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最強のギルド職員は平和に暮らしたい  作者: 月輪林檎
最終章 最強のギルド職員は平和に暮らしたい

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尋問

 アイリスが倒れた翌日、リリアは、アイリスをキティに任せて、ギルドに出勤していた。ギルドに入り、制服に着替えたリリアの元にカルメアがやってくる。


「良く来てくれたわね。リリアは、裏方で書類の整理をお願いするわ。勇者の今後の修行場所を選定するために、少し散らかってしまったのよ」

「分かりました」

「それで、アイリスの様子はどう?」


 伝えなければならない連絡事項を伝えたカルメアは、アイリスの現状を訊く。病室から帰った後も、心配していたのだ。


「良くも悪くも変わりません」

「そう……なるべくなら早く帰してあげたいのだけど、処理しないといけない書類が多いのよね。残業をさせる気はないけど、定時までは帰れないと考えておいて」

「分かりました」


 カタリナと別れたリリアは、今日の勤務場所となる机に着く。机の上には、書類の山が複数出来ていた。


「うわぁ……」


 思っていたよりも多い書類の山に、リリアはなんともいえない表情になる。


「仕方ない。これも仕事だし、頑張ろう」


 リリアは、机に座り、早速一枚の書類を手に取る。


「ダンジョンについてのものだ。これも……これも……」


 リリアが処理すべき書類は、ダンジョンについてのものだった。その中でも、勇者の修行に向かなかったダンジョンについての書類が大量に積まれている。リリアは、それらを何故向かなかったのかという種類別に仕分けていく。

 今現在向かないダンジョンというだけで、これから先の修行には使えるかもしれない。その時になったら、すぐに選定出来るようにするという意味がある。

 リリアは、無心で作業を続けていった。


────────────────────────


 リリアは無心で作業をしている中、ガルシアは、領主の館まで来ていた。アルビオ達が行う尋問に立ち会うためだ。


「例の人物の様子はどうなっているのですか?」


 ガルシアは、隣を歩いているアルビオにそう問うた。


「ああ、ずっと同じ様子だ。にやにやと笑いながら、ぶつぶつと呟いている。こちらの質問に答えるかどうかは分からない」

「拷問まではやらない感じでしょうか?」

「いや、最悪の場合やる事になる。今回の件は、かなり重要な案件だ。強引な手段も辞さない気でいるべきだろうな。」

「魔王の復活。実際、魔王が復活しているとして、我々の勝率はどの程度だと思われますか?」

「どうだろうな。唯一の頼りである勇者があの体たらくだ。過去にあった被害よりも大きくなることは覚悟しておいた方がいいかもしれないな」


 そんな話をしていると、尋問室として使っている部屋に着く。前には、二人の兵が立っていた。


「ご苦労。中の様子はどうだ?」

「はっ! 変わりございません!」

「そうか」


 アルビオは、表情には出さずに落胆した。多少なりとも変わった事があれば、糸口を見つける事が出来るかもしれなかったからだ。


(さて、魔王教の事を聞き出せるかどうか)


 アルビオはそんな事を考えながら、尋問室の中へと入っていく。ガルシアも後に続いて中に入った。

 尋問室の中には、椅子に縛られた男がいた。痩せぎすの身体に落ちくぼんだ眼。だが、一番目につくのは、その貼り付いた笑みだろう。


「ひっひっひっひっ…………」


 アルビオとガルシアの姿を見ても、その様子は一切変わらない。


(こいつ……思っていたよりもイかれていやがる……)


 男の様子に、ガルシアは、愕然としていた。その間に、兵士が一人入ってきた。


「殿下、準備が出来ました」

「よし。始めるか」


 アルビオの目が、今までとは違い凍てつくような冷たいものなる。ここからは、甘さなど一切要らないからだ。

 アルビオは、男の正面に置いてある椅子に座る。


「おい。今から訊くことに答えろ。全てを答えれば解放しないこともない」

「ひっひっひっひっ…………」


 アルビオのこの言葉に、男は一切反応しない。先程と同じように笑っているだけだった。アルビオはお構いなしに質問していく。


「お前の名前は?」

「ひっひっひっひっ…………」

 この質問は、兵士が軽い尋問をした際にも訊いている。その時の答えはこの笑いだった。つまり、変わっていないという事だ。


(駄目か。こっちの質問には答えない。それは、今回も同じといったところか。なら、この質問はどうだ)


 アルビオは、若干虚ろになっている男の目を見ながら、次の質問をする。


「お前は、魔王教の人間か?」

「…………」


 こちらの質問に、男は初めて反応を示した。先程までしていた笑いを止めたのだ。そして、全ての感情を失ったかのように、無表情でアルビオの事を見る。その表情からは、狂気しか感じない。質問をしているわけではないガルシアの方が、汗を垂らしていた。


(何だ……こいつ、纏っていた雰囲気ががらりと変わったぞ……)


 動揺しているガルシアに対して、アルビオは一切動かされていなかった。


「お前の仲間はどの程度いるんだ? この街にもいるのか?」

「…………」


 男は、アルビオから何かを見通そうとしているのか、ジッとアルビオの顔を見ていた。


(反応を示したということは、魔王教の人間と判断して良いはずだ。後の問題は、アイリスに掛かった呪いへの関与だが……)


 無機質な目がずっとアルビオを見続けるだけで、その他の反応は一切ない。


「質問を変えよう。お前は、この街にいる誰かに呪いを掛けたか?」


 アルビオがこの質問をすると、男は急に笑みを浮かべた。それは、三日月のように裂けた狂気の笑みだった。

 この笑みに、調書を取っていた兵士は思わず息を呑んでしまったが、アルビオとガルシアは違った。


「何を笑っている? 呪いを掛けたのか? さっさと答えろ!!」


 アルビオの怒声は、周囲の空気を震わせる程だった。だが、男はニヤニヤと笑みを浮かべるだけで、答えようとしない。その様子に怒りを抑えることが出来なくなったガルシアは、男の胸倉を掴み、椅子ごと引っ張り上げた。


「お前が呪いを掛けたのか!? どうなんだ!?」


 ガルシアは鬼のような形相で、男に詰め寄る。常人であれば、すぐに罪を認めて吐き出すであろうこの状況においても、男は笑うだけだった。


「!!」


 堪忍袋の緒が切れたガルシアは、男の顔面に拳を叩き込んだ。椅子に縛られたままの男は、そのまま吹き飛び、壁に激突する。その衝撃で、椅子は壊れた。


「……!?」


 ガルシアに苦言を呈そうとしたアルビオは、吹き飛ばされた男を見て、戦慄する。手加減はされているとはいえ、白金級の冒険者であったガルシアの一撃を受けておいて、男は三日月のような笑みをしたままだったのだ。


「!!」


 怒りが収まらないガルシアは、再び拳を握って男に近寄ろうとするが、その前にガルシアに制止された。


「落ち着け。今殺したら、情報が手に入らん」


 ガルシアは、舌打ちをしつつ後ろに下がった。アルビオは、ガルシアが吹き飛ばした男に近づいていく。


「このまま何も吐かないようなら、一生拘束したままになるぞ。さぁ、吐け。お前がアイリスに呪いを掛けたのか!?」


 男の胸倉を掴み強制的に起こしながら、怒鳴りつける。これでも笑うだけ。アルビオは、調書を取っていた兵士に目配せする。兵士は、敬礼をしてから部屋を出て行った。そして、大量の拷問器具を載せたカートを押して帰ってきた。


「これからお前を拷問に掛ける。情報を吐くまで何日でも続くぞ。下手すれば、お前は死ぬかもしれないな」


 アルビオの言葉を聞いた男は、今までの笑みとは違う満面の笑みになる。突然の変わり方に、アルビオもガルシアも眉を顰める。


「……殺せ……それで……俺は……あの方の……元へ……ひっ……ひっひひひっ……」


 尋問を始めてから、初めて男が口を開いた。だが、それは質問の答えでは無かった。


「魔王教信徒の考えか……死ねば、魔族に蘇り、魔王の元に行けると」

「ひっ……ひひひっ……ひひひっ……」


 アルビオは、笑い続けている男を冷たく見下ろす。


「やれ」

「はっ!」


 アルビオの命令で、兵士が動く。新しい椅子に男を縛り付け、ペンチを手に取った。そして、右手の薬指の爪を剥がした。


「!!」


 男は一度身体を揺らして苦しんだものの、そのニヤけ面が変わる事はない。


「これでは通用しないみたいだな。いや、拷問自体意味のないことか……」

「殿下、如何なさいますか?」


 兵士は、続きを行うべきかどうかの判断を仰ぐ。


「道具は片付けろ」

「はっ!」


 兵士は、拷問道具を片付けに向かう。


「これが、最後の質問だ。アイリスの呪いを解く方法を知っているか?」

「ひひっ……ひっひひひひひひひひひひひひひひひ……」


 アイリスの呪いを解く方法を訊いた瞬間、先程以上に笑い始める。耳障りな声を出している男の首を、アルビオが掴み絞める。


「あがっ……」


 完全に絞められ笑えなくなっていた。


「もう一度訊く。アイリスの呪いを解く方法を知っているのか!?」


 男は苦しみながらも、にやっと笑った。アルビオは、首から手を放す。


「ごほっ! げほっ!」

「答えろ。どうすれば、呪いが解ける?」

「ひひひっ……呪いは俺の手を離れた……ひひひっ……」


 男の答えに、アルビオとガルシアは眼を合わせる。男の言っている意味が分からないという事では無い。二人が考えているのは、この男から離れて、誰のものになっているのかだった。


「お前からは、他にも話を聞く必要があるな。こいつを牢に繋げ! 生かして利用する」

「なっ……!?」


 男は、初めて狼狽した表情を見せた。


「殺せ! 俺を殺せ! 殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!!」


 男は血走った目でアルビオに向かって叫ぶ。


「お前は、生かしておいた方が罰になるだろう」


 男は絶望したような表情になり項垂れた。


「猿轡もさせておけ」

「はっ!」


 男は猿轡をされ、兵士に連れて行かれた。耳障りな男の笑い声がなくなった部屋で、ガルシアがアルビオに話しかける。


「殿下。あいつの話をどう見ますか?」

「ああ。一番気になるのは、アイリスの呪いが誰の物になっているかだ。昨今の状況から考えると、真っ先に疑われるのは、魔王だな」

「つまり、魔王を倒さなければ、アイリスの呪いは解けないと……」

「可能性の話だ。あいつが本当の事を言っているとも限らん」


 アルビオの言葉に、ガルシアも頷く。


「結局、尋問の意味はなかったな」


 アルビオは舌打ち混じりにそう言った。


「そうですね。では、私は仕事に戻らせて頂きます。立ち会わせて頂きありがとうございました」

「ああ」


 ここでアルビオとガルシアは別れた。元々尋問の立ち会いをするというだけだったからだ。ガルシアにも他の仕事がある。

 ガルシアの去った部屋で、アルビオは、深くため息をついた。

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