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最強のギルド職員は平和に暮らしたい  作者: 月輪林檎
最終章 最強のギルド職員は平和に暮らしたい

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夢の中の戦闘

更新が遅くなってすみません!!

 飛びかかってきた魔王から避けるために、私は横に飛んだ。


「呪いで殺せないからって、私をここで殺そうって事!?」

「どうだろうな!!」


 魔王が打ち付けた箇所から衝撃波が生じた。私は、その衝撃波を踏ん張ることで耐える。そこに魔王が接近してきた。そして、拳を固く握って、私のお腹目掛けて振ってきた。

 私は、ギリギリのところで手を割り込ませて、受け止めた。


「!?」


 たったそれだけのことなのに、魔王は目を見開いて驚いていた。急に動きが止まった魔王の股間に目掛けて蹴りを放つ。魔王は命中する直前に我に返り飛び退いていった。

 迷わず急所を狙われた魔王の顔は、少し青ざめていた。あと少し遅れていたら、確実に潰すことが出来たのに。


「ふっ!」


 魔王は改めて私に突っ込んでくる。今度は左右の拳だけでなく、脚も織り交ぜた攻撃をしてきた。私は、その悉くを捌き、避けていった。


(攻撃が速い……でも、サハギン・トレントと同じくらいだ。仮にも魔王が、この程度ってなんか違和感があるかも)


 そんな私の考えを読んだのか。突然、魔王の攻撃の速度が上がった。魔王の拳が、私の胸に伸びる。私は、何とか反応して腕を交差させて攻撃を受ける。私の身体は、そこから十メートル以上吹き飛ばされていった。地面を跳ねながら転がる事で、勢いを殺して、素早く立ち上がる。

 そんな私の目の前に魔王の脚が現れる。吹き飛んだ私を、即座に追って追撃をしてきたのだ。私は、その攻撃に合わせて、身体を真後ろに倒す。魔王の蹴りは、私の鼻先を掠めていった。

 ギリギリで避けた私に、また魔王の拳が迫る。


「『陽炎』!」


 魔王の拳は、揺らめく私の影に向かって振われ、私はその場から退くことが出来た。正直、【剣舞】の(アーツ)が使えるかどうかは、かなり賭けだったけど、上手くいって良かった。

 魔王の攻撃を避けた私は、今度は自分から仕掛ける。


「『爆打』!」


 私の拳が、魔王の手に触れた瞬間、そこを中心として小規模の爆発が起こる。そして、その衝撃は魔王にのみ響く。だけど、魔王は少しだけ押し込まれるだけで、大きなダメージを負っているようには見えなかった。

 私は、すかさず追撃を掛ける。


「『衝打』!」


 私の攻撃を、魔王は手のひらで受け止める。そこから衝撃が駆け抜けていき、魔王は後ろに吹っ飛んでいった。それを見て、私は先程と同じ事を考えていた。


(弱い……そこら辺の魔物とかに比べれば、遙かに強いけど、私がこれまで戦った強敵とほぼ同じくらいの強さしかない。本当に、これが魔王なの?)


 私の表情から考えを読み取ったのか。魔王がにやりと笑った。


「我が弱いと考えているな」

「…………」


 実際その通りなので、特に何かを言い返すことは出来なかった。


「貴様の考えは正しい。今の我は、お前よりも弱い。だが、それは、我が貴様を舐めすぎていたからだ」

「…………」


 今度は何を言っているのかうまく理解出来ず何も言えなかった。


「勇者との戦いに備えていたが、恐らく貴様は勇者より強い。こっちを優先することにする」

「は?」


 魔王の発言を訝しんでいると、突然私の身体が宙を舞った。


「!?」


 そのすぐ後に、私のお腹に鋭く鈍い痛みが走る。痛みを感じた直後、受け身を取ることも出来ずに地面に衝突した。


「げほっ! ごほっ!」


 私は、お腹を押えながら咳き込む。すると、口から血が垂れていった。


(まさか、夢の中で血を吐くことになるとは思わなかった……てか、動き変わりすぎでしょ……)


 私は、嫌な予感だけで横に転がった。さっきまで私がいた場所に、魔王の拳がめり込む。私はすぐにその場から離れる。一旦落ち着けるかとも思ったけど、また嫌な予感がして、身体を右側に傾ける。

 私の頬すれすれを拳が通っていき、その速度で私の頬が切れる。


(まずい……今は偶々避けられているけど、絶対長くは続かない……せめて、雪白があれば……)


 今の私は、徒手空拳の状態だ。素手の最上位スキルは持っていない。剣か何かがあった方が、確実に動きは良くなるはずだ。そんな私の正面に魔王が現れる。


「これで終わりだ」


 そう言う魔王の手には漆黒の剣が握られていた。魔王だけは何でも有りみたいだ。こいつが生み出した悪夢だからだろうか。このままだと、為す術もなく死ぬしかない。


「そんなの巫山戯るな!!」


 振り下ろしてくる魔王の剣を防ぐために、手を伸ばす。すると、急に手の中に重みが生まれた。その直後、甲高い音が鳴り響いた。


「何っ!?」


 魔王が驚く声が聞こえる。

 私も目の前の事に驚いて声が出なかった。何故なら、剣を防ぐために伸ばした私の手に雪白が握られていたからだ。雪白は、魔王の持つ漆黒の剣を受け止めている。


「この感じ……本物だ! 『グロウ』!」


 雪白に白い光が纏わり付く。そして、魔王の剣を弾いて、魔王に斬り掛かる。魔王は、後ろにステップを踏むことで避けた。


「どうなっている……貴様が剣を身に着けでもしていない限り、こっちに持ってくる事など出来ないはずだ」


 魔王のその言葉で、私は何故雪白がこっちに来たのかが分かった。リリアさんかキティさんが、私が眠っているベッドに置いてくれたんだ。


「絶対に帰るんだ。二人の元に!」

「ちっ! 剣を持ったぐらいで調子に乗るな!!」


 魔王がまた目にも留まらない速度で動く。そして、私の首を刎ねようと剣を振った。その攻撃は、私の雪白で防いだ。その次の攻撃も、さらにその次の攻撃も、私は全部防いでいった。


「貴様、見えているのか!?」

「見えてないけど。今の私なら、感覚で読める」


 攻撃を弾いた私は、魔王が通るであろう場所に雪白を振り下ろす。


「!?」


 そこまで読まれると思っていなかったのか。魔王は慌てて剣で防いでいた。


「『グロウ・インパクト』」


 続いて振った雪白を防いだ魔王の剣を中心に白い爆発が起こる。


「くっ!」


 この攻撃でも魔王の身体には傷一つ付かない。でも、目眩ましにはなった。その間に、雪白が眩い光を放つ。私が戦った最大の強敵であるサハギン・トレントを屠った一撃。


「『グローリアス・シャイン』!!」


 水平方向に雪白を振う。放たれた斬撃を、魔王は漆黒の剣で受けていた。


「ぐぐぐ……」


 今までの攻撃のように軽くいなすことは出来ないようで、魔王は押されていった。そこに追撃を掛けるべく踏み込む。そんな私に黒い奔流が襲い掛かってきた。


「!! 『グロウ・フィールド』!」


 私が張った半透明の白い半球と黒い奔流がぶつかる。領軍の魔法を防いだ(アーツ)なのだけど、この黒い奔流にぶつかった直後、いきなり罅が入った。


「うげっ! 『グロウ・フィールド』!!」


 私は、『グロウ・フィールド』の内側に、新たな『グロウ・フィールド』を張る。一枚目の『グロウ・フィールド』が割れ、二枚目の『グロウ・フィールド』とぶつかり合う。

 そこに上から魔王が突っ込んできた。黒い奔流がぶつかっている『グロウ・フィールド』に対して、漆黒の剣を振り下ろしてくる。その剣には、私の『グロウ』によく似た黒い光を纏っていた。

 『グロウ・フィールド』が壊されると判断した私は、その場から後ろ斜め上に向かって跳ぶ。その直後に、『グロウ・フィールド』が破られ、私の真下を黒い奔流が抜けていく。

 その奔流の中から、魔王が飛び出してきた。私に向かって振られる剣を雪白で受け止める。

 露わになった魔王の姿を見ると、多少傷付いていた。さすがに、『グローリアス・シャイン』を無傷で受けきる事は出来なかったのだ。

 白い光と黒い光は激しくぶつかり合って、火花のようなものを飛び散らせる。魔王の顔が近くにある。そこには、さっきまでの余裕めいたものが無くなっていた。


「くっ……『グロウ・スラッシュ』!」


 鍔迫り合いの状態から、(アーツ)を使って、無理矢理引き剥がした。その衝撃を利用して私も魔王から離れて地面に着地する。

 そしてすぐに魔王に向かって飛びかかる。


「『グロウ・ピアース』!」

「『ナイトメア・ピアース』」


 私の白い光を纏った雪白と麻黄の黒い光を纏った漆黒の剣の切っ先同士がぶつかる。私達の周囲が激しく明滅する。

 力が拮抗しているように思ったけど、少し私の方が押されている。


「きゃっ!」


 魔王の力に負けて、私は大きく吹き飛ばされてしまう。これが魔王の本気ということなのかもしれない。先程までと同じとは思わない方が良さそうだ。

 吹き飛ばされた私が着地するのと同時に、魔王が接近してきた。振われる漆黒の剣を雪白で受け流し続ける。先程よりも速度は速く無い。いや、多分、私の目と身体が慣れてきているんだと思う。そのおかげで、魔王の攻撃を何とかしのげていた。


「『ナイトメア・スラッシュ』」

「! 『グロウ・スラッシュ』!」


 また(アーツ)同士がぶつかり合う。そうしてぶつかり合った力が中心で破裂し、私と魔王との距離が開く。


「誇るが良い。今の貴様は、歴代の勇者に引けを取らない」

「あっそ……別に興味ないけど……」


 魔王は一切息を切らしていないのに、私は息も絶え絶えだった。


「それだけに惜しい。ここで貴様を屠らなければならないのだからな!」


 再び魔王との剣戟が始まる。上段から振られる漆黒の剣を弾いて、魔王に雪白を突き刺そうとする。それは、魔王が漆黒の剣で逸らされる。

 空いている方の魔王の手が私の首に伸ばされる。それは、脚を上に振り上げて狙いを外させた。そうして隙を見せた瞬間、魔王の首を狙って雪白を振る。もう少しで首に当たるというところで、漆黒の剣が阻む。


「『グロウ・インパクト』!」


 漆黒の剣に雪白が命中する直前に、(アーツ)を織り交ぜた。魔王の首元で白い爆発が起こったけど、魔王は無傷だった。


(やっぱり、普通の(アーツ)じゃ怪我すら負わせられない。でも、『グローリアス・シャイン』も『グランドクロス』も、もうそう簡単には命中しなさそう。魔王に明確な隙があれば……)


 そんな考え事に気を取られてしまったせいで、次に振われた魔王の一撃への反応が遅れてしまった。漆黒の剣が、私の頭に迫っていた。私はギリギリで雪白を間に割り込ませる事が出来た。だけど、しっかりと受け止める事は出来ず、そのまま吹き飛ばされた。

 受け身を取る事も出来ず、地面に打ち付けられる。


「うぐっ……」


 すぐに身体を起こそうとする私の目の前に魔王が立つ。


「さらばだ」


 漆黒の剣が振り下ろされる。

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