同居
私が目を開けると、窓から差し込む光が赤くなっていた。いつの間にか、夕方になっていたみたいだ。
「あれ? 私、悪夢を見なかった?」
悪夢を見た記憶がない。いつもかいていた寝汗もないので、間違いないことだと思う。だから、久しぶりにしっかりと眠ることが出来たみたいだ。若干寝ぼけながらそう考えていると、私の左手に温もりがあることに気が付く。
「リリアさん?」
私の手を握っていたのは、リリアさんだ。そういえば、寝る前にリリアさんにお願いして、手を握ってもらったんだった。寝る前と違うのは、リリアさんもベットに身体を預けて眠っていることだ。
「そりゃ、私がこれだけ眠ってたら、リリアさんも眠くなるよね」
私が倒れたのが、お昼近くだったから、それから今まで、私の傍にいてくれたんだ。でも、ずっと寝てもらっているわけにもいかない。この時間なら、もう終業時間になるはずだから、家に帰らないといけないからだ。私は、右手を伸ばしてリリアさんの肩に手を掛け、揺らした。
「リリアさん、リリアさん」
名前を呼びながら揺すると、リリアさんがうめきながら目を覚ました。
「うぅ……ん? アイリスちゃん?」
「はい。すみません、ご迷惑をお掛けして」
「ううん……ちゃんと眠れた……?」
「おかげさまで、ぐっすりと寝られました」
「よかった……」
リリアさんは、会話をしている内に、段々と意識が覚醒していった。
「あっ! アイリスちゃんが起きたら、呼んでって言われてたんだった! ちょっと待っててね!」
左手からリリアさんの温もりが消える。
「あっ……」
思わず手を伸ばしてしまうけど、リリアさんは気が付かずに、部屋を出て行ってしまった。いきなり温もりが消えた事で、少し寂しさがあった。でも、ずっと握っていてもらうわけにもいかないんだから、我慢しないと。
ベッドの上で身体を起こして待っていると、リリアさんが、カルメアさんを連れてきた。
「起きたみたいね。体調は大丈夫?」
「少しマシになりました。ご迷惑お掛けして、すみません……」
「よかったわ。そんなに気にしなくて良いわよ。元々、疲れたら休んでいいって伝えてあったでしょ?」
カルメアさんは、椅子に座りながらそう言った。
「今回は、二人に少し話があるの」
「話、ですか?」
私とリリアさんに話っていうことは、新しい業務とかかな。そんな事を考えていると、カルメアさんが口を開く。
「二人とも、同居しなさい」
「「…………」」
カルメアさんは、いきなりすごい事を言い出した。私の頭の中は真っ白になっている。多分だけど、リリアさんも同じだと思う。
「ちゃんと理由はあるわよ」
カルメアさんは、混乱している私達に構わずに話を続ける。
「理由は、アイリスよ」
「え?」
何を言っているんだろうと思ったけど、すぐにどういうことか分かった。
「私の睡眠ですか?」
「そういうことよ。リリアの手を握っている間、アイリスは快眠出来ていたでしょ? 逆にリリアの手を握っていないときは、すごく魘されていたわ。このままだと、これからの仕事に差し障るでしょ? こちらとしても、二人が一緒にいれば大丈夫だっていうのなら、その方が助かるのよ」
カルメアさんの言っている事は正しいと思う。もしも、リリアさんが一緒に寝てくれるなら、快眠出来ると思う。でも、それには、リリアさんの同意が必要になる。必然的に、私達の視線がリリアさんに注がれた。
「あっ、良いですよ」
リリアさんは、あっさり承諾した。
「えっ!? いいんですか!?」
「うん、いいよ。困ったときはお互い様だよ」
「じゃあ、アイリスをお願いね。明日からの業務は、今日と同じ資料室整理を二人にやってもらうから、そのつもりでいて」
「「はい!」」
伝えたいことが無くなったからか、カルメアさんは、部屋から出て行った。つまり、私達二人だけになったって事だ。
「じゃあ、勤務時間も終わったみたいだし、帰ろうか」
「はい」
「一度家に寄ってから、アイリスちゃんの家に向かうって感じでいい?」
「はい。大丈夫です。でも、本当にいいんですか?」
やっぱり迷惑じゃ無いかと思って何度も確認してしまう。
「大丈夫だって。私もアイリスちゃんのこと心配なんだよ。私が一緒に寝るだけでも楽になるなら、いくらでも寝てあげるよ!」
リリアさんは胸を張ってそう言った。
「私は、アイリスちゃんよりもお姉さんなんだから、もっと甘えていいんだからね!」
優しく微笑みながらそう言ってくれた。
「じゃあ、行こう」
「はい」
私とリリアさんは、一度リリアさんの家に寄って、着替えなどの生活必需品を取ってきてから、私の家に向かった。
「ここが、アイリスちゃんの家なんだ」
「はい。どうぞ」
「お邪魔します」
家に入ると、リリアさんは、キョロキョロと見回していた。
「家の中は何も無いですよ?」
「あっ、ごめんね」
「大丈夫ですよ。えっと、そっちが洗面所で、その奥がお風呂です。こっちが、トイレで、そっちが寝室です」
リリアさんに部屋割りを説明しながらリビングに進んで行く。
「ここがリビングです」
「広い家だね」
「そうですね。元々、一世帯で住む用の家なので。じゃあ、夜ご飯作るので、ゆっくりしていてください」
「私も手伝うよ」
「いえ、リリアさんは、お客さんなので、ゆっくりしていてください」
私はエプロンを着けて、夜ご飯を作り始める。今日作るのは、簡単にトマトソースのパスタだ。
「わぁ、美味しそう!」
「簡単なもので、申し訳ないですけど」
「ううん、全然大丈夫だよ。じゃあ、いただきます!」
「いただきます」
夜ご飯を食べ終わった後は、私が洗い物をしている内に、リリアさんにお風呂に入ってもらった。
「ふぅ、気持ちよかったよ」
「よかったです。じゃあ、私も入ってきますね」
「うん」
手早く、でも丁寧に身体を洗ってから、リビングに戻る。
「もう寝る? 昼間に寝てたから、まだ大丈夫?」
「いえ、実は、もう既に眠いです」
正直な話、目が覚めてからもずっと眠い状態は続いてた。だから、今すぐにでも寝れるはず。一人じゃ無ければ……
「じゃあ、寝ようか」
「はい」
私達は、一緒に寝室に入った。
「このベッドでかいね」
「元々両親が使っていたものです。私のベットは小さくなってしまったので、こっちを使ってるんです」
「そうなんだ。でも、こっちの方が都合が良いよね」
「はい」
私達は、同じベッドに入った。
「手を繋げば大丈夫なんだよね?」
「多分……」
「じゃあ、繋いで寝てみよう」
「はい」
リリアさんの指が私の指に絡まる。
「大丈夫。私が一緒にいるから。安心して寝ていいよ」
「ありがとう……ございます……」
昼間と同じように、すぐに睡魔に襲われて、意識を手放した。
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