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最強のギルド職員は平和に暮らしたい  作者: 月輪林檎
第二章 ダンジョン調査

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順調な道のり

改稿しました(2021年12月29日)

 ボスを倒してから、どのくらい経ったのだろうか。私は、順調に階層を上がっていった。とは言っても、最下層から三層ほど上がっただけだ。倒せる魔物を倒しつつ、罠に気を付けて上層へと繋がる階段を探すのは、想像以上に時間が掛かる作業だった。

 もう一つだけ進展があった。それは、食糧を手に入れたこと位だ。何度も戦っていると、グレーター・サハギンの肉が取れたのだ。手に入れたとき、どう食べれば良いのか分からなかったけど、取りあえず火を点けてから直接焼いて、表面を少しずつ食べていった。正直、あまり美味しくなかったけど、お腹を満たすことくらいは出来た。

 そして、今もグレーター・サハギンを倒していた。


「ふぅ……大分、慣れてきた」


 あれから、何度も戦闘を経たおかげで、グレーター・サハギンの魔石を正確に貫けるようになった。その結果、狙った場所を正確に攻撃出来る回数が増えてきた。反復練習の大事さを身をもって思い知った。


「ようやく、この階層ともおさらばだね」


 グレーター・サハギンを倒した先に、上り階段を見つけた。前にライネルさんが言っていたように、このダンジョンは末広がりになっているみたいで、今いる層は一層とかと比べものにならないほど広い。ここも、結構長い間彷徨っていた。次はここよりも狭いとはいえ、広いことに変わりないので少し憂鬱だ。


「さて、次の階段を……探さないと……」


 階段を上って通路の先が見えてくると、声が尻すぼみになっていく。その理由は、目の前から二回目の落とし穴に落ちる前に遭遇した特殊個体が歩いてきていたからだった。


「嘘!? ここまで追ってきたの!?」


 特殊個体は、私を視界に入れると、すぐに槍を構えて駆け出してくる。私は、周囲の状況を素早く確認する。


「……やるしかない」


 今、私がいる場所は階段を上りきった場所なので、逃げるには下層に降りるしかない。でも、そうすると、また前の二の舞になる可能性が高い。


(いっそのこと、戦いながら上の階層に上がっていく方が良いかも……上手くいくかは分からないけど、その方が良いはず!!)


 こちらも雪白を抜いて駆けだす。向こうの方が攻撃のリーチが長いので、先に攻撃をしてきたのは特殊個体だった。高速で突き出される槍は、ボスサハギンよりも遙かに速い。それでも、私が対応しきれないほどの速さじゃない。ただ、少し気になる事があった。


「前よりも速い……」


 槍を弾きながら、今の槍の速度と前に交戦したときの速度を頭の中で比べてみる。やっぱり、前はこんなに速く無かったと思う。


「こいつも私達と一緒で、成長しているって事?」


 魔物も私達と一緒で成長するのかもしれない。いや、上位種とかを考えれば、成長するって考えるのは当たり前か。でも、こんな短期間で成長するなんて、こういう部分も特殊個体としての特性なのかな。


「でも、私だって!!」


 突き出されてくる槍を雪白で弾いていって、少しずつ近づいていく。でも、特殊個体も馬鹿ではないので、少しずつ下がっていく。そのせいで、私達の距離は中々縮まらない。だから、一瞬の隙を突いて、【疾風】で一気に近づいた。特殊個体は全身を鎧で包んでいるから、魔石を直接狙うことが出来ない。だから、まずは、鎧を剥ぎ取る事を優先する。そのために雪白で鎧に斬り掛かった。


「硬い……」


 雪白で斬りつけたのに、鎧に小さな傷を与える事しか出来なかった。それでも、特殊個体の背後に抜けることは出来た。【疾風】を纏って、その場から離れる。壁や天井なども使って、敵の攻撃に捕捉されないような移動の仕方をする。

 背後を抜けていった私を追って、特殊個体も駆け出してきた。いつもと違う動き方をしているからか、特殊個体の方がやや速かった。


「さすがに詰められちゃうか……」


 突き出されてくる槍を弾いて、後ろに大きく距離を取る。でも、特殊個体は、私に追いついてきた。槍を弾きつつ、それでも移動を続ける。床、壁、天井。あらゆる面を使って、移動と攻撃を両立していった。そうやって、上層への階段を探しつつ、特殊個体と戦っていった。

 行き止まりに辿り着くこともあったけど、立体的に動いていって、特殊個体の背後に抜ける事が出来た。それに床を踏んだときに、落とし穴が発動する事もあったけど、【疾風】で無理矢理やり過ごした。常時発動をしておけば、落とし穴にも何とか対応出来る。でも、体勢は崩れるから、特殊個体に隙を晒すことになった。

 その結果、少しだけ槍の攻撃が身体に掠ることがあった。マイラさんの防具のおかげで、怪我には至っていない。お互いに防具に助けられている状況が続いた。


 この戦いの中で、二層ほど上に上がることが出来た。互いに通常の状態であれば、決定打に欠けるようで決着は付いていない。今は、上層に上がることを優先しているため、(アーツ)による消耗は少し困る。そのせいで、決定だとなり得る攻撃がない状態が続いたのだ。道中、サハギンの群れと出くわすことがあったが、私と特殊個体の攻防に巻き込まれて散っていった。

 このままの調子で進んで行けば、キティさん達と合流して、特殊個体を倒す事が出来るはず。そう思っていた直後に、発作が起きた。


「うっ……」


 飛び散る血飛沫──暗くなる景色──飛び交う悲鳴──命乞いの声──高笑いをする誰か──沢山の死体──慟哭の声──


 様々な場面が、頭の中を過ぎっていく。ここ最近、鮮明に悪夢を見なかったから分からなかったけど、悪夢の種類が今までと変わっている。誰かの鮮明な記憶を見ているようだった。

 発作が起きてしまったせいで、身体から力が抜ける。そのせいで特殊個体の攻撃を避けるのが、遅れてしまう。


「うっ……」


 直撃するギリギリで身体を捻った結果、腰のポーチが飛んでいった。戦闘中だから、ポケットの中にある花の髪飾りに手を伸ばすことも出来ない。明らかに、戦闘の質が下がる。何とか動く身体で攻撃を捌いていく。

 頭の中で、ずっと誰かの悲鳴などの声が鳴り続けている。見覚えのない景色。誰かの死体。それらのせいで、身体に力が入らないどころか、吐き気や目眩までしてきた。これが呪いの本領なのかもしれない。こんな状態じゃ、戦いになんてならない。でも、戦うしかない。ここを生き残るために。

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