激闘の後
改稿しました(2022年1月3日)
眼を覚ますと、隣でキティさんが眠っていた。最後に見たキティさんは、眼に涙が溜まっていたけど、今は何ともない。つまり、あれから結構時間が経っているはず。多分だけど、私が悪夢を見ないように、つきっきりでここにいてくれたんだと思う。
「ありがとうございます、キティさん」
眠っているキティさんにそう言って、軽く耳を触ってからテントの外に出た。外には、ミリーさんとマインさんが座っていた。二人は、ブランケットを下に敷いて、その上に座っている。二人は、私に気が付くと手招きをしてくれる。私は、それに導かれて二人の傍まで移動した。
「アイリスさん、もう大丈夫なんですか?」
「はい。治療してくれてありがとうございました」
起きたときに気が付いたけど、私の身体中に沢山の包帯が巻かれていた。私が意識を失っている間に、治療をしてくれた証拠だ。ライネルさんのパーティーの中で、治療を担当している人は、ミリーさんしかいないので真っ先にお礼を言った。
「マインさんも、ご迷惑をお掛けしました」
「本当よ! 全く、凄く心配したんだから! というか、いつまで突っ立てんの!? まだ、治療したばかりなんだから、早く座りなさい!」
マインさんが、ブランケットの上に私が座れる場所を作って、手で叩いている。そこに座れってことだ。私はマインさんのお言葉に甘えて、座らせて貰った。
「本当に大丈夫なの? どこか具合悪いとかない?」
「大丈夫ですよ。少し、身体がだるいくらいです。これも、技を使い過ぎたってだけなので、怪我で具合が悪いとかではありませんし」
特殊個体との戦闘では、最終的に技を連発していたから、消耗が激しかった。戦闘中の負傷よりも、こっちの方で気絶したって方が正しい。だから、あまり怪我でどうのこうのっていうのはなかった。
「後、発作は平気なの? 時々起こるんでしょ?」
「戦闘中に起きていましたけど、今は、大丈夫です。キティさんが一緒にいてくれましたから」
「発作が起きてたのに、あんな激しい戦闘が出来たの!?」
マインさんは、驚いて詰め寄ってきた。ミリーさんも身体をこっちにずいっと傾ける。
「もしかして、今回起きた発作は、そこまで酷いものじゃなかったって事?」
「いえ、今までにないくらい酷いものでした。それに、今までに見たことがない感じの発作でしたね。発作が起きる度に、身体が固まってしまいましたから、本当に危なかったです」
私がそう言うと、マインさんもミリーさんも顔が強張っていた。発作を起こしながら戦闘をしていたって聞かされたら、こんな反応になるのは仕方ないか。
「あんた、そういう時は、すぐに逃げなさいよ! 危ないでしょ!?」
「そうですよ! 一歩間違えば、死んでいたかもしれないんですよ!?」
二人が一気に詰め寄る。私の事を凄く心配してくれているみたい。
「すみません。でも、向こうの執着が強かったですし、逃げるのも発作のせいで厳しかったので戦わざるを得なかったんです」
「いつから、そんな風になったの?」
「発作が出たのは、一ヶ月くらい前からですけど、頻度はかなり低かったんです。なので、ここまで酷いものはないだろうと思っていました。私も予想外です」
発作が起こる可能性を考えてはいたけど、あんなに酷いものが来るなんて思っていなかった。それに、今までの悪夢が過ぎってくるものと違って、全く身に覚えのない何かを見せられ聞かされていた。あれは、一体何だったんだろうか。
「まぁ、ともかくアイリスが生きていてくれて良かった。私達の仕事にも影響するかもだったし」
「すみません。後、本当にありがとうございます」
私がそう言うと、マインさんは顔をぷいっと背けてしまった。ここからでも見える耳が赤くなっているから、照れているんだと思う。マインさんが素直ではないという事は分かっているので、少し微笑ましく見えた。
「そういえば、アイリスさんはどこまで落ちていったのですか?」
ミリーさんが首を傾げながら訊いてきた。全然合流できなかったから気になるのかな。
「あの後、もう一回落ちてしまって、結局最下層まで落ちました。そこが、ちょうどボスがいる場所で……あっ!」
いきなり大声になったので、二人とも驚いて肩を跳ね上げていた。
「ど、どうしたのよ?」
「いや、ボスを倒したんですけど、その魔石と素材が入ったポーチを戦闘中に落としたことに気が付いて……」
「ボスを倒した!?」
「はい。かなり弱かったですよ。寧ろ、あの特殊個体の方が危なかったです」
大声で驚かしてしまったのに、ボスを倒した事でも驚かしてしまった。普通のボスは、一人で倒すのも厳しいくらい強い事が多いらしい。
「はぁ……アイリスは、色々と規格外なのね」
「私はスキルに恵まれたってだけですよ。それも、まだ使いこなせず、振り回されていますけどね。今回の戦闘でも、課題になるところを見つけてしまいましたし」
「課題ですか?」
ミリーさんが意外という風にそう言った。
「はい。私は、攻撃の狙いが甘いことが多いみたいなんです。だから、トドメの一撃も狙いを外すことがあるんです。そういえば、私が戦った特殊個体は倒せていたんですか?」
起きてから真っ先に訊かないといけない事を忘れていた。あの特殊個体の生死は、知らないといけない重要事項だったはずなのに。仮に生き延びていたら、色々と厄介すぎる。
「倒せていたらしいよ。二日前にライネルさん達が見つけたから」
「二日前?」
「あっ、そうか。ずっと寝ていたから、日付感覚もないわよね。アイリスが気絶してから、二日が経ってるのよ。つまり、二日間丸々寝ていたって事ね」
ずっと寝ないで戦闘をしていたって事もあって、かなり長い間寝ていたみたい。その間、悪夢を見ていなかったということは、キティさんが二日間もつきっきりになってくれていたということだ。後で、きちんとお礼を言っておかないと。
「あっ、そういえば、アイリスさんが起きてきたら、渡して欲しいと頼まれたものがあったんでした」
「渡して欲しいものですか?」
ミリーさんがテントの中に入って、見覚えのない一本の白い槍を持ってきた。
「槍ですか?」
「はい」
「でも、私のものではないですよ? 私の武器は、雪白だけですから」
私が持っている武器は、雪白一つだけだ。
「いえ、正真正銘、アイリスさんのものですよ。これは、アイリスさんが戦っていたサハギンが持っていた槍です」
「こんなに綺麗な槍ではありませんでしたよ? 三つ叉でしたし」
「形状が、アイリスさんに合わせて変わったのです。これは時折起こる現象ですが、魔物に認められ、武器を贈与されると言われています。その現象が起きたんです」
私も聞いたことがある。魔物の中でも、強力な個体が行う行動と言われているはず。つまり、あのサハギンの特殊個体もそれに当てはまるということみたい。
「これを、あのサハギンが……」
サハギンは、戦いの時に楽しそうに笑っていた。あれが、私を認めていたという事なのかもしれない。戦いを楽しんでいるようにも見えたけど、自分と渡り合える好敵手が現れた事に喜びを覚えていたのかもしれない。
私は、ミリーさんから槍を受け取る。すると、槍がどんどんと縮んでいき、ブレスレットに変わった。
「宝級武具!?」
マインさんが、目を剥く。宝級武具とは、身につけられるものに変わるような武具の事だ。魔力を通すことで、元の姿を取り戻す。私はすぐに魔力を通して、槍の状態に戻した。綺麗な装飾を付けた白い槍に。
「魔力の通りが良い……あの槍と同じ……」
サハギンが持っていた槍と同じ特性を持っているみたい。試しに魔力を通してみたら、一切の抵抗なく流れていくのを感じる。二人から少し離れて、軽く槍を振ってみる。
「アイリスは、槍も使えるの?」
「一応【槍姫】のスキルも持っていますから」
「「【槍姫】!?」」
マインさんとミリーさんが、同時に叫ぶ。
「はい。普段は雪白を使っているので、槍の方は、あまり使っていないんです」
「スキルに恵まれてたって、どんだけ恵まれてるの……」
「最上位スキルを二つも所有しているなんて……」
まぁ、これだけでも驚かれるよね。最上位スキルは、一つでも持っていれば、周りから羨ましがられる。でも、私は、その最上位スキルを複数持っている。このせいで、学生時代は、色々と厄介ごとに巻き込まれたり、騎士団に勧誘されたりした。
「なるほどね。そりゃ、戦闘職員で採用されるわけだわ。冒険者になったら、大成したでしょうに」
「私は、今の生き方の方が性に合ってますから」
そんな事を話していると、私が眠っていたテントの入口が勢いよく翻る。
「アイリス!」
「キティさん、おはようございます」
キティさんはすぐに私の傍に来ると、ぎゅっと抱きついてきた。私も抱きしめ返す。
「ん。元気になって良かった」
「はい。もう大丈夫です。一緒にいてくれてありがとうございます」
「ん」
この後、キティさん達と色々と話してから、また眠りについた。後二日間は、休みに費やすみたい。私の消耗を完全に癒やすために。




