眠っている間
アイリスが仮眠室で眠りについている時、ギルドマスターの部屋では、ガルシアとカルメアが話し合っていた。
「アイリスは、大丈夫そうか?」
「事前に、自分が寝そうだと気が付いたからか、急に倒れて地面に身体をぶつけるということはなかったみたいです。ただ、リリアが見つけた時から、すでに、魘されていたらしいです」
「そうか……あいつの不眠は寝れないというより、寝てもすぐに起きるだからな。今、寝ていても、すぐに起きてしまうだろう」
「そのことですが……」
カルメアは、少しホッとした顔になりながら、口を開く。
「今は、魘されることもなく、ぐっすりと眠っています」
「何!?」
ガルシアは、驚きのあまり、椅子から立ち上がった。
「どうしてだ!?」
「一応、アイリスを見守るために残しておいたリリアの手を握って眠った途端、すやすやと眠り続けています。私も確認しました。明らかに、睡眠の質が上がっています。魘されているということもないです」
ガルシアは、ゆっくりと椅子に座る。安堵からか、身体から力が抜けているようだ。ゆっくりと息を吐いてから、口を開く。
「リリアに、そんなスキルはあったか?」
「……いえ、そのような申告は受けていません」
「つまり、スキルによるものじゃないということだな。何が原因なんだ?」
「恐らくですが、安心感が大きいかと」
「安心感か……今のアイリスには必要なものだろうな。はぁ~……俺は無力だな……こんな時に、当たり障りのない対処しか出来ない」
ガルシアは、身体を前掲させて膝で身体を支え、頭を抑える。少し疲れたような顔になっていた。
「そんな事はないと思います。アイリスも、休み休み仕事をしてもいいといわれて、少しくらいは安心したと思いますよ」
「今回の原因は、俺にもあるからな」
アイリスとキティに、平原と森の調査を頼んだのは、ガルシアだ。間接的になら、ガルシアが原因だと言えなくもない。そのことで、ガルシアは、責任を感じていた。
「考えすぎです。今回の出来事は、誰にも予測なんて出来ませんでした。不幸な事故が重なっているだけです」
「不幸な事故……か……そうだと良いんだがな……」
ガルシアが意味深い事を言うが、最後の言葉は、カルメアには聞こえなかった。ガルシアは、一度頭を振って、思考を切り替える。
「しばらくの間、アイリスとリリアを同居させる事は可能か?」
ガルシアは、リリアのおかげで、アイリスが悪夢を見なくなる事を知ったので、二人を同居させる事で、解決出来ないかと考えた。
「そればかりは、私の判断では難しいです。後ほど、二人に提案しておきましょう」
「頼んだ。アイリスが安心して眠れるなら、それにこしたことは無いからな。アイリスの問題が改善出来れば、後は、キティだな」
「アンジュ医師によれば、傷自体は、今日明日にも完治するらしいですが、未だに目覚めの兆候はないとのことです」
「そうか……」
ガルシアもカルメアも、アイリスの問題が改善しそうなことは喜ばしいが、キティの目覚めの兆候がないことで、素直に喜ぶことが出来ずにいる。
「それと、これが、獣人族特有のものの場合、自分にはどうしようもないとも言っていました」
「この街にいる獣人族はキティだけだからな。あいつが、あんな重傷を負う事なんてなかったから、仕方ないだろう。あいつも、ようやく受け入れられ始めていたのに……」
ガルシアは、目に見えて落ち込んでいく。この街でキティが活動していた当初は、周りの住人達から白い目で見られていた。キティは、それを気にして、仕事がない日は、家に引きこもるようになった。最近は、キティがギルドに貢献していることを知って、街の人達の見る眼が変わってきていたのだ。
「そもそも、新人に調査任務を任せるのが間違っていたのかもな……あれがなければ、キティもアイリスも傷付くことはなかったはずだ……」
ガルシアは、自分の浅慮を恥じていた。自分のせいではないと言われていても、やはり、自分の考えが足りなかったのだと、自責の念を抱いてしまうのだ。
「あの子達じゃなければ、別の職員が怪我をしていました。いえ、最悪死んでいたかもしれません。あの子達だからこそ、生きて帰って来られたとも言えます」
「そうだな……くそ! 何でこんなことに!」
ガルシアは、さっきアイリスと話していたときとは違い、自身を責め続けている。アイリスがいる場面では決して見せないような姿だ。
「前からお訊きしようと思っていたのですが」
「何だ?」
「アイリスとは、何か関係があるのですか?」
「…………」
カルメアの質問に、ガルシアは少し間黙り込む。ガルシアは、アイリスが関わることに関しては、必要以上に首を突っ込んでいるように見られていた。カルメアは、何か事情があると思っていても聞かないようにしていた。自分にそこまで突っ込む資格がないと考えていたからだ。
しかし、今のガルシアの状態を見て、突っ込まざるを得なくなっているのだ。
ガルシアは、黙ってもいられないと考え、口を開いた。
「アイリスとは、直接の関係はない。ただ、あいつの親は……」
一度、短く息を吸う。
「俺の親友達だったんだ」
「それをアイリスは?」
「知らない。あいつらが結婚して、子供が出来た事は知っているが、それだけだった。新人の書類を見たときには、驚いたものだ。あいつらと同じ家名をしていたんだからな」
「そうですか。なら、納得です」
カルメアは、そう言うと椅子から立ち上がった。親友の娘というならば、少し過保護になってもおかしくないと思ったのだ。
「では、アイリスの様子を確認しつつ、業務に戻ります」
「ああ、頼んだ」
ガルシアもカルメア同様に業務に戻っていった。
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仮眠室にカルメアが寄ると、リリアが気が付いた。
「どう?」
カルメアは、声を抑えてそう訊く。
「今のところ大丈夫です。さっき魘されていたのが嘘のように、眠っています」
リリアの言うとおり、アイリスは、すやすやと寝息を立てて眠っていた。
「そう、よかったわ。アイリスが起きたら、二人に話があるから、私を呼びに来てくれる?」
「分かりました」
そう言って、カルメアは部屋を出て行った。安堵のため息を吐きながら……
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