表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強のギルド職員は平和に暮らしたい  作者: 月輪林檎
第一章 ギルド職員になった

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/127

生還

 眼を覚ますと、また病室の中にいた。覚えている最後の記憶では、『グランドクロス』を使ったということだけ。ここに運び込まれたということは、『グランドクロス』が成功して、ゴブリンキングを倒す事が出来たみたい。


「スタンピードは……」


 同時多発的に起きたスタンピードは、異常なまでの量の魔物を生み出したはず。実際、私が相手をした魔物達は、ものすごい数がいた。あれの何倍もいると考えれば、スルーニアに所属している冒険者だけじゃ戦力が足りないはずだけど、私がいる病室は、この前入院したときの部屋と一緒だから、スルー二アにあるもののはず。それに、窓の外の景色が、スルーニアのものだ。ということは、無事に乗り切ったって事?


「アイリスちゃん……?」


 病室の入口から声がした。そっちに眼を向けると、そこには、花束を持ったリリアさんが立っていた。


「リリアさん……」


 私は、すぐにハッとして、身体を起こそうとした。約束を破ったことを謝らないといけないから。身体が痛むけど、仕方ない。


「ちょっ!? ちゃんと寝てないとダメだよ!」


 慌てて駆け寄ったリリアさんに肩を押されて、ベッドに寝かされる。前も同じようなやり取りをしたような気がする。


「リリアさん……その……ごめんなさい」

「自分を犠牲にしないって約束を破ったこと?」

「はい……」


 罪悪感から、リリアさんの顔をまともに見る事が出来ない。そうしたら、リリアさんに顔を掴まれ、強制的に向き合わされる。


「絶対に、許さない」


 リリアさんにそう言われ、絶望感が湧き上がってくる。自然と眼に涙が溜まっていく。約束したことなのに、すぐに破ってしまったら、信用を失って当然のこと。せっかく、仲良くなれたのに。私は、リリアさんの事を見られなくなり、目線が下になる。


「なんてね。前も言ったとおり、アイリスちゃんが優しい子だって事は知っているからさ。ニーアちゃんを守ろうとしたんだもんね。むしろ、ニーアちゃんを犠牲にしていたら、ひっぱたいていたところだよ」

「あははは……」


 リリアさんは、本気で言っている。溜まっていた涙が流れていく。でも、新しく涙が出るようなことはなかった。


「病院に担ぎ込まれたって聞いて、仕事を放り出して行ったんだから。後で、カルメアさんに叱られたけど……」

「ごめんなさい……えっと……今って、どういう状況なんですか?」


 私が、どれくらい寝ていたのか分からないので、少し聞いてみた。リリアさんは、ずっと弄んでいた私の頬から手を離して、話し始めてくれた。


「アイリスちゃんは、あれから一週間寝たままだったんだ。スタンピードの方は、アイリスちゃんが、一箇所のスタンピードで出てきた魔物をほとんど倒してくれたから、ライネルさん達だけで、すぐに全滅させることが出来たんだ。そのおかげで、他の場所に、戦力を増やす事が出来て、近くの街からの援軍が間に合ったんだ。今は、スタンピードの殲滅が終わって、ダンジョン内の確認を行っているところだよ」


 あれから、一週間も経っているらしい。その間に、冒険者の皆が奮闘して、スタンピードを乗り越える事が出来たみたい。ひとまず、私達は、この街を守ることが出来たんだね。成り行きだったけど、私も貢献出来て良かった。


「これも冒険者の皆さんが、奮闘したおかげなんだ」

「街を守るためだから、奮闘はするのでは?」

「それもあるんだけど、皆が奮闘したのは、主にアイリスちゃんが原因だよ」

「ふぇ?」


 いきなり、私が原因になる理由が分からない。私は、あの時、ずっと寝たままだったんだから。


「アイリスちゃんが、一人でスタンピードを食い止めたから、自分達が負けるわけにはいかないって」

「それで、奮闘したと?」

「うん」


 まさか、私がやった戦いが、こんなところに影響してくるとは、思いもしなかった。


「じゃあ、私は、仕事に戻るね。お昼に抜けてきただけだから」

「あ、ありがとうございました。リリアさんの顔を見られて、安心しました」

「私も、アイリスちゃんが起きて安心したよ。そうだ、私、自分の部屋を引き払ったから」

「え!?」


 聞き間違いじゃなかったら、リリアさんは、自分の家を引き払ったって。実家に帰るということなのかな。


「どうするんですか?」

「アイリスちゃんの家に、住ませて貰ってもいい?」


 つまり、今までと変わらないということかな。でも、多分だけど、私の悪夢は終わっていないと思うから、一緒に住んで貰えるなら、有り難いと思う。


「はい。良いですよ。広い家ですから」

「良かった。アイリスちゃんを一人にしたら、心配だったから」


 色々とやらかしているからか、ものすごい心配されている。二回街の外に出て、二回とも大怪我して帰ってきているから、当たり前と言えば、当たり前なのかな。


「ありがとう。じゃあ、また来るね」


 リリアさんは、私の額にキスをして、病室から出て行った。私は、突然のことに全く反応出来ず、リリアさんが出て行ってから、しばらくの間、思考が停止してしまった。


「おっ、リリアちゃんの言うとおり、目が覚めたみたいだね」


 入口を見ると、アンジュさんがこっちに来た。病室を出たリリアさんと出会って、私が起きた事を聞いたみたい。


「寝たままでいいから、診察しちゃうね」


 アンジュさんは、ササッと診察を済ませていく。


「大丈夫そうだね。下手したら、内臓がなくなってたかもだけど、応急処置が間に合ったのが大きいかな」

「うぇ?」


 リリアさんの衝撃が抜けきらない内に、新たな衝撃が襲い掛かってきた。ゴブリンキングの一撃で、内蔵とかにダメージがいったとは思ったけど、本当にヤバいダメージを負っていたみたい。応急処置をしてくれた冒険者の人にお礼を言わないと。


「そういえば、アイリスちゃんが助けた子のお母さん、ちゃんと薬を飲んでもらったから安心して」

「あっ、もう大丈夫なんですか?」


 ピアニャさんは、一週間前、風邪をこじらせていた。それが原因で、ニーアちゃんが外に出てしまったので、ちょっと気になっていた。


「ええ。もう回復に向かっているし、お子さんの方も軽い擦り傷はあったけど、重傷とかはなかったから」

「はぁ……よかった……」


 ピアニャさんとニーアちゃんの無事が確認出来たのは大きいかな。私のやった事が無駄にならなかったって事だしね。


「ああ、それと、アイリスちゃんに良い知らせがあるよ」

「良い知らせ……もしかして!」

「キティさんの意識が回復する兆候は見られたの。目覚めるまでは、もう少し掛かると思うけど、もう大丈夫」


 今日二度目の涙が溢れてくる。でも、それは、さっきの申し訳なさから来るものではなく、嬉しさから来る涙だった。

読んで頂きありがとうございます

面白い

続きが気になる

と感じましたら、評価や感想をお願いします

評価や感想を頂けると励みになりますので何卒よろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ