、無事に帰ってきて良かったわ」
「好きで起こしている訳でも無いですけどね」
私から事件に突っ込んで行っているわけじゃなく、向こうから来ているのだから私にはどうしようもない。
「それはそうだけどね。念のため服を着替えたら、防具をカラメルに持っていきなさい。かなりよれているから直しておかないと、次の調査の時に困ることになるわ」
「分かりました。じゃあ、私達は失礼しますね。リリアさんは、普通に仕事ですよね?」
「ええ、定時に上がれると思うわ。最近は少し残業もしていたけど、それも片付いてきたからね」
「もしかして、スタンピードのやつですか?」
リリアさんが残業をする事になった理由を、私はスタンピードにあると考えた。さっきガルシアさんから聞いた話から、導き出したことだ。基本的に残業がほぼない職場なので、考えられるのはいつもと違う仕事の場合だからね。
「ええ、スタンピードの支出を計算して、現在の収入と比べて、どのくらいの赤字なのかを導き出しているの。その赤字を取り返すための収入源をどうするかを考える必要があるのよ。リリアも、それを担当することになったから、色々と走り回っていたわ。今は、結構落ち着いてきたんだけどね」
「今日は大丈夫って事なんですね」
「そうね。明日は、どうなるか分からないけど、今日は帰れるはずよ」
「分かりました。では」
私とキティさんは一礼してから事務室を出て行った。
「家に戻りましょうか」
そのままギルドも出て帰路につく。
「ん。夜ご飯は、アイリスが作る?」
「はい。そのつもりです。何か食べたいものはありますか?」
「ううん。アイリスの作るものなら、何でも好き」
「ふふ、ありがとうございます」
私とキティさんは、家に戻っていった。今の時間は夕方に近いので、もうすぐリリアさんの仕事も終わるはず。
(ちょっと早い夜ご飯になるけど、すぐに作り始めちゃおうかな)
家に着いた私は手洗いを済ませた後に、すぐ夜ご飯の支度に移る。
「キティさんは、お風呂にお湯を張って貰えますか?」
「ん、分かった」
家の残っている材料を使って、夜ご飯を作っていく。今回の夜ご飯は、シチューだ。煮込む作業に移行したと同時に、リリアさんが帰ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさい、リリアさん」
「おかえり」
私とキティさんが顔を出して迎えると、リリアさんは一瞬ぽかんとしてから駆け出してきた。そして、私とキティさんをまとめて抱きしめる。
「おかえり! 二人とも!」
「ただいま、リリアさん」
「ん。ただいま」
その後、皆でご飯を食べながら近況報告をしていた。最初に話したのは、私達のダンジョンの調査についてだ。話が進んでいき、私の発作の話になると、リリアさんの顔が曇る。
「発作の種類が変わったっていうのが、一番怖いね。今までに見た事がないものだったんでしょ?」
「はい。これまでの悪夢でも見たことがないです。初めての光景と声でした。一応、明日、病院に行って、診てもらおうと思っています」
今回の発作については、アンジュさんに報告しないといけない事だと判断した。呪いの専門家ではないけど、相談すれば何か解決に近づけるかもしれないからだ。一応、私のかかりつけ医でもあるしね。
「うん。その方が良いと思う。キティと一緒にいたら治ったって事は、前に起こった発作と同種のものだとは思うけど。そういえば、アイリスちゃんは、どれくらい休暇を貰ったの?」
私がどのくらい休めるのか気になったのかリリアさんがそう訊いてきた。
「四日です」
「へぇ~、四日も貰えたんだ。今聞いた話だと、それくらいが丁度いいのかな。その間に発作が出なければ、いつも通りに生活出来るかもね」
「そうですね。ここならキティさんだけでなくリリアさんもいらっしゃるので、発作が起きても大丈夫だとは思いますけどね」
ご飯を食べ終えた私達は、次にお風呂に入る。私の発作が、どのタイミングで出て来るかどうか分からないので、今日はキティさんと一緒に入る事になった。ダンジョンの中にいた私とキティさんを優先してくれたのだ。
「ふぅ……」
「久しぶりのお風呂。気持ちいい……」
「そうですね……」
ダンジョンにいる間は、水で軽く濡らしたタオルで身体を拭くだけだった。意外とさっぱりする感じがあったけど、こうして湯船に浸かるとお風呂は別格だということが改めて分かった。二人で並んで湯船に浸かり、ほっと一息つく。気持ちよさに半ばとろけていると、キティさんが自分の胸と私の胸を見比べていた。
「私の方が年上なのに……」
キティさんはそう言って、少ししょんぼりとした。キティさんの胸は私よりも慎ましい。私も決して大きいとは言えないけどね。
「あはは……私も大して大きくありませんよ。リリアさんの方が大きいですし。キティさんだって、まだ成長する可能性はありますよ。多分……」
「むぅ……」
キティさんは、ジッとこっちを見てきた。何だか、嫌な予感がする。
「少し触らして」
「それはちょっと……」
「いつも勝手に耳触ってる。お返し」
「ちょっ、待ってくだ、ひゃうっ!」
そうしてお風呂から出た後、私は疲れ果てていて、キティさんは満足げだった。今度、絶対に耳と尻尾を満足するまで触ると、心に決めた。私達がお風呂から上がった後、リリアさんがお風呂に入る。その間に、キティさんは自分の部屋で眠りについた。私は、リリアさんが上がってくるのを待つ。今日は、リリアさんと一緒に寝ると決めたからだ。
「あれ? リビングで待っていてくれたんだ。ベッドで待っていてくれても良かったのに」
「今、ベッドに行っちゃうと、そのまま眠ってしまう可能性が高いと思ったんです。ガルシアさんが、自分が思っている以上に身体が疲れているはずって言っていたので」
ダンジョンでも充分に睡眠を取ったはずだけど、ガルシアさんが言うには自分でも分からないうちに疲れを溜め込んでいるみたい。だから、ベッドでリリアさんを待っていたら、先に眠ってしまいそうだと思った。
「それもそうだね。ちょっと待ってね。髪を乾かしちゃうから」
「はい」
リリアさんは、私の隣に座って、タオルを使って髪を乾かしていく。
「髪が早く乾く道具があれば良いんですけどね」
「そうだね。王都の方だと、そういうものも開発していそうだけど、それがこの街まで来るのは、結構時間が掛かるし」
「そうですよね。この街でも、そういう開発が盛んになれば、解決するんでしょうか?」
「う~ん、そもそもそういう開発関係の人達は王都に集まる傾向があるから、無理かもしれないね」
王都からスルーニアまでは、結構な距離がある。だから、王都で開発された便利なものがスルーニアまで来るのには、時間が掛かってしまう。それらがあれば、もっと楽な生活になるかと思うんだけどね。
「よし、このくらいで良いかな。じゃあ、ベッドに行こうか」
「はい」
私達は、寝室に向かう。そして、一緒のベッドの中に入る。
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい……」
いつも通りリリアさんに、ぴったりとくっついて眠りについた。その日の夜、私は悪夢を見ることは無かった。
ただよく分からないものを見た。見た事の無い景色で、誰かが笑っている。楽しそうに。ただの夢と割り切ってしまえば、そうとしか言えなくなるけど、何だか、そうして割り切る事が出来なかった。
(私は……この景色を見たことがある? 笑っている人を知っている?)
矛盾した考えが巡っていく。だけど、その答えを夢の中で見つけることは出来なかった。




