予想外の場所
改稿しました(2021年11月15日)
最初の落下の時に、減速の仕方を学んだので、今度は効率よく減速することが出来た。ゆっくりと、地面に降り立つ。
「はぁ……今度は、どこまで落ちたんだろう……」
私は、すぐに周りを見回す。落ちた場所によっては、かなり危険な事になる。サハギンの群れならまだしも、さっきの上位種みたいなサハギンがいるかもしれない。
「嘘でしょ……あり得ないよ……」
私の正面、その向こうに、大きめの影が存在した。それは、今まで見たサハギンを巨大化させたような存在だった。私の三倍程の身長がある。さらに、身の丈よりも長い三つ叉の槍を手にしていた。
「広い空間に、魔物が一匹……典型的なダンジョンのボス部屋……だっけ?」
学校で習った気がする。学校では、本当に簡単なことしか習わないから、他の事は知らなかった。でも、そんな事は、今問題じゃない。一番の問題は……
『シャアアアアアアアアアア!!!!』
このボスと戦わないといけない事。私は、ボス部屋の中心に落ちてきた。巨大なサハギンは、その少しだけ奥にいる。入口の反対側だけど、私は入口よりもサハギンに近い。
「何か、変な感じ」
この場に降りてきてから、ボス部屋だと気付いて、少しだけ違和感を感じていた。それは、目の前にいるボスサハギンから、さっきまで追ってきていたサハギンの上位種よりも、威圧感を感じなかったからだ。もしかしたら、追ってきていたサハギンは、上位種では無く特殊個体だったのかもしれない。
『シャアアアアアアアアアア!!!!』
ボスサハギンが、私に向けて槍を投げてくる。
「!!」
すぐに、その場から飛び退いて避ける。その間に、ボスサハギンは、こっちとの距離を詰めてきていた。投げた槍を手にして、突き出すのでは無く、薙ぎ払ってきた。私は、雪白で受け止める。少しだけ押されたけど、耐えることが出来た。やっぱり、あのサハギンよりも弱い。つまり、ゴブリンキングより弱いってことだ。
「はぁっ!」
雪白を力一杯上に跳ね上げる。当然、槍も上に弾かれる。上に弾かれた間に、ボスサハギンに接近していく。
「普段は、あまりやりたくないんだけど……『衝打』!!」
急接近した勢いを、そのままボスサハギンにぶつける。普通のサハギンと違って拳で貫通させることは出来ない。でも、【武闘術】の技である『衝打』は、衝撃を内部に伝えて破壊する事が出来る。ボスサハギンの体内にも、私の攻撃の衝撃が伝わったようで、口の端から血が漏れている。
そのまま追撃をするつもりだったけど、ボスサハギンが空いている手で、鬱陶しそうに薙いでくるので、一度後ろに下がる。おかげで、槍の間合いになってしまうけど、致し方ない。
「やっぱり、嫌な感じ……」
『衝打』の感覚は、少し苦手だった。相手の内臓を破壊している感じが伝わってくるからだ。それに、下手をすれば相手を破裂させてしまい、臓物が自分に降りかかってしまう。色々な意味で、あまり使いたくない技だ。
『シャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
ボスサハギンは、怒り狂った形相で、槍を振り回している。むやみに近づけば、巻き込まれてしまう。間合いの外から、隙を窺うしかない。そう思っていると、突然こっちに突っ込んできた。そして、連続で高速の突きを繰り出してくる。
「すぅ~~……」
肺に空気を溜め込み、槍の先端を正確に弾いて、身体に当たらないように防いでいく。でも、これがどのくらい続くのかが分からない。かれこれ、五分間も続いている。集中が切れなければ、問題ないけど、このまま続いてしまうと、こっちが不利な気がする。だから、出し惜しみはしていられない。
「『グロウ』!」
雪白が、白く輝いていく。輝いた状態の白雪が、槍に当たると、明らかな変化が生まれた。
『シャアッ!?』
ボスサハギンが、目を見開く。槍の先端の一部が斬り飛ばされているのだから当然だ。『グロウ』は、剣に光の熱を纏わせることで、切断力を上げる効果を持っている。ただ、短い名前とその単純な効果に反して、少し難易度が高い技だ。常に魔力を流すことを意識していないと、光が霧散してしまう。
「一気に決める!」
全速力で駆ける。ボスサハギンが、槍を繰り出してくるけど、今の私には意味のない攻撃だ。光を纏った雪白で、槍を斬り裂く。ボスサハギンの持つ槍は、もうその役割を果たせるだけの力はなくなっている。
「『グロウ・ピアース』!!」
最後の踏み込みで【疾風】の効果を受ける事で、最大限の加速を得る。そして、その勢いのまま光輝く雪白を、ボスサハギンの胸に突き刺した。ボスサハギンは、最後まで抵抗しようとしていたけど、私の加速についてこれず、胸に穴を開けることになった。
「ズレた……!」
胸の魔石を狙ったつもりが、ほんの少し狙いがズレてしまった。ボスサハギンは、すぐに後方に下がる。そして、胸を押さえながら私を睨んできた。でも、すぐに表情が恐怖に変わった。私の雪白に眩いばかりの光を纏っていたからだ。
「『グロウ・レイ』!」
雪白から発せられた熱線が、真っ直ぐ、ボスサハギンの身体を焼いていった。本当は、魔石を狙ったけど、ギリギリのところで避けられて、お腹付近に命中した。結果、ボスサハギンの身体が千切れることになった。下半身と上半身が分断された。しかし、血が出るような事はなかった。熱線によって傷口が焼かれたからだ。そのボスサハギンの頭を雪白で斬った。
「ふぅ……これで、終わり」
このダンジョンのボスということもあって、結構消耗してしまった。
「このボスのおかげで、色々と課題も見付かったなぁ。魔石を取り出して、少し休憩しておこう」
ボスサハギンの魔石を取り出すと、身体が灰に変わった。そして、そのヒレだけが残った。
「これは、折り曲げれば、ポーチに入るかな」
無理矢理ポーチに入れて、部屋の端っこに移動する。ボスとの戦いで消耗した体力を回復させるために、少しの間休むことにした。
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