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最強のギルド職員は平和に暮らしたい  作者: 月輪林檎
最終章 最強のギルド職員は平和に暮らしたい

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魔王襲来

 地竜を倒した事を確認し終えたガルシア達は、マイン達と合流する。先程合流したドルトルと同じようにマインの怪我に顔を曇らせた。


「マイン。怪我の具合は?」

「痛みが酷いけど、まだ戦える」


 マインは、まっすぐライネルを見てそう言った。


「そうか。その心意気は買うが、一旦後ろに退け。ここからは、殿下達と合流しての行動になる。マインが抜けてもギリギリ問題無いだろう」


 そう言いながら、ライネルは視線でガルシアに確認を取る。視線を受けたガルシアは、頷くことでその意思を示した。


「分かった」


 マインは頷いて、ミリーや美夏萌達が残る救護テントがある方へと歩き始める。その瞬間、ガルシア達の背後で轟音がした。


「!?」


 ガルシア達は一斉に音の方向を振り返る。そこには、浅黒い肌をした男が立っていた。


「ふむ……お前だな」


 男は、まっすぐ宗近を見てそう言った。ただ見られたというだけで、宗近は、冷や汗を掻く。


「お、お前……もしかして魔王か!?」


 宗近の言葉に、男はにやりと笑う。


「ああ。そうだ。我が名はイブスフリール。お前達が魔王と呼ぶ存在だ」


 魔王は不敵に笑いながらそう言うと、宗近目掛けて突っ込んできた。魔王は、漆黒の剣を上段から振り下ろす。


「!!」


 宗近は何とかその攻撃を受け止める。魔王の力と宗近の力は拮抗していた。


「く……!!」

「ふむ。貴様、【聖剣】のスキルは持っていても、聖剣そのものは所持していないようだな」

「な……に……を……!?」

「ふん!」


 宗近と魔王の鍔迫り合いにガルシアが割り込む。斜め上方から振られた大剣が魔王に迫る。


「甘いわ!!」


 魔王は、宗近を弾き飛ばし、ガルシアの大剣を受け流す。そして、そのまま身体を回転させて、ガルシアの腹に蹴りを打ち込む。


「ぐおっ……!」


 ガルシアは、そのまま十メートル以上も吹き飛んだ。その反対側からライネルと愛羅が、魔王に襲い掛かる。ライネルの大斧と愛羅の剣が同時に魔王に向かって振られる。魔王は、高速で腕を動かすことで、片方ずつ対処して、大きな隙を見せた二人の内、愛羅の方に剣を振るう。


「愛羅!」


 その間に割り込んだ宗近が剣を受け止める。魔王の剣は、愛羅の首に触れるか触れないかのところで止まった。一歩でも遅れていれば、その時点で愛羅の首は胴体と離ればなれになっていただろう。


「先輩!」


 千晶が宗近に声を掛ける。その直後に青い炎が魔王に向かって飛んでいった。魔王は左側から飛んでくるそれを一瞥してから、左足に力を込めた。すると、足元の影が蠢き、形を変えて青い炎を貫いた。『インフェルノ』の効果は指定した対象を焼き尽くす事。指定された対象は魔王だ。広義的に解釈すれば、影も魔王の一部と考えられる。そのため、魔王は青い炎に包まれる事になる。

 先程の戦闘で魔力を消耗している千晶では、『インフェルノ』の効果時間は短い。この間にトドメを刺そうと、宗近、ガルシア、ライネルが同時に斬り掛かる。

 地竜も苦しんだ『インフェルノ』なら、魔王も多少手こずるだろうと考えたのだ。だが、この考えは甘かった。炎に包まれた魔王は、腕を軽く振うと、『インフェルノ』が消え去る。


「思った以上に強いな。影で打ち消せるかと思ったのだが」


 魔王は面白そうに笑って千晶を見る。その魔王の死角から、クロウが襲い掛かる。既に『アクミュレーション』を発動させている状態だ。

 気配を消したクロウの攻撃も魔王は、即座に反応する。剣でクロウの剣を次々に受け止める。ただ、それでは『アクミュレーション』の効果の範囲内だった。どんどんと重くなってくる攻撃に魔王も少し驚いていた。


「珍しい(アーツ)を使うな。だが、いつまで振り続けられる?」

「うるさい!」


 次々に重くなっていく攻撃を魔王は軽く受け流していった。そうして二十連撃目に入る。


「ぐっ……」


 『アクミュレーション』の限界に達してしまったクロウは、剣の重みに顔を顰める。しかし、そこで動きを止めることも剣を取り落とすこともせずに、そのまま振り続けた。速度は落ちてしまっているが、何とか振う事が出来ていた。


「ここが限界か」


 攻撃速度が低下した事で、普通に対応出来るようになった魔王は、つまらなさそうにクロウの右腕を肩から斬り落とす。


「えっ……うっぐああああああああああああああああ!!!!」


 腕を落とされたクロウは、一瞬何が起こったのか分からない表情で右肩を見た。そして、後から襲い掛かってきた痛みで絶叫した。魔王は、そんなクロウにトドメを刺そうとする。


「貴様アアアアアアアアアアア!!!!」


 怒りで鬼のような形相になった宗近が、魔王とクロウの間に割り込んだ。怒りを込めた宗近の一撃は、魔王を少し押し込むことが出来た。その間に愛羅がクロウを担ぐ。そして、急いで救護テントへと向かって行った。愛桜自身、自分が一番いてもいなくても同じだと自覚しているので、自分から行動したのだ。


「ドルトル! 後衛を死守しろ! ライネル、一瞬も油断するなよ!」

「わ、分かりました!」

「ああ!」


 その間にも宗近と魔王は、何度も何度も剣を交えていた。いや、正確には、宗近の攻撃を魔王が軽く受け流し続けているだけだ。魔王の方には、まだ余裕があるようだ。


「この……『セイクリッド・スラッシュ』!」


 宗近の青白い光を纏った一撃が、魔王の剣とぶつかる。さすがに(アーツ)を使われると、魔王も簡単に受け流すことは出来なかった。だが、それでも魔王に攻撃を当てる事は叶わず、僅かに後退させる事しか出来なかった。


(くっ……何でこっちの攻撃が通用しないんだ……! 俺は勇者のはずだろう!)


 (アーツ)を使っても傷一つ負わせられない状況に、宗近は焦りを覚える。魔王を倒すための存在として召喚されたはずなのに、こうして魔王と対峙しても何も出来ない。焦りを覚えるのも無理は無いだろう。

 そんな焦りで前のめりになっている宗近に、体勢を立て直した魔王が斬り掛かる。それを受け止めようとする宗近の前にガルシアが割り込んで、大剣で弾く。


「『バスターブレード』!」


 赤い光を纏った大剣を魔王目掛けて振う。大剣の重量もあって、受け止めた魔王の足元が陥没する。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 ガルシアは、更に力を込めて魔王を叩き潰そうとする。魔王は、少し顔を顰めながらガルシアの攻撃を受け止めていた。


「チッ……」


 魔王は、『インフェルノ』を受け止めた時の様に影を動かす。その予兆を見たガルシアは、すぐにその場から飛び退く。その魔王の背後からライネルが斧を振り降ろす。


「『クレセント・インパクト』!」


 ライネルの(アーツ)を、魔王は横に跳んで避ける。ライネルの斧が命中した場所が、楕円状に陥没する。そうして避けた魔王に向かって、炎の槍や氷の槍、雷の槍、岩の槍などが飛んでくる。

 魔王は、その全てを剣だけで捌いていった。


「力が段違い過ぎる……」


 この戦いを間近で見ていたドルトルは、自分達と魔王との間に存在する力の差を感じていた。この状況で自分が戦闘に加わったとしても、先程のクロウのようになってしまうと直感で分かってしまった。その恐怖が身体の震えとして現れている。


「ドルトル、大丈夫?」

「あ、ああ……」


 身体が震えているドルトルにマインが声を掛ける。そんな中でもマインの視線はガルシア達の戦いを見ている。いつでも援護が出来るようにしているのだ。


「もし恐怖で今すぐに逃げ出したいのなら、すぐに後退して良いけど。千晶は私が全力で守るから。どうする?」


 マインは、決して同情だけでドルトルにそう言っているのではない。自分達の盾となるべくここにいるドルトルが恐怖で動けなくなっていると、自分達の身も危なくなるからだ。それなら、ドルトルを後方に帰して、自分で自分の身と千晶を守る方がマシなのだ。

 ドルトルは、マインのその考えも理解して、唇を噛んだ。マインにこんなことを言わせてしまった。それがどうしようもなく悔しいのだ。


「いや! 僕もここに残る。皆を守るのが、僕の役目だったから」

「そう。なら、気合いを入れなさい」

「ああ!」


 ドルトルは、改めて気合いを入れる。恐怖は消えていないが、マインの言葉のおかげで、それでも勇気を振り絞る事が出来た。ここにいる全員が覚悟を決めた。

 魔王との戦いは、どんどんと激化していく。

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