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最強のギルド職員は平和に暮らしたい  作者: 月輪林檎
第二章 ダンジョン調査

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全身全霊

改稿しました(2021年12月31日)

 私と特殊個体は、何度も剣と槍を打ち合いながら、階層を移動していった。もう互いに本気の状態だ。私は『グロウ』を、向こうは槍に水を纏わせたまま、攻撃している。私達の戦いは、ダンジョンの形を大きく変えていった。あったはずの壁が崩れて別の場所に繋がっていたり、落とし穴でもないのに、天井や床に穴が開いている場所もある。

 実は、ダンジョンは、基本的に壊れる事はないと言われている。余程の攻撃力がないと壁の破壊などは無理だ。私の『グランドクロス』や極端に威力の高い広範囲魔法などを使用してしまうと、ダンジョンが崩れ落ちる危険性がある。私が、最大の(アーツ)である『グランドクロス』を使わない理由はそういう事だ。

 ただ、私達の戦いは、『グランドクロス』よりも弱い威力ではあるものの、ダンジョンの壁や床、天井の一部を破壊する事は出来る強さを秘めていた。


「『グロウ・レイ』!」


 一旦、特殊個体との距離を開けて、熱線を放つ。特殊個体は、水を纏わせた槍を、手の中で回して熱線を散らしていった。すぐ近くまで寄っていた通常のサハギン達が、その余波を受けて、身体中に穴を開けていく。

 そして、特殊個体はお返しとばかりに、槍に纏わせた水を『グロウ・レイ』と同じ要領で放ってきた。『グロウ・レイ』と同じく直線の攻撃なので、すぐにしゃがんで避けた。頭上を水の砲撃が抜けていく。その低い姿勢のまま、特殊個体に向けて駆け出す。


「『グロウ・ピアース』!!」


 下からの突き上げを、特殊個体は身体を反らすことで避ける。そして、すぐに槍を回転させて、私に向かって突き出してくる。私は、素早く引き戻した雪白で防ぎつつ後ろに下がっていく。互いに、本気の一撃を見舞っているけど、どれも命中しない。互いの動きを完全に理解しあっているのか、見た事のない攻撃もギリギリで避けるあるいは防ぐ事が出来ている。


『殺して……』


 頭の声は消えない。これに関しては、慣れというものが存在しないみたい。声が聞こえてくる度に、身体が一瞬だけ固まる感じがする。段々と心の余裕がなくなっていくのを実感した。

 対して、相手の特殊個体は、楽しそうな笑みを消さない。心の余裕でいえば、向こうに分がある。だけど、向こうは、度重なる(アーツ)で相当消耗しているのか、肩で息をしている。一方私は、まだ体力自体には余裕がある。こっちの面では、私に分があるみたい。

 今度は、特殊個体が距離を詰めてくる。低い姿勢から、槍を連続で突き出してきた。雪白でその一つ一つを弾いていくけど、威力の高さから、こっちが浮かされてしまう。段々と天井に近づいて、私から逸れた槍によって天井が崩れていく。最後の突き出された槍で、上層に上げられた。上層の床に着地した私は、すぐに穴から離れる。すると、特殊個体が一跳びで上がってきた。


 その瞬間を狙って、雪白を勢いよく突き出す。それに対して特殊個体は、正確に槍を突き出して、雪白を弾いてきた。その結果、私の手から雪白が離れていき、後ろの通路に刺さってしまう。すぐに取りに行こうとしたら、後ろにサハギンの群れが殺到してきた。すぐ近くにいたみたい。特殊個体は、すぐに追撃を仕掛けようと突っ込んでくる。


(素手じゃ無理!!)


 私は、すぐに群れの方に向かう。突き出されてくる槍を掻い潜って、サハギンの首を手刀を突き刺して、千切り落とす。そして、そのサハギンが持っていた槍を奪い取る。


「『ホーリー・クリーブ』」


 白い軌跡を残して、サハギン達の上半身と下半身が分断される。


 スキル【槍姫】。女性専用スキル。槍による攻撃の精度、威力を大幅に上昇させる。槍系最上位スキルの一つ。


 サハギンの槍が私の(アーツ)に耐えきれず、砕け散った。すぐに今倒したサハギンの槍を拾って、突き出されてくる特殊個体の槍に合わせて、こちらも槍を突き出す。こっちの槍の方が脆弱なので、すぐに砕かれてしまう。地面に落ちていた別の槍を二本、脚を使って跳ね上げさせて掴み取る。正直、槍はあまり使わないので、操作がおぼつかない。ほとんどスキル任せに動かしていく。


 足元にある槍を雪白の近くまで蹴り飛ばしつつ、特殊個体の攻撃を手に持った槍で防いでいく。さっきの攻防で、(アーツ)を使うと、槍が保たないことが分かったから、使わないように注意しながら防いでいく。

 それでも特殊個体の攻撃を、大体二回受けると壊れるから、その度に足で運んでおいた地面に落ちている槍と入れ替えつつ後退していく。

 目的地まで下がったところで雪白を引き抜いて、特殊個体の槍を弾く。そして、最後に残った槍を肩に担ぐ。


「『ホーリー・ジャベリン』!」


 白い光を纏った槍が、特殊個体の心臓近くに飛んでいく。特殊個体は、水を纏った槍で、私が投げた槍を受け止めていた。多分、『グロウ・レイ』と同じで、すぐに弾く事が出来ないんだ。『ホーリー・ジャベリン』の威力で特殊個体が押されていく。


「ここだ! 『グロウ・ピアース』!!」


 槍の石突を、雪白で突く。『ホーリー・ジャベリン』で、威力が増しているところに、『グロウ・ピアース』で加速を掛ける。(アーツ)二つ分の攻撃を、水を纏った槍で受け止め続けている。『ホーリー・ジャベリン』が先に砕け散ったけど、特殊個体の槍を弾き飛ばす事が出来た。そして、後に続いた私の『グロウ・ピアース』が、特殊個体の左腕を吹き飛ばした。

 本当は、魔石を狙えたんだけど、攻撃を直撃させる直前に、声が頭の中に響いてきて狙いがズレた。この発作さえなければ、もっと前に倒せているはずのに……


『シャアアアアアアアアアアアア!!!!』


 特殊個体が牙を剥いてくる。そして、ギラギラとした眼を私に向けてきた。でも、その口は弧を描いている。


「ただの戦闘狂か……」


 特殊個体は、片手になっても戦う意思をなくしていない。槍に今まで以上の水を纏わせて、こっちを見る。


「最後のぶつかり合いって事? なら、それで仕留めてあげるよ!」


 雪白が今までにないほどの輝きを放つ。互いの魔力が、中間でせめぎ合いバチバチと火花のようなものが散っていく。


「『グローリアス・シャイン』!!」

『シャアアアアアアアアア!!』


 眩い光の斬撃が、特殊個体に向かって飛んでいく。特殊個体が放った激流も私に向かって飛んできた。二人の最後の一撃はぶつかり合う事なく、互いに向かっていく。特殊個体が光に飲まれ、私は激流に飲まれていった。

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