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最強のギルド職員は平和に暮らしたい  作者: 月輪林檎
最終章 最強のギルド職員は平和に暮らしたい

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ドラゴンとの戦い

 スルーニアから二時間程移動をするとキティ達は、魔族との交戦予定地へと辿り着いた。そこからでも遠くの方にこちらへと向かってくる巨大な存在が確認出来る。その見た目は、大きな蜥蜴だった。


「あれがドラゴン……」

「そうみたいだな。キティは、殿下の元に向かってくれ。馬で移動していたから、俺達よりも早く着いているはずだ。そっちの作戦は、殿下に任せる事になるからな」

「ん。わかった」


 キティはガルシアと別れて、アルビオの元に向かう。それを見送ったガルシアは、ライネル達がいる方へと向かう。


「俺達は、あそこに見えるドラゴンを相手するが、基本的には、宗近達を頼りにする事になる」


 ガルシアがまっすぐ宗近達を見ながらそう言うと、宗近達が力強く頷く。


「俺とライネル達は、そのサポートに徹する。ミリー達は後方で、他の衛生兵と行動してくれ」


 それを聞いたミリーと美夏萌が頷く。二人の戦闘能力はかなり低いので、ドラゴンや魔族の戦いの真っ只中にいると、余波で死ぬ可能性も出て来る。そのため、他の衛生兵達と同じように、戦場の後方で待機して、怪我人の治療に専念する。これは、先の戦いでもやっていた事だ。


「恐らく、対魔王戦前の最大の死闘になるだろう。気を引き締めて掛かるぞ」

『おう!!』


 一方では、キティがアルビオ達と合流していた。


「今回の戦闘での俺達の役割だが、ドラゴンと宗近達の戦いに、魔族達を干渉させない事だ。ドラゴンを完全に孤立させる事で、宗近達の戦いをなるべく有利に運べるようにする」


 アルビオの言葉に、魔族対処部隊の面々が緊張し始めていた。それも無理は無いだろう。自分達の働きが、そのまま人族の存亡に関わってくる可能性が高くなっているからだ。勇者である宗近が、ドラゴンなんかに負けてしまえば、魔王討伐など夢のまた夢となってしまう。


「ここが正念場だ。これを乗り切れば、しばらく余裕が出るかもしれない。相手も大きな戦力を失うわけだからな」


 ドラゴンという戦力を失うのは、向こうにとっても小さくない打撃だ。そのまま進軍を続行するという判断は下しにくいだろうとアルビオは考えていた。


「もうすぐ戦闘が始まる。全員戦場へと移動するぞ。衛生兵は、後方に救護テントを用意。負傷者の治療をしろ。戦場が後方にまで広がってくるようだったら、即時撤退。スルーニアに籠もれ」

『はっ!』


 アルビオ達は、戦場へと向かっていく。その中には、キティの姿もある。


(サリアの姿が見当たらない。こっちには呼ばれていないみたい)


 キティは、友人であるサリアがいないかと見回していたが、どこにも姿が見当たらなかった。つまり、この戦場に呼ばれてはいないという事だ。

 実際サリアを初めとした初心者冒険者などは、戦場に呼ばれずスルーニアの防衛を任されていた。この戦いについていくことが出来ないと判断されたからだ。


(それだけ危険な場所って事……)


 キティは、左の薬指に付けている指輪に触れる。この戦いに不安がないわけないのだ。


(いや、リリアとちゃんと帰る約束した。アイリスにだって会いたい。会って色々話して、ぎゅっと抱きしめて貰いたい……)


 そこまで考えて、キティは思わず笑ってしまう。


(私が、こんな事を考えるなんて……アイリスに出会うまで思いもしなかった……ガルシアは、ごちゃごちゃと言っていた気がするけど)


 キティは、アイリスによって良い意味で変わった。ガルシアでは教えられなかった誰かを愛するという事を与えられたからだ。それに誰かに愛されているという自覚も芽生えた。


(絶対に帰る!)


 キティは、改めて奮起した。


────────────────────────


 それから一時間後、戦いの火蓋が切られた。

 最初に戦闘となったのは、宗近達とドラゴンだった。魔族のドラゴンは、翼の生えていないドラゴン。正式名称地竜アークドラグニルと言う。言葉は喋らないが、魔王とだけ意思疎通が出来る。


『ガアアアアアアアアアア!!!!』


 地竜は、最前線に立つ宗近達目掛けて前脚を振り下ろす。ビルのような巨体から繰り出される一撃は、ただの振り下ろし攻撃でも致命的な攻撃になり得る。宗近達は、大きく飛び退くことで避けた。


「食らえ!!」


 攻撃直後の地竜に向かって、離れた場所にいたマインが巨大な炎の球を撃ち放つ。人からしたら、巨大な炎の球も地竜にとっては、拳大のものだった。それでも、それを顔に放たれればたまったものではない。地竜は、顔を仰け反らせて避ける。

 だが、それだけで地竜の狙いはマインに注がれる。


「マイン! この場から離れろ!」


 ライネルの指示で、マインは全力で戦場を離れる。それを追って、地竜も移動を開始した。

 これは、ガルシアが考えた策で、魔族との連携を断つための攻撃だ。近接攻撃で陽動するのは危険過ぎるので、遠距離攻撃が出来るマインが担当する事になったのだ。一応千晶でも出来ない事はないのだが、逃げる際に必要になる体力の面からマインが選ばれた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 マインの息が切れる頃には、地竜と魔族達の間にアルビオ達が割って入り、完全に分断に成功した。


「『凍える風・閉ざされる世界・凍てつく大地・氷雪の中に納棺されよ』!!」


 所定の位置に移動した地竜に対して、千晶は広域凍結魔法『アイスコフィン』を発動した。本来の効果であれば、対象を完全に凍り付かせる事が出来るのだが、地竜に対しては、四つの脚を凍結させて、地面に縫い付ける事しか出来なかった。


「マイン、ご苦労だった。千晶と一緒に後方に移動した後、援護を頼む」

「了解……」


 マインは、急いで呼吸を整えて、再び千晶と一緒に移動を開始した。マインに指示をしたガルシアは、ライネル達と地竜に向かっていく。


「宗近、ちまちまと脚を削っても仕方がない。凍った脚から胴体へと登る。だが、拘束出来る時間は短い」

「スピード勝負って事だな。分かった」


 地竜は、凍り付いた脚を引き抜こうと藻掻いている。宗近の言う通りスピード勝負となるだろう。ここで、ライネルは時間短縮を図る。


「乗れ!」


 ライネルは斧刃に宗近を乗せると、地竜の膝まで飛ばした。宗近は地竜の膝を足場にして、地竜の身体に駆け上がっていく。ライネルはクロウ、愛羅とどんどん地竜の膝まで飛ばしていった。ガルシアとドルトルに関しては、装備や体格の面で重すぎるので、ライネルには飛ばせなかった。

 最初に登った宗近は、即座に地竜の身体を斬りつけていた。だが、地竜の硬い表皮に阻まれて、深傷を負わせる事が出来ていなかった。通常の攻撃では刃が立たないようだ。


「なら……『セイクリッド・スラッシュ』!!」


 宗近の聖なる一撃が地竜の身体に傷を刻みつける。


『ガアアアアアアアア!?』


 突然走った痛みに、地竜が藻掻く。


(アーツ)が有効だ! 通常の攻撃じゃ、半端な傷しか付けられない!」


 宗近の言葉に、全員がすぐに反応する。


「『スラッシュ』!」


 愛羅は、宗近が刻んだ傷に合わせるように剣を振う。自分で新たに傷を負わせるよりも、そちらの方がより効果的にダメージを与えられると考えたからだ。実際、それは正解だった。表皮がなくなったので、愛羅の攻撃でも深々と斬り裂くことが出来たのだ。

 この間にも地竜は身体を動かして、どうにか脚の凍結をどうにかしようと藻掻いていた。地竜が藻掻いている間に、宗近、愛羅、クロウが傷を増やしていく。


「『セイクリッド・ピアース』!」

「『パワー・ウェーブ』!」

「『ダブル・スラッシュ』!」


 三人の(アーツ)が地竜の背中で炸裂していた。順調に攻撃出来ているように見えるが、地竜の身体の大きさからしたら、まだ小さな傷でしかない。ここからより致命的なダメージを負わせないといけない。

 地竜は、背中に乗る三人の事を煩わしそうに身体を揺らしていた。その間にガルシア達は、地竜の足元から離れていた。現状、ガルシア達が攻撃出来る箇所は、凍らされている脚のみとなる。拘束を続けるためには、ガルシア達は攻撃出来ないので、危険地帯と考えられる地竜の傍から離れたのだ。


「この調子なら、簡単に倒せるんじゃない?」


 一方的な状況に、愛羅は少し拍子抜けしていた。


「愛羅、気を抜くな。相手は、ドラゴンだぞ。ゲームでもドラゴンは強敵だろ?」

「確かに」


 二人のそんな会話に付いていけないクロウは、いち早く地竜の変化に気が付いた。


「二人共! 地竜の様子が変わった! 気を付けろ!」


 クロウの言葉で、二人の気が引き締まる。

 地竜は、その首を上げて、口を大きく開けていた。その口の中が赤熱していく。宗近達は嫌な予感に襲われ、地竜の傷口に剣を突き立てて、地竜の身体にしがみつく。

 その直後、地竜は自分の足元目掛けて炎を吐き出した。ドラゴン全てに備わっている攻撃方法で体内に存在する火炎器官から気管を通して炎を吐き出している。その経路故、口内及び気管などは炎に耐性がある。しかし、自分の脚に炎を吹きかけることなど、ほぼほぼないので、そちらには炎の耐性はなかった。そのため、地竜としても自分の足元に炎を吐きたくなかったのだが、脚の凍結をどうにかするにはこれしかないと判断し、行動したのだ。


「退避!」


 地竜から離れていたガルシア達の元にも炎の余波がやってきた。ガルシア達は、焼け死ぬ前に急いでその場から避難する。そして、その余波は、地竜の上にいる宗近達にも及んだ。だが、地竜に阻まれている分、地上にいるガルシア達よりはマシだった。


「くそ……熱いな……」

「サウナみたい……」

「まずいな……このままだと地竜が自由になるぞ。動き出せば、さっきまでとはひと味もふた味も変わってくるぞ!」


 宗近達は、クロウの言葉に頷く。地竜が自由になれば、先程よりも足場が安定しなくなる。地竜に安定的にダメージを負わせるなら、正面よりも背中からの方が効果的だ。だが、それは地竜がその場から動かず、安定した足場になっている場合だ。

 地竜が動き出してしまえば、その後はどうなってしまうか分からない。地竜の上にいる三人は臨機応変に動かなくてはならない。

 一方で地上の三人には、事前に想定していた作戦がある。


「想定以上に遠距離攻撃の威力が高いですね。大丈夫でしょうか?」


 ドルトルは、地竜の高威力放火に若干顔を引き攣らせていた。


「今回の戦いでは、想定通りに進む事はないと考えた方が良いだろうな。予定通り、千晶の魔法で再び拘束した後、マインが創り出す槍を投げつける。奴が弱ったと同時に俺達も接近して攻撃をする。正直なところ、宗近の攻撃で倒しきれると良いんだがな」

「想定通り進むと考えない方が良いんだろう?」

「ああ。基本的には臨機応変にな」


 ガルシアとライネルは互いに笑い合った。その直後、千晶が再び『アイスコフィン』を発動させ、周囲の炎ごと再び凍らせた。ただ地竜が吐き出した炎がある分、先程よりも氷結範囲が狭まった。


「うっ……失敗……」

「んなわけないでしょ。次の拘束の準備をしなさい!」


 マインはそう言って、ガルシア達の周囲に、氷や岩で出来た様々な槍を生み出した。そして、次の槍を生み出す準備を始める。ここからマインは補給要員になるが、他にも様々な状況に対応出来るように、二重三重に魔法を用意している。その分、集中力を必要とする。恐らく、この中でマインが一番重労働となるだろう。

 ガルシア達は、マインが生成した槍を手に取り、地竜に向かって投げつける。ガルシア達が全力で投げつけた槍は、地竜の脚にどんどん突き刺さっていく。

 ほとんどは弾かれるだろうと考えていたガルシア達は、少し拍子抜けしていた。


「あいつの脚、罅割れていないか?」


 ガルシアの言う通り、地竜の脚は罅割れていた。ガルシア達は気が付いていなかったが、これは『アイスコフィン』で冷え切ったところに地竜の炎で熱され、さらに『アイスコフィン』で凍らされたことによって、起こった現象だった。これも想定外の事態だが、良い意味で想定外の事態だった。この調子なら、宗近の力で倒しきる事が出来るだろう。ガルシア達はそう考えていた。


「あの傷を治せないとは限らない。ここでたたみ掛けるぞ!」


 ガルシアの言葉にライネル達が頷く。そして、マインが生成してくれた槍を次々に投げつけていった。

 一方で、愛羅達も地竜の上で攻撃を再開していた。最初に付けた傷をどんどんと深く大きなものにしていく。その間に、宗近は剣を空に掲げて、集中していた。地竜が動けない状態の内にケリを付けてしまおうと考えているのだ。


「あれで倒せると思うか?」

「宗近の(アーツ)は、地竜にも効果がありましたから、大技なら倒せるんじゃないでしょうか?」


 クロウは、こんなに簡単にドラゴンが倒せるのかと疑問に思っていた。ここまで順調にいきすぎて、逆に不安を抱いているのだ。クロウの最近の経験では、上手くいっているとき程何かしらの問題が起こっている。それを危惧していた。

 そんな風な考えをしていると、宗近の準備が整った。空に掲げた剣から青白い光が放出されている。宗近は、その光を剣の中に抑えつけているため、少し辛そうにしていた。


「食らえ!! 『セイクリッド・トレント』!!」


 青白い光の奔流が、地竜のうなじ目掛けて放たれる。光の奔流は、地竜のうなじを突き抜けて、喉元から飛び出していった。喉を貫通したのだ。人間の常識的に考えれば、この状態は致命傷だ。

 地竜も血を吐き出して、頭を地面に付けて動かなくなった。


「やったか……」


 少し消耗した宗近は、地竜の状態を見てそう言った。だが、その考えを打ち消させるように、地竜の身体が震える。


「気を付けろ!」


 クロウの注意喚起が飛ぶ。その直後、地竜の身体が跳ねた。地竜は、凍結した脚を無理矢理引き剥がしていた。そのせいで脚が血だらけになるが、全く気にしていなかった。それ以上に、怒りで一杯になっているのだ。


『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』


 地竜は身体を上げて背中にいる宗近達を振り落とした。三人は、地竜の背を尻尾まで転がり、地面まで落ちた。


「ドルトル! 三人の元に向かえ! ライネル、こっちに気を逸らす!」

「分かった!」


 ガルシアの指示に従って、ドルトルは三人の元に向かう。そして、ガルシアとライネルは、地竜の気を逸らすために槍を次々に投げつけていく。

 それらを離れた場所から見ていたマインは、『アイスコフィン』を使おうとしていた千晶を制止する。


「もう拘束は効かない! 自分の身体がどうなろうと無理矢理拘束を突破してくると思う。千晶は、魔力の限り攻撃した方が良い!」

「わ、分かりました!」


 千晶は、用意していた『アイスコフィン』を棄却し、攻撃魔法の詠唱を始める。


「『今は亡き世界の火・全てを飲み込み全てを食らう・其は始まりの火・今一度世界を飲み込め』!!」


 詠唱と共に放ったのは、小さな青い炎だった。それは、まっすぐに地竜に向かって飛んでいき、その身体に命中して消える。誰もが不発かと思ったその技は、次の瞬間、その本領を発揮する。


『!?』


 突如、地竜の身体を青い炎が覆っていった。千晶が放った魔法は『インフェルノ』と呼ばれる魔法だ。小さい炎は、対象を指定する役目を担っており、命中した対象を高火力の炎で焼き尽くすというものだ。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 『インフェルノ』は、かなりの魔力を使うので、千晶も肩で息をしていた。『インフェルノ』に飲まれた地竜は、その火を消そうと藻掻いていた。


「やるわね。魔力が回復したら、今度はもう少し弱めの魔法を撃ち続けなさい!」

「わ、分かりました!」


 千晶の『インフェルノ』を見たマインは、他の強い魔法も使えると考えながらも、千晶にそう支持した。『インフェルノ』を食らっても、未だに藻掻き続けるところを見て、恐らくこれでは倒しきれないだろうと判断したのだ。絶え間なく魔法を繰り出し続ければ、小ダメージとなるだろうが、どんどんと蓄積させる事が出来るだろう。煩わしいと判断されれば、ガルシア達の援護としても十分だ。

 マインの方は、次々と槍を生成していく。藻掻いて暴れている地竜の足元をうろちょろしながら接近戦を挑むなど、無謀の極みだ。そんな事にならないように遠距離で攻撃出来る手段を作り続けないといけない。


「ここからは作戦の外側……こっちも皆の動きと奴の動きを見て、行動しないと……」


 マインは戦況を見ながら、次の行動を考えていた。

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