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最強のギルド職員は平和に暮らしたい  作者: 月輪林檎
第一章 ギルド職員になった

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お見舞い

 翌日は、ギルドの仕事がない日だった。ちなみに、リリアさんは、普通に仕事をしている。私と違って、リリアさんの休みは明日だからだ。人手はあるけど、一気に休まれると、負担が酷くなるので、大体同じくらいの処理が出来る人達が重ならないように休みを取るようになっている。


「ふぅ……」


 少し息を吐いて、気持ちを整える。ギルドが休みということもあって、家から出て、病院まで来た。キティさんのお見舞いに来たのだ。


「よし!」


 意を決して、中に入ると、鼻孔に刺すような匂いがしてくる。病院独特の消毒液の匂いだ。これを嗅ぐと、入院していた時を思い出す。


「えっと……」


 病院にあまり来ないのと、お見舞い自体したことがないのもあって、どうすればお見舞い出来るのかが、よく分からない。リリアさんに、話を聞いておけば良かった。


「あら? アイリスちゃん? また、怪我でもしたの?」

「アンジュさん」


 ホールの端っこで立ちつくしていると、ちょうどホールを通っていたアンジュさんに出会った。アンジュさんは、私に近づいてくると、顔を覗きこむ。


「顔色はマシになっているね。目の隈は取れていないから、熟睡とまではいっていないけど、眠れるようにはなったみたい。薬は、飲んでる?」

「今は、飲んでません」

「何か良い方法を見つけたの?」

「えっと……」


 私は、退院してからリリアさんと一緒に寝るようになって、睡眠が若干改善された事を話す。


「う~ん、リラックス効果かな? 安心感、安堵感、包容力、色々考えられるけど、相性がいいって感じかな。でも、完全な改善じゃないから、そこは注意してね。今の状況下でも悪夢を見て、眠れなくなるようだったら、また受診してきてくれる?」

「分かりました」


 受診のために来たわけじゃないけど、アンジュさんは、軽く診察してくれた。


「それで、今日はどうしたの?」

「あの、キティさんのお見舞いに来たんですが……」

「お見舞い? じゃあ、こっちだよ」


 アンジュさんは、私を病院の一角にある受付に連れて行ってくれた。


「ここで手続きするの」

「ありがとうございます」


 受付で手続きを済ませるまで、アンジュさんは傍にいた。仕事は大丈夫なのかな。


「よし、じゃあ、案内するよ」

「え、良いんですか?」

「うん。今日は、これで非番の予定だったし」


 そう言って、アンジュさんが先に歩き出す。その後ろについて行く。


「キティさんの怪我は完全に癒えているんだ」

「そうなんですか!?」

「うん。最近、薬草が沢山搬入されてね。回復魔法の触媒に使える量や、そのまま薬に使える量が増えてね。キティさんの治療も途切れずに、ずっと続ける事が出来たんだ。報酬の悪さから、冒険者達が、全然引き受けてくれなかったのに、どうしたのかしらね」


 冒険者の中に、薬草採取の依頼を積極的に引き受けてくれている人がいるみたい。そのおかげで、キティさんの治療が進んだみたい。ここ最近、受付の仕事をしてないから、私には、よく分からないけど、冒険者の意識を変えるような何かがあったのかもしれない。


「ここが今、キティさんのいる病室よ」


 アンジュさんが案内してくれた場所は、集中治療室同様にガラス板で隔たれた部屋だった。そこには、集中治療室よりも深めの透明な浴槽が並んでいた。キティさんは、その中の一つに沈んでいる。浴槽内は、この前の薬液ではない、別の液体で満たされている。さらに、キティさんの身体には、何本かの管が繋がっていた。


「……大丈夫なんですか?」


 どう見ても大丈夫な状態じゃないので、アンジュさんに訊く。


「傷は癒えたけど、まだ意識の覚醒は遠いからね。栄養の補給のために、色々な装置を使わないといけないんだ。あれがないと、栄養失調で死んじゃうかもしれないからね。この前までは、治療優先。今は、栄養補給が優先っていう風に、部屋を使い分けているんだ」

「そう……なんですか……」


 傷が癒えたからって、安心することは出来ないみたいだ。浴槽の液体と管から、身体に栄養を送り込んでいるらしい。詳しい仕組みは分からないけど、あれで、キティさんに栄養が補給されるのはすごいと思う。


「今のところ、すぐに状態が変化するって事はないから。悪い方向にも、いい方向にも……」

「……そう……ですか」


 私は、ガラス板に張り付いて、ジッとキティさんを見つめていた。服から延びている腕や脚には、前まであったであろう傷が一切ない。傷は、本当に癒えているみたい。でも、意識はないまま……


「キティさん……」

「アイリスちゃん、これを使って」


 いつの間にか、私から離れていたアンジュさんが、椅子を持ってきてくれた。


「そこの部屋にいるから、帰るときに呼んで」

「えっ? でも、今日はもう非番なんじゃ……」

「全然平気だよ。せっかく、お見舞いに来てくれたんだから、気の済むまで一緒にいてあげて。その方が意識の覚醒も早まるかもだから。人の祈りは時に、医療を凌駕するものになるかもしれないからね」

「分かりました。ありがとうございます」


 私は、アンジュさんのご厚意に甘えて、椅子を使わせてもらうことにした。今にも目が覚めないかと祈りながら……

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