宗近の一撃
マイン達の元に向かったドルトルは、血だらけのマインを見つけ、顔を青くさせた。
「だ、大丈夫!?」
「大丈夫じゃない。でも、それは良いから。作戦は?」
マインは、怪我をした右腕を布でぐるぐる巻きにしながらそう訊いた。ここで、怪我がどうたらこうたらと話していても時間の無駄だからだ。
「皆が接近戦を仕掛けるって。僕は、かなり消耗しちゃって、前衛での盾が厳しい状態だから、後衛の護衛として来たんだ。ちゃんと守り抜けるかは分からないけど」
「そう。千晶。ここからは広範囲の魔法は控えた方がいいから。狙いは、相手の頭。特に眼を狙う感じで行って。ここからは、本当に補佐だけに集中。あいつの戦い方を見ていて気付いたけど、基本的に敵を目で追っている。だから、眼を無くせば、こっちを見失う可能性が高い」
「わ、分かりました!」
千晶は、地竜を見据えて返事をした。そして、ここからの戦いで使う魔法を頭の中で整理する。同じくマインも自分に出来る事を考えつつ、ガルシア達の動きを待っていた。
ガルシア達は、地竜に向かって走っていた。
「宗近の溜めには、どのくらい掛かる?」
「五分くらいで良い。今度こそ倒す!」
宗近は、鬼気迫る表情でそう言った。やる気は十分だ。
「宗近は準備が整うまで隠れていろ。そして、確実に当てろ」
「ああ」
ガルシア達と宗近は別れる。宗近は技を確実に当てるために潜伏するのだ。
「まずは脚を削る。攻撃の起点となる前からだ。覚悟は良いな!?」
ガルシアの言葉に、全員が頷く。
先行したのは、速さに秀でているクロウだった。
「『アクミュレーション』!」
そう唱えたクロウの剣二本に白いオーラが纏わり付く。
「うおおおおおおおおおお!! 『ダブル・スラッシュ』!」
直剣二本を平行に並べて、先程ガルシアが傷つけた箇所を斬りつける。技を使用していてもガルシアが付けた傷よりも浅い傷となってしまうが、クロウの本領はその手数だ。
「はあああああああああああああ!!」
クロウは、先程斬りつけた箇所じゃないところにも斬り掛かった。クロウが斬る度に、刻まれる傷は少しずつ深くなっていった。事前に付加した技の効果だ。攻撃を加える度に、その力を上昇させていく。ただし、その度に少しずつ剣が重くなる。クロウが耐えられる重さは大体二十撃目前後となる。
地竜は、自分の足元でうろちょろとするクロウに苛立ち、もう片方の脚をクロウに向かって叩きつける。クロウは、ギリギリでそれを避け、怪我を負っている方の脚を再び斬りつけ始める。
それと同時にライネルとガルシアが、怪我をしていない方の脚を左右から同時に斬った。二人とも【闘魂】を利用して身体能力を上げている。二人の攻撃を合わせれば、今の地竜の脚を斬り落とす事が出来るはずだったが、地竜も馬鹿ではなかった。より深い傷を負ってしまうであろうガルシアの攻撃のみを地面から小さな壁を作り出すことで軌道を強引に曲げていた。
「ちっ!」
「浅い……!」
地竜は、両前脚を上げて、勢いよく叩きつけようとする。その地竜の目付近に高速で飛んできた火球が命中する。目を失う事はなかったが、その攻撃でガルシア達を見失い、攻撃が見当違いの方向に叩きつけられる。
それでも衝撃が襲い掛かってくるが、ガルシア達はしっかりと踏ん張って耐えた。その叩きつけられた地竜の脚に、愛羅が飛びかかる。
「『パワー・ウェーブ』!」
愛羅が振った剣から、力の波動が打ち出され、ガルシアとクロウによってさらにボロボロにされた脚に命中する。
『ガアアアア!』
散々攻撃され続けたので、完全に脚が使い物にならなくなってしまった。そのため、地竜は三つの脚で身体を支えるしかなくなってしまった。
「全員、残りの前脚を叩くぞ!」
ガルシアの言葉を受け、全員がもう片方の脚に集中する。十撃目を叩き込んでいるクロウが、率先して削りに掛かる。『アクミュレーション』の効果を受けていても、一撃の重さはガルシアやライネルには劣る。だからこそ、自分が切り口を作るつもりなのだ。
だが、地竜は、残りの脚で後ろに跳躍した。そして、土の杭を生み出してガルシア達に飛ばしてくる。
「俺とライネルの後ろに回れ!」
ガルシアの指示に従って、クロウと愛羅がガルシアとライネルの後ろに移動する。ガルシアとライネルは、飛んでくる土の杭を全て打ち払う。膂力に優れ、大きな得物を素早く操れる二人だからこそ出来る芸当だ。
二人によって土の杭を迎撃した瞬間、クロウと愛羅が飛び出す。
「『ダブル・スラッシュ』!」
「『スラッシュ』!」
合計三回の剣撃が地竜の脚を襲う。だが、地竜はその攻撃を、土の壁を作り出して防いだ。そして、その壁を操りクロウと愛羅の腹をど突いた。
「ぐ……」
「うっ……」
そこにガルシアとライネルが突っ込む。ライネルが大斧を縦に振い、土の鎧を叩き割る。そこにガルシアが大剣を突き刺す。そして、勢いよく上方向に振り抜く。地竜の脚が縦に割れる。
地竜は苦悶の声を上げながら、再び土の杭でガルシア達を攻撃し、距離を取らせる。
「先程から杭だけだ。恐らく、もう龍を生み出す程の力は持っていないのだろう。その内、杭も打ち止めになるはずだ。畳みかけるぞ!」
『おう!』
ここから何度も同じ攻防を繰り返す事になる。クロウと愛羅が素早く攻撃を加えていき、ガルシアとライネルが大きな傷を与える。それを阻止するために、地竜が土の杭を使う。それをガルシアとライネルが防ぎ、またクロウと愛羅が攻撃を加える。時折、マインと千晶による嫌がらせが地竜を襲った。しかし、地竜が直前で気付いて、目への直撃を防いでいたので、目的である視界を奪う事は出来なかった。
これらが続いた結果、互いに消耗する事になった。だが、怪我の具合から、地竜の方が分が悪かった。集中的に攻撃を受けた片方の脚も使い物にならなくなってしまった。
地竜は前脚を使えなくなったため、前のめりになって伏せってしまう。ガルシア達は、この時を待ち望んでいた。
頭を地面に付けている地竜の元に、宗近が駆けていった。その手に握られている剣は、青白く光輝いていた。
地竜は迫ってくる宗近に気が付いて、土の杭を作り出そうとする。
『!?』
しかし、土の杭は地面に形を作ったところで止まった。先程までの攻防で消耗しすぎて、使う事が出来ないのだ。地竜は、最後の足掻きで使い物にならない脚も使って、その場から飛び退こうとする。
そこにマインと千晶による妨害が入る。顔面に炎魔法を受け、動きが止まる。その隙を見逃さず、宗近が近づく。その間にライネルが入り、最初の時と同じように斧で宗近を高々と打ち上げる。地竜の首が高い位置になってしまったので、ライネルが即座に対応したのだ。
宗近は地竜の首まで駆け上がる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!! 『サンクトゥス・グラディウス・ペアキュート』!!」
振われた剣は、吸い込まれる様に地竜の首に命中した。そして、一切抵抗なく地竜の首を刎ねた。
切断された首から大量の血が溢れ出る。首を失った地竜の身体は、力なく倒れた。その後も地竜の身体は一切動かない。地竜は完全に息絶えたのだった。
「はぁ……はぁ……」
ガルシア達は、勝利の喜びを感じていた。だが、それを表に出す事はなかった。全員が疲れていたためだ。それに、魔族との戦闘が終わったというわけではない。
こことは離れた場所で起こっているアルビオ達の戦いが残っている。まだ油断していい訳では無い。ガルシア達は周囲を警戒しつつ、マイン達の元に向かった。




