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最強のギルド職員は平和に暮らしたい  作者: 月輪林檎
第一章 ギルド職員になった

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復帰

 眠れない日々と機能回復訓練が続く中、私は、ようやくキティさんのいる集中治療室へ行く事が許された。何度もお願いした甲斐があった。多分、私の精神状態を考えて、禁止していたんだと思う。


 正直なところ、すごく怖い。あの悪夢のせいだけじゃない。目が覚めないキティさんを認識してしまうことが怖い……


「ここが、キティさんがいる集中治療室だよ。中には入れないけど、ここからならお見舞い出来るから」


 アンジュさんは、そう言って、集中治療室の横に付けられているガラス板の前に案内する。そこから、集中治療室を覗けるようになっていた。お見舞いにくる人達のために付けられているんだと思う。


「キティさん……」


 私は、そのガラスに飛びつく。集中治療室の中には、浴槽のようなベットが並んでいた。その中の一つに、包帯をぐるぐる巻きにし、薬液に身体を沈めているキティさんの姿があった。


「…………」


 何度か声を発そうと口を動かす。しかし、何も声にならない。生きている事への安堵の言葉。置いて逃げてしまった事への謝罪の言葉。自分を助けようとしてくれた事への感謝の言葉。言いたいことはいくつもある。でも、どれも言葉にならなかった。


「…………」


 ただただ、私の眼から涙がこぼれ落ちていく。膝に力が入らなくなり、床に座り込む。私は、少し間、ずっと泣き続けた。アンジュさんは、そんな私を、何も言わずに見守ってくれていた。


 ────────────────────────


 それから、一週間の時が流れた。機能回復訓練も終えて、私は元通りに動けるようになった。元々、スキルによる影響が強かっただけで、足に大怪我を負ったわけじゃないから、そこまで苦労する事はなかった。


 退院許可が出たため、昨日の朝に退院した。


 カルメアさんに相談した結果、今日からギルド職員として復帰する事になった。ギルドに着くと、仕事をする前に、ガルシアさんのいるギルドマスターの部屋まで来るように言われた。


「失礼します」


 そう言って中に入ると、ガルシアさんが応対用のテーブルに着いて待っていた。


「おう、座ってくれ」


 そう言われて、私もソファに腰を下ろす。


「正直、あまり思い出したくないだろうが、調査の時の事を教えてくれ。一応、アイリスの証言も必要でな」


 ガルシアさんは、私のお見舞いに来ていない。あの後、色々な対応に追われていて、そんな暇がなかったみたいだ。


「はい。まず、平原での調査の時ですが、キティさんと一緒に奥の方まで行きました。途中で、一度だけ魔物に遭遇しただけで、最近のものの痕跡も見付かりませんでした。キティさんは、早々に異変に気が付いて、調査を急ぐことになりました」


 取りあえず、一日目の説明をすると、ガルシアさんは、頷きながら聞いていた。


「次の日は、森の中の調査を進めました。道中、魔物の痕跡が全く見付からず、そのまま奥まで進んで行きました。そこで、ジェノサイドベアの痕跡を発見し、キティさんが、すぐに街に戻る判断をしました。その後、二頭のジェノサイドベアに挟み撃ちにされ、キティさんが私を逃がしてくれました。逃げている途中で、冒険者に遭遇した私は、救援を頼んで、キティさんの元に戻りました。何とか、ジェノサイドベアを倒した後は、ご存じの通りです」

「そうか。報告された事に繋がるな。今回の事態の原因だが、未だに理由が判明していない。そもそも、増えているという報告を受けた魔物の数が、実は減っていたということがおかしいんだがな」


 未だに、ジェノサイドベアが二頭現れた原因は分かっていないらしい。この感じだと、偶々ということになりそうだ。


「分かった事といえば、魔物が増えているという報告をしたのが、流れの冒険者だったことくらいだ」

「それは、このギルドに所属しているのではなく、様々なギルドを転々としている冒険者ということですか?」

「ああ」


 ガルシアさんは重々しく頷いた。冒険者の中には、一つのギルドに籍を置かず、色々なギルドに顔を出している人もいる。自分に合った依頼を探す人は、そういうことをしている事が多い。


「話を聞こうにも、既にこの街にいないときている。そいつらの名前は分かっているからな。他のギルドにも捜索を頼んでいる。今回のような嘘の報告をすることは、悪質だからな。冒険者としての資格を剥奪することも考えないといけない」

「そうなんですか。こういう嘘の報告って、多いんですか?」


 少し気になったので訊いてみた。


「いや、冒険者資格を剥奪されれば、ギルドの使用が出来ないからな。きちんと報告する奴の方が多い。ただ、やる奴はやるからな。もっとも信用出来るギルド職員に確認のための調査を頼むことになるんだ。過去には、嘘の報告をして、街一つが壊滅しかけたこともある」

「なるほど……」


 虚偽の報告で、ギルドや街を混乱させる事は、偶にあるみたい。あまり利点がないとのことだけど、何でそんな事をするのだろうか。その人を見つけないと、本心は分からない。


「何はともかく、報告は助かった。今日からの仕事についてなんだが、基本的に裏での仕事を中心に頼む。カルメアにもそう伝えておいた」


 てっきり受付の仕事をすると思っていたので、少しだけ驚いた。


「裏っていうと、依頼書の複写ですか?」

「いや、別の仕事だ。少し、面倒くさいことなんだが、正直、今のアイリスに受付は任せられない」

「えっ? どうしてですか?」


 言われた事がよく分からず、聞き返す。


「自分の顔を鏡で見てみろ。寝られていないんだろう? 目の隈が酷いぞ。そんな奴が受付に立っていたら、冒険者どもが心配するだろう。互いに、仕事にならなくなるかもしれない」


 そう説明を受けて、納得する。今の私は、目の下に濃い隈を作っている。アンジュさんからは、睡眠薬をもらっているけど、それで眠っても、すぐに眼を覚ましてしまう。あの悪夢のせいだ。


「眠くなったら、仮眠室で眠ってくれて構わない。自分の体調を優先してくれ。他の職員にも伝えてあるから、そこは気にするな」

「分かりました。配慮してもらってありがとうございます」


 こっちの都合でしかないのに、そこまで配慮して貰えるとは思わなかった。これには、本当に感謝しないと。


「ああ、じゃあ、カルメアと合流して、仕事に移ってくれ」

「はい」


 私は、ギルドマスターの部屋を出て一階にいるカルメアさんの元に向かった。

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